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埼玉ワイルドナイツ vs. 横浜キヤノンイーグルス
チャレンジャーにとっては、不都合な事実が並ぶ。
5月18日(土)に秩父宮ラグビー場でおこなわれるリーグワン、ディビジョン1のプレーオフトーナメント準決勝。埼玉パナソニックワイルドナイツ×横浜キヤノンイーグルスの戦いを予測する時、過去の対戦成績をもとにするなら、前者の圧倒的有利を否定するものは何もない。
レギュラーシーズンでの今季2度の対戦は、53-12、43-14と、ワイルドナイツが圧倒している。それも、直近の対戦は2週間前のこと(5月4日)。
情勢に大きな変化がないことは明らかだ。
さらに、OPTAのデータはさらに遡って青いジャージーの有利さを伝える。
トップリーグ時代も含め、ワイルドナイツはイーグルスとの対戦で現在15連勝中。1試合平均27.6点差をつけている。
データは過去の客観的事実にすぎず未来を映し出さないとはいえ、ワイルドナイツは勝ち方を知っている。
特に、負けたら終わりのステージでの経験値の差は大きい。昨季、同じ準決勝で対戦した時も51-20と差がついた。ファイナルラグビーの経験が豊富なワイルドナイツは、初めてその舞台に立った相手を飲み込んだ。
いつも通りに戦うことが勝利の近道となるワイルドナイツは、ベストコンディションのメンバーで準決勝に臨む。
ロビー・ディーンズ監督は、WTBマリカ・コロインベテを先発で起用できるのは、8番のジャージーを着る大西樹の成長が著しいからと話す。
福井翔太をベンチスタートとし、後半の勝負どころで投入できることも大きい。
「継続的にインパクトを与えられる」と指揮官は80分を通してのゲームデザインを頭に浮かべる。理想を現実のものとできる選手層の厚さがある。
「シーズン中も成長し続けよう」
HO坂手淳史主将は仲間たちにそう言い続けてきた。
同主将は、「昨年の決勝で負けた悔しさはエナジーにはなっているが、現在の力は、チームが変化し続けようと意志を持ち続けてきたから」と話す。
個々の進化による競争の激化。その中でも、クライマックスの時期にベストメンバーを揃えられたのは総体的なチーム力の充実と、一人ひとりの意識の高さゆえだ。
プレーオフトーナメントの舞台においては、高いレベルでの一瞬一瞬の判断が勝負を左右する。ワイルドナイツが得意とするところでもある。
好機をいかにスコアに変えるか。その領域でもワイルドナイツは秀でている。
今季敵陣22メートル内へ入り込んだ回数は206回。逆に、自陣22メートル内に侵入されたのは111回。その差95回はディビジョン1でトップの数字だ。高度なエリアマネジメントが伝わる。
さらに、敵陣22メートル内侵入時の1エントリーあたりのワイルドナイツの得点数は3.46。これは、同3.50の東芝ブレイブルーパス東京に次ぐもの。
レギュラーシーズン16戦全勝の安定感を裏付ける。
準決勝で7番を背負いプレーするラクラン・ボーシェーは今季ターンオーバーを15回成功。これは、コベルコ神戸スティーラーズのアーディ・サベアと並びD1で最多となる(いずれもOPTA調べ)。
勝敗を分けるブレイグダウンの主役に注目したい。
不利な情報が並ぶ中でイーグルスがアップセットを起こすには、積み重ねてきたことをさらに尖らせながら、相手を驚かせることが求められる。
その一手として、シオネ・ハラシリを7番で先発させる。沢木敬介監督は、「まずは先制パンチを喰らわせるためには、彼の力が必要」と話す。
指揮官は、試合巧者との戦いに勝利するには「攻め勝つしかない」とイメージを描いている。
ただ、ガムシャラに攻めていてもだめだ。「ボールを持っているだけでは崩せない。(防御が)乱れるタイミングを見計らってプレーすることが大事」。
自分たちの攻撃が機能する状況を作り、そこで仕留め切るイメージだ。
何度も敗れ、相手の強みはよく理解している。イーグルスの選手たちの体感は、「ボールを長く持って継続していると、その途中で圧力を受けて取り返される」というもの。
つまり、少ないフェーズでトライを取り切ること。スコアすることが大事になる。そのための仕掛け、策士である沢木監督のアイデアが楽しみだ
CTB梶村祐介主将は、ブレイクダウンの攻防の重要性に言及する。
「それは、必ずボールキャリーから始まります。まず、キャリアーが低く、激しくプレーし、ブレイクスル―することが大事。そして相手にジャッカルをさせないように、セカンドマンのレースで負けないこと」
3試合ぶりにピッチに立つSO田村優は、「自分たちの中だけでも自信を持って(試合に)臨むことが大事」と言う。
「周りは相手が勝つと思っているでしょう。何かを起こす時って、チーム内に自信があるとき。そういう状態になっていれば、1パーセントでも勝利の確率があるならチャンスは訪れる」
「僕は何度もそういうことを起こしてきた」と話す司令塔のパフォーマンスが、勝負に直結することだけは間違いない。
田村一博
前ラグビーマガジン編集長。鹿児島県立鹿児島中央高校→早稲田大学。早大GWラグビークラブでラグビーを始める。ポジションはHO。1989年、ベースボール・マガジン社に入社。ラグビーマガジン編集部に配属される。1993年から4年間の週刊ベースボール編集部勤務を経て、1997年からラグビーマガジン編集長に就く。2024年1月に退任し、現在は編集者、ライターとして活動。
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