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パワーゲームであり心理戦。ラグビーは深い。
4月13日(土)にIAIスタジアム日本平(静岡)でおこなわれた静岡ブルーレヴズ×クボタスピアーズ船橋・東京ベイは死闘となった。
クロスゲームが予想された一戦のファイナルスコアは31-31。最後の最後まで勝負の天秤は大きく揺れ、期待に違わぬダイナミックさとスリリングさが入り混じった戦いとなった。
両チームの前半と後半の顔がまったく違う展開だった。
最初の40分を31-7と大きくリードしたのはスピアーズ。オレンジのジャージーは背番号に関係なく躍動した。
昨シーズン王者の現在地は、プレーオフトーナメントへの進出条件である4強入りの可能性が僅かに残っている状況だった。
今季第3節、昨年12月24日の対戦時には19-23とブルーレヴズに敗れているから、この日はリベンジと必勝の気持ちで溢れていた。
その胸中が見える前半だった。
スクラムこそ圧力を受ける局面があったものの、「全員で同じ絵を見てプレーする」(CTB立川理道主将)理想的な動きを遂行した。
前半12分に主将自ら挙げた先制トライを皮切りに、チームは31分までにインゴールに5回入る最高の滑り出しを見せた。
ベストトライは前半20分過ぎ、ハーフウエイライン付近での右ラインアウトからのアタックで挙げたものだったか。
スピアーズはHOデイン・コールズがロングスロー。それをCTB立川理道がキャッチし、回り込んできたSOバーナード・フォーリーに渡した。
コンバージョンキックも決まり、スコアは26-0と開く。フラン・ルディケ ヘッドコーチは選手たちが前半に見せたパフォーマンスについて、「(全員が)落ち着いて、過去の反省を生かし、さらに楽しんでプレーできていた。アタックマインドを見せられた」と評価した。
ジャパンラグビー リーグワン2023-24 D1
【第13節ハイライト動画】静岡ブルーレヴズ vs. クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
しかし、スピアーズが80分を通して挙げる得点は、それから10分後に生まれたFB島田悠平のトライまでだった。
その攻撃も、サポートが湧き出て奪ったもの。勢いは、さらに増すと考える人が多かっただろう。
つくづく思う。ラグビーは深く、勝負は簡単ではない。
24点差をつけられてもブルーレヴズの闘志は消えていなかった。
もともと、後半にパンチ力のある選手たちを投入して試合の主導権をつかむプランを描いていた。
藤井雄一郎監督は、「(先に)点を取られ過ぎましたが選手たちは諦めていなかった」と話した。
熱烈なファンの応援とともにチームに勇気を与えたのは、若い力だった。
後半の最初から投入された25歳、今季からチームに加わったNO8シオネ・ブナ(日野レッドドルフィンズから移籍)が躊躇のないボールキャリーで前に出る。
12分、13分にピッチに入ったLOヴェティ・トゥポウ、PRショーン・ヴェーテーは、それぞれ摂南大、環太平洋大から今季途中にアーリーエントリーで加わった選手たちだ。
ヤングパワーの作り出したモメンタムもあり、CTBチャールズ・ピウタウらの実力が相手を翻弄するようになる。9分、18分、34分とトライを重ねて26-31と迫った。
試合終盤に近づく時間帯、スピアーズは反則の繰り返し、危険なプレーで、続けざまにイエローカードを受けて人数を減らしていった。
声援のボリュームが大きくなった後半38分には13人になっていた。
5点リードでその時を迎えたスピアーズの立川主将は試合後、ラストシーンのプレー選択を、SOに入っていた自身と、NO8ピーター・ラブスカフニ、SHを務めていた岸岡智樹と話し合い、決めたと話した。
13人対15人と2人少なく、自陣ゴール前でのマイボールスクラム。そこからFWの近場でブレイクダウンを繰り返し、時間の経過を待つことにした。
残り2分で組んだスクラムから、フェーズを積み重ねること8回。キックオフから80分が経過したことを告げるホーンがなる中で平川哲也レフリーが笛を吹き、右手があがる。ブルーレヴズにPKが与えられた。
タップキックから攻めた青いジャージーには、ファンの声援を受けて、勢いと結束力があった。
トライラインに力強く迫り、最後は途中出場の背番号19、トゥポウがディフェンダーの上からボールをインゴールに押し付けて同点トライを奪う。81分を過ぎていた。
勝ち越し決勝のゴールはファリアが外したものの、スタジアムの空気は最高潮に達した。
ベテランと若手の力がミックスされ、大きなパワーが生まれた。劣勢を跳ね返してドローに持ち込んだブルーレヴズの藤井監督は、「何か強いところを持っているけど、弱いところもある選手たちばかりですが、強いとこを出して戦えた」と、チームの秘める可能性に相好を崩した。
ゲームキャプテンを務めたFL庄司拓馬も、「もっとやれる」とファンへ熱いメッセージを発した。
スピアーズは、この日の結果を受けてプレーオフトーナメント進出の可能性は限りなく遠くなった。
立川主将は、「勝つべき試合だった」と総括し、後半について「相手のペースになり、反則が増えてしまった。もっとレフリーとのコミュニケーションとらないといけなかった」と話し、フラストレーションを感じる試合だったと振り返った。
ただ、昨季王者の誇りは失わない。自分たちの積み上げたものを残り3試合で出し切る。
田村一博
前ラグビーマガジン編集長。鹿児島県立鹿児島中央高校→早稲田大学。早大GWラグビークラブでラグビーを始める。ポジションはHO。1989年、ベースボール・マガジン社に入社。ラグビーマガジン編集部に配属される。1993年から4年間の週刊ベースボール編集部勤務を経て、1997年からラグビーマガジン編集長に就く。2024年1月に退任し、現在は編集者、ライターとして活動。
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