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ラグビー コラム 2023年12月26日

『自主性』『時短』で競技に打ち込む静岡聖光学院、超アタッキングラグビーで花園に挑む。全国高校ラグビー大会

ラグビーレポート by 斉藤 健仁
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今季、静岡では無敗の静岡聖光学院。ベスト8を目指す

いよいよ12月27日(水)から、大阪・東大阪市花園ラグビー場を中心に始まる「花園」こと、全国高校ラグビー大会。103回目を迎える今大会の注目校を紹介していきたい。

2年ぶり8度目の花園出場を決めたのが静岡聖光学院(静岡)だ。27日の1回戦で、71回と最多出場を誇る東北王者の秋田工業(秋田)と対戦する。

「文武両道」を掲げている中高一貫のカトリック系男子校の静岡聖光学院は、1/3ほどの生徒が寮生活をしている。また、学校の規則としてどの部活も火・木・土しか練習することを認められていない(日曜日は試合などの日もある)。また、平日は1時間半(11月から1月の冬季は1時間)と『時短』で競技に打ち込んでいる部として全国的にも知られている。

そんな静岡市の高台にある男子校に昨季、新たに監督に就任したのが、松山吾朗監督(46歳)だ。松山監督の経歴はユニークである。福岡・東筑高出身で、早稲田大学ラグビー部を経て、警視庁で3年勤務した後、神奈川県の教員の道へ。横須賀高校ラグビー部などを強化し、平塚工科高時代にはラグビーの普及を目的として高校生の年代であれば誰でも加入できるクラブチーム「湘南アルタイルズ」も発足させた。

就任2年目の松山監督。選手たちからは「ゴローさん」と呼ばれる

2年前、前校長である星野明宏氏(現・東芝ブレイブルーパス東京プロデューサー)、奥村祥平前監督が、平塚工科高を訪れて「静岡聖光学院に来てほしい」と誘われた。最初は藤沢から引っ越せないと断っていたが、松山監督は「県立の教員として強化、普及の限界はこのくらいかな…。ここで断ったら一生引きずる。花園に出たいという気持ちも内心なくはなかった」と勝負をかけることを決めた。

往復5時間ほどかかるが、登校時間を調整してもらうなどして松山監督は昨季から静岡聖光学園ラグビー部の監督に就任した。赴任前から「自主性、時短にフォーカスされているが、いいクラブ、強いクラブを作るのに魔法はない」と考えていた通りだったという。最初のミーティングで、学生の前で「効率よく上手くやっても強くならない。全体練習できるのは1週間で6~8時間。残りの160時間は自分たちの時間。そこでどれだけ努力できるか」と諭した。

この日も全体練習は1時間で終わった

全体練習こそ、コーチ陣がコントロールしているが、毎日の朝練習は選手たちに任せており、毎朝1時間弱、ウェイトトレーニングをしたり、足らないスキルの練習を自主的にしたりしている。また、必要があれば選手たちは昼に集まってミーティングをしている。

現在、部員は35名(3年生8人、2年生12人、1年生15人)おり、ほとんどが静岡聖光学院中学からラグビーをしている生徒だったが、部活の時間が短いため、スピード、スキルがある選手が多くいたものの、キック、ディフェンス、モールにこだわっていたという。松山監督就任1年目の昨季は、選手たちの判断で以前までのラグビーを貫いたこと、また、東海大静岡翔洋が強いチームだったこともあり、花園予選決勝は12-22で敗戦した。

ただ、松山監督は「自分たちで決定権を持ってプレーを選んで、ラグビーを楽しんでほしい」という思いから、提案はするものの、戦略や戦術で朝練習や昼のミーティングで生徒がしたいラグビーを選んだら、生徒の意見を尊重しているという。指揮官は「提案するが却下されて、よし!という感じです。こちらから整えても心が動いていないと身にならない」と話す。

花園はアタックで勝負する

就任2年目の今季は「付属中学からラグビーをやっている選手がほとんどで、副将FB(フルバック)小野澤(謙真)など、昨季以上に素晴らしいスキル、スピードを持った選手がいるのに攻めないのはもったいない。20点取られても50点取ればいい。個性を活かそう」(松山監督)とディフェンスとモールを軸としたラグビーから、アタッキングラグビーにシフトした。また、帝京大学で10年間ほどBK(バックス)コーチを務めていた細野太郎コーチも新たに教員として加わったこともチームを後押しした。

その成果もあり、5月の高校総体は東海大静岡翔洋を61-12で圧倒し、東海大会は静岡県勢では13年ぶりに決勝に進出した。夏の7人制の全国大会では予選プールでは花園で対戦する秋田工業、松山聖陵(愛媛)に勝利し、カップトーナメントに進出。常翔学園(大阪)には敗れたが、天理(奈良)にも勝利して全体11位という好成績を収めた。そして、秋の花園予選決勝ではライバルの東海大静岡翔洋を19-12で下して、県内4冠を達成。2年ぶり8回目の花園出場を決めたというわけだ。

藤田主将(左)と小野澤副将

FW(フォワード)の中軸はLO(ロック)虎岩壱悟、キャプテンFL(フランカー)藤田武蔵らで、展開力のあるBKはSH(スクラムハーフ)藤田豪太郎(3年)、SO(スタンドオフ)古瀬莊(2年)、WTB(ウィング)土屋嘉之介(2年)、FB小野澤ら能力の高い選手が揃う。ただ、2年前の花園を経験している選手はキャプテンFL藤蔵、副将のFB小野澤しかおらず、松山監督も含めて初の花園出場となる。

ケガから14ヶ月ぶりに復帰したというキャプテンのFL藤田武蔵(3年)は「今までの最高成績は2回戦で、優勝となると見えにくくなるので、目標はベスト8に掲げました」。

そして、「組織目標が『日本一魅力的なクラブ』で、スローガンは『タフチョイス』を掲げました。花園予選決勝はあまり上手くいかなかったですが、相手を置き去りにするような、超アタッキングラグビーをしているので、花園では自分たちのアタックを存分に見せたい。個人的にはアタックでチームにインパクトをもたらして、チームが苦しいときに相手に突き刺さるようなタックルをしたい」と語気を強めた。

また、元日本代表の名WTBだった宏時さんを父に持つFB小野澤も「昨年(半年間)の豪州留学はコンタクトの部分で慣れて、自分で練習する時間を見直していい経験になりました。静岡聖光学院は、練習時間は短いですが6年間、一緒にやっているので、チームメイトの特徴がわかっている。自分たちから仕掛けてアタックしたい。個人としては花園でトライを取ったことがないのでトライを取りたい」と意気込んだ。

指揮官として初の花園となる松山監督は「花園は(自分が)高校から憧れていた場所ですが、ステージの高さでラグビーの幸せ感や喜びは関係ない。1回戦で負けるチームでも、クラブチームでも、ラグビー文化を理解してその喜びを享受し、花園出場校に負けないエンジョイと幸せになれていたと自信を持っています。生徒たちには自分たちのやりたいラグビーを決めて選んで、勝っても負けてもというゲームをして、楽しみ切ってほしい」と目を細めた。

1回戦は12月27日(水)午後0:00に第2グラウンドでキックオフされる。松山監督の下、アタッキングラグビーにシフトチェンジした静岡の「黒衣軍団」が東北王者の秋田工業に挑む。

文/写真:斉藤健仁

斉藤健仁

斉藤 健仁

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント

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