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キックオフ間近。青いジャージーの背番号2が大きな拍手の中、仲間たちより少し先にピッチに駆け込んできた。
この日は白いジャージーだった対戦相手の9番も、チームメートよりひと足先に熊谷ラグビー場の芝の上に立った。
4月5日(土)におこなわれたリーグワン、ディビジョン1の埼玉パナソニックワイルドナイツ(2位)×トヨタヴェルブリッツ(10位)は、それぞれの中心選手、坂手淳史主将(HO)と茂野海人(SH)にとってトップリーグ・リーグワン通算100試合出場という節目の一戦となった。
ともに、長くチームを支えてきたベテランの、記念すべき日を勝利で迎えたい気持ちに溢れていた。後半20分まで、24-17と競る試合になった(ハーフタイムは24-12でワイルドナイツのリード)。
しかしファイナルスコアは55-17。常に先手を取ってゲームを進めたワイルドナイツが終盤に5トライを重ねて一気に引き離して勝った。
最終的には大差となった試合も、見どころの多い試合だった。
ワイルドナイツは試合を通して常に選手たちがつながり、終盤はそこが相手との一番の差となった。
ヴェルブリッツは個々の強さや能力が高く、トライ奪取時はいつも鮮やかだった。
そして、両チームからは未来図が見えた。
ワイルドナイツは3番にアーリーエントリーで今季途中に加入したリサラ・フィナウ、10番には昨季加入、今季デビューを果たした齊藤誉哉を起用。ベンチにも新人の谷山隼大を入れた。
ヴェルブリッツもSOを小村真也、6番を青木恵斗と、アーリーエントリーの選手に託した。
フレッシュマンたちが躍動した試合でもあった。
前半5分。ワイルドナイツがピッチ中盤を見事に攻略してWTB竹山晃暉がインゴールに入った鮮やかなトライはTMOの結果、キャンセルとなった。
しかし11分、ラインアウト後のモールを押したワイルドナイツは、坂手主将が仲間のサポートを得てトライライン越えて先制トライを奪う。この日の主役がきっちり働いて、試合は動き始めた。
ジャパンラグビー リーグワン2024-25 D1(4月5日)
【 第14節 ハイライト動画】埼玉ワイルドナイツ vs. トヨタヴェルブリッツ
ここからの30分で、ワイルドナイツは3トライを追加し、ヴェルブリッツは2トライと点を奪い合う。
ワイルドナイツのトライは選手たちの連係がとれており、防御を崩して取り切るケースが多かった。前半37分のフィナウの5得点は、2試合続けて先発起用の期待に応える初めてのトライだった。
ヴェルブリッツは、敵陣に攻め込むと、短い時間で得点を挙げるパワーとスマートさを見せた。
18分にはゴール前スクラムからシンプルに前に出て、最後はLOジョシュ・ディクソンが攻め切った。
そして30分のWTBジョセフ・マヌのトライは、SO小村のキックパスを高い跳躍でキャッチし、そのままインゴールに入ったもの。練習時からイメージを共有していたからこそ生まれたものだった。ラグビー・リーグ出身のマヌらしさ満点のプレーだった。
後半に先手を取ったのはヴェルブリッツだったが(6分、モールからHO彦坂圭克)、20分からの攻防に両チームの地力、コネクトの質の差が表れた。
青いジャージーはベンチから出てきた選手たちのレベルが高く、特にLOルード・デヤハーの動きは相手防御を下げ、チームに勢いを与えることになった。
アクシデントで前半27分からピッチに立ったCTB谷山の運動量も多く、徐々に運動量と判断の速さで上回ったワイルドナイツは、後半21分、デヤハーが波状攻撃の最後を締め括った。
29-17とリードを広げると、一気にギアを上げる。テンポを上げてフェーズを重ね、フレッシュレッグスがディフェンダー間に走り込んで前に出続けた。
24分、31分、34分、39分のトライラッシュは圧巻だった。
FL三木皓正がレッドカードを受けてヴェルブリッツがラスト20分を14人で戦ったとはいえ、ワイルドナイツのベテランと若手の力が噛み合った勢いを感じる時間だった。
ワイルドナイツはこの勝利でプレーオフ進出を決めた。ロビー・ディーンズ監督は、キャプテンの節目の試合に快勝し、「楽しい一日になった」と笑顔を見せた。そしてクライマックスへ向かう日々について、「自分たちがやるべきことを伸ばしていくだけ」とした。
坂手主将も「まだまだ伸びていけると確信できた」とチームのパフォーマンスを喜び、自身についても「もっとラグビーの幅を広げていきたい」と、進化への意欲を口にした。
敗れたヴェルブリッツのスティーブ・ハンセン ヘッドコーチは、スコアだけならワンサイドとも見える試合を「決してそうではなく、レッドカードが出て(大事な時間帯に)14人になるまでの選手たちのプレーは誇りに思う」と前を向いた。
ワイルドナイツの完全復調とヴェルブリッツの潜在能力。そして、楽しみな若い選手たちの存在を確認できた80分だった。
文: 田村 一博
田村一博
前ラグビーマガジン編集長。鹿児島県立鹿児島中央高校→早稲田大学。早大GWラグビークラブでラグビーを始める。ポジションはHO。1989年、ベースボール・マガジン社に入社。ラグビーマガジン編集部に配属される。1993年から4年間の週刊ベースボール編集部勤務を経て、1997年からラグビーマガジン編集長に就く。2024年1月に退任し、現在は編集者、ライターとして活動。
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