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埼玉パナソニックワイルドナイツ、ラストゲームを前にした堀江翔太、決戦を前にした松田力也に話を聞く。リーグワン プレーオフ決勝
ラグビーレポート by 斉藤 健仁ワイルドナイツでラストプレーとなるHO堀江
5月22日(水)の午後、リーグワンのプレーオフファイナルに向けて「王座奪還」を掲げる埼玉パナソニックワイルドナイツが、チームのグラウンドで練習した。ただ、ファイナル前だからと言って特別に非公開にするわけでもなく、いつも通り、ファンも100人以上が見学する中でのトレーニングだった。
夏を感じさせる晴天の中、アタック、キックオフ、ユニット練習、個人練習など1時間ほど行った後、金沢篤BK(バックス)コーチ、司令塔であるSO(スタンドオフ)松田力也、そして今季限りで引退を表明しており、決勝戦が国内最終戦となる『ラスボス』、HO(フッカー)堀江翔太がメディアに対応した。
昨季はファイナルで敗れて悔し涙を飲んだワイルドナイツ。今季は開幕からリーグ戦で全勝、クロスボーダーマッチも入れれば17連勝。首位でプレーオフに臨んだ。準決勝では、4位の横浜キヤノンイーグルスに苦戦したものの、20-17と逆転勝利、リーグワンになってから3シーズン連続で決勝に進んだ。
「上にいるチームしか感じられない、僕らしかないプレッシャーがあった。4位と1位と比べると、下から上に上がるほうがやりやすい。個人にとって、いい成長にもつながると思うが、そのプレッシャーに1人1人が打ち勝てるようにしてほしい」(堀江)。
アタックを引っ張るSO松田力也
準決勝では、得意のランで逆転トライの起点を作ったSO松田は、「準決勝は本当に課題の残るゲームになり、プレーオフのしんどさがわかった試合になって、いい反省となった。ただ、勝って反省できたことは収穫で、あの流れでも勝てたのは自信となった」と話した。
堀江も「準決勝は気合が入っているように感じたが、絶対に勝たないといけないと、プレッシャーで縮こまっていたのかもしれない。ゲーム中のコミュニケーションが取れておらず、個人の仕事、役割の部分が明確になっていなかったので、この1週間で修正したい」。
「ただ、ポジティブに考えれば、同じことが起きて負けたのが昨季の決勝だった。それでも勝てたのは、コミュニケーション以外のところで、対応力の成長した部分があったのかも」と振り返った。
HO堀江(左)と坂手淳史キャプテン
もともと、『堅守速攻』が伝統的なチームカラーで、「逆転のワイルドナイツ」と呼ばれていたが、今季は試合の入りから、ボールをしっかり継続したり、ラインアウトのモールからトライを挙げており、得点力が上がったことがチーム力につながっていると言えよう。
昨季のワイルドナイツの総得点は539でリーグ4位、トライ数は69トライで5位だった。しかし、今季は747得点、106トライはダントツのトップで、とくに前半だけ見ると、昨季の275点から369点と大きく上昇している。
昨季と大きくメンバーが変わっていないのがワイルドナイツの強さの1つ
今季はワールドカップ直後の開幕だったが、ワイルドナイツには新しく大物外国人選手が入ることもなく、選手が大きく変わらず一貫性があったことが、影響していることは間違いない。
ワールドカップで南アフリカの優勝に大きく寄与したCTB(センター)ダミアン・デアレンデ、オーストラリア代表のWTB(ウィング)マリカ・コロインベテ、元南アフリカ代表LO(ロック)ルード・デヤハーの3人は昨季同様、今季も変わらずチームにフィットしていた。
慶應義塾大学の指揮官から、ワイルドナイツに映って5年目の金沢コーチ
アタックを担当している金澤BKコーチは「一番はコンタクトエリアでの判断です。チームでは、前を見ることを『アウェア』(aware)と呼んでいますが、(接点担当の)青柳勝彦FW(フォワード)コーチと一緒に、狭いエリアでもそれができるように一緒に作り上げて、今季精度が上がっている」。
「BKだけでなく、FWも密集したエリアで前を見ているのが、昨季との違い。それができているので、ボールの継続率も上がっているし、自分たちの持っているアタックが体現できている」と話した。
また、アタックのタクトを握るSO松田も、「もともとチーム全体として、後半からスイッチを入れる、というプランではやっていない。昨季の決勝も含めて、ちょっとした油断や、やられたらやりかえすという部分が少なからずあった」。
「しかし、今季は最初からスペースがあればどんどんアタックするし、強気でスコアを狙っていくことができている。もちろん、(昨季とほぼ)同じメンバーでやれているところも大きい。みんなの特性、癖もわかっているし、チームとして深みが出てきている」と胸を張った。
決勝戦の相手は、トップリーグを含めて、14シーズンぶりの優勝を目指している2位の東芝ブレイブルーパス東京。決勝での両者の対戦は、2015-16シーズン以来で、このときはワイルドナイツが27-26で勝利している。
昨季の借りを返したいSO松田
松田は「ブレイブルーパスはチームの歴史的にも一緒に戦ってきたチームだし、簡単な試合にならないし、しんどい試合が待っていると思うが、自分たちのラグビーをしたチームが最後、笑っていると思う」。
「(対面での対戦が予想される)SOリッチー・モウンガは、キーマンなのでプレッシャーをかけたい。そんなに意識はしていないが、ただ好きなようにやらせたくない。同じ歳なので、そういう部分も含めて負けられない」と腕を撫した。
堀江も「ブレイブルーパスは新しい外国人選手が2人入って、アタック、ディフェンスともにバランスが取れた強いチームなので、僕らも受けずに挑戦していきたい。こっちもアタックとディフェンス、両方いい状態で、バランス良くプレッシャーを与えたい」と話した。
また、堀江とワールドカップで一緒に4回出場したブレイブルーパスのキャプテン、FL(フランカー)リーチ マイケルについては、「リーチはキャプテンだし、誰にでも信頼されるプレイヤーなので脅威。出てくれなければ、出てくれないで好都合だが、別にやりたいと思っていない(苦笑)」。
改めて、ファイナルでどんなプレーをしたいかと聞かれて松田は、「昨季のファイナルは自分のプレーもできずに悔しい思いが残っている。自分たちのラグビーができていない感じにはしたくない」。
「ファイナルだからこそ、自分たちのラグビーができるように、ワイルドナイツがこれまで積み上げてきたものを、みんなが出せるようにチームをオーガナイズしたい。いつもと同じ準備をして、決勝の舞台を受け入れて楽しみたい」と意気込んだ。
堀江は「どんな状況で試合に出ても、チームにいい影響を与えたい。うまいことチームが回るか、ゲーム中に修正していったり、意識高めていったりして、チームの勝利に貢献するように動き続けたい」。
ディフェンスラインで声を出し続ける堀江
「一生懸命ハードワークし過ぎると、周りとのコミュニケーション取れなくなってしまうし、チームはアタックもディフェンスも、きっちり決められていることが少ないので、プレー中のコールのクオリティが高くないとできない。準備の中でベーシックはコミュニケーションだよ、とチームに言っていきたい」と冷静に話した。
決勝戦は堀江、そしてSH(スクラムハーフ)内田啓介のワイルドナイツでの最後の試合となる。
今季限りでの引退を表明しているSH内田啓介
松田は、「堀江さん、ウッチーさんの最後の試合だと考え過ぎると硬くなるので、いつも通りやることがチームへの貢献になるし、終わって勝っているのがベスト」としみじみと語った。
国内ラストダンスになるHO堀江本人は、「(国立のような)いい会場でできるのはなかなかないので、感慨深いし、最後に決勝に出られるのは感謝したい。1つのチームでやり続けることはなかなかないので、何となく終わりか、という感じ」。
「決勝のために一歩ずつ、チームとして頭を働かせる癖がついたので、いろいろ考えるのは、引退して数週間して、もうトレーニングしなくてもいいと思ったときだと思う」。
「決勝ではいつも通り、ハードワーク、一生懸命している姿を見せたい。アラフォーのおじさんでも頑張っている姿を、常に見せたいと思っている。結果はどうあれ、勝っても負けても、せっかくやってきたのに出さないのは後悔になるので、やってきたことを出すことに集中したい」と笑顔を見せた。
昨季の借りを返すべく司令塔のSO松田がアタックをリードし、後半からの出場が予想されるHO堀江が試合を締めた先には、きっと、青い歓喜が待っている。
文/写真:斉藤健仁
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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