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センタースクラムからの、ショット選択。
試合時間は後半36分。京産大のビハインドは9点(13-22)。タイトヘッドPRに途中出場の川口新太を入れたスクラムで、天理大学からペナルティを奪っていた。
成功すれば逆転圏内に入るPG機だ。スクラムで大内想太レフリーが京産大側に手を挙げた次の瞬間にはもう、FL三木主将は50m先のHポールを指していた。FL三木主将は信頼するキッカーを見やり、アイコンタクトを送った。
辻野 隼大(京都産業大学)
京産大のキッカーは、3年生FB辻野隼大。
この日のプレースキックはここまで3本中1本成功。センタースクラムの原因は、キックオフを蹴ったFB辻野のキックが短くなったからだったが、FL三木主将は京都成章高の後輩に全てを託した。
京都成章で花園準優勝を経験している辻野は、2年時はSH宮尾昌典(早稲田大学)とハーフ団を組み、FL三木共同主将(当時)をはじめLO山本嶺二郎(明治大学)やNO8村田陣悟(早稲田大)ら強力FWを率いた。
尊敬するFL三木主将から場を託されたFB辻野。
スクラムを組んだ直後の足場はデコボコ。悪条件だったが、静寂の中で放ったキックは、東大阪市花園ラグビー場のHポールを見事に通った。
大歓声。これで6点差(16-22)。土壇場で、1トライ1ゴールで逆転可能なスコアに迫った。
ムロオ関西大学ラグビーAリーグ、最終第7節。
2023年の関西王者を決める全勝対決が12月2日(土)に行われ、創部初のリーグ3連覇を狙う京産大と、3年振りの王座奪還をめざす天理大が激突した。
2季連続で全国4強入りの京産大だが、今季はSO/CTB家村健太(静岡BR)、PR/FL福西隼杜(神戸S)、LOアサエリ・ラウシー(BL東京)ら主力が卒業。
関西リーグでも苦しい試合があり、立命館大学を4点差(26-22)で振り切った試合後、FL三木主将は「自分たちは強くないと思ってやり続けています」とコメントした。
ラグビー関西大学リーグ2023
【ハイライト動画】天理大学 vs. 京都産業大学
「関西リーグのどの試合も厳しい試合でしたが、一戦一戦、主将の三木を中心に毎週成長してきてくれました」(京産大・廣瀬佳司監督)
殊勝なチームは、試合毎に持ち味のディフェンス、スクラムやスペースへの攻撃精度を着実に高めた。
そして迎えた天理大との大一番は、序盤からゴール前でお互いにターンオーバーするハイレベルな守備戦になった。
天理大のSH北條拓郎主将はこの日2度ジャッカルを成功させる獅子奮迅の活躍。FL三木主将も、FL日吉建と共に、ミサイルのような強烈タックルで再三ノックオンを誘った。
ここから天理大PR松野楓舞がモールのフィニッシャーとなり、前半は天理大が12-3とリードして折り返した。
後半の逆転に懸ける京産大は、ここまで途中出場からのインパクト起用もあった先発NO8シオネ・ポルテレが大爆発した。
後半3分にはゴール前の混戦からトライを決めると、5分後にはキックカウンターから5人以上のタックラーを振り切り、弾き飛ばすド派手なロングゲイン。
直後のキックパスから生まれた左隅のトライは映像では手からボールが離れているようにみえたが、逆転トライが認定されて1点リード(13-12)を奪った。
しかし天理大は後半26分。
自慢のスクラムでペナルティを奪うと、SO筒口が前半終了前に続いて2連続のスーパー・タッチキック。ここからFW戦参加のCTBマナセ・ハビリが逆転トライ。
途中出場のルーキー中村仁のPGも加え、後半36分時点で天理大が9点をリード(22-13)していた。
「終始プレッシャーを受けた80分でしたが、主将の三木中心にチーム一体となって最後まで戦ってくれました。逆転してくれると信じていました」(京産大・廣瀬監督)
その逆転劇は、ラストワンプレーからだった。
自陣からスクラム・ペナルティを起点に攻め上がった京産大。82分のモールはパイルアップとなり、天理大のインゴール・ドロップアウトでゲーム再開。
途切れたら試合終了。逆転に懸ける京産大は、CTB高井良成が右スペースでロングゲイン。5フェーズ目で22m内に入った。
試合時間は84分25秒。勝負の敵陣22m内アタック。7フェーズ目で抜け出したランナーを天理大のSH北條主将が止め、渾身のトライセーブ。しかし折り返しのアタックで――。
巧みな持ち出しから、スクラムの2連続PKに貢献したPR川口新太が走り込み、歓喜のトライ。これで1点差(21-22)。
そしてFB辻野が「決まればリーグ3連覇」「外せば関西2位」の酷な役割を、まっとうした。コンバージョン成功で逆転。23-22で激闘に終止符が打たれた。
マン・オブ・ザ・マッチに輝いた途中出場のPR川口新太。
「最高のチームのお陰でトライができました」(PR川口)
そして稀代のタックラー、京産大のFL三木主将。
京都産業大学
三木 皓正(京都産業大学)
「今シーズンはとても苦しいシーズンで、自分がキャプテンで正しいのか悩みました。まだ目標は先ですが、こうやって勝って証明できたことを嬉しく思います」(FL三木主将)
2季連続大学ベスト4の京産大、目標は「まだ先」だ。
関西2位となった天理大は、10大会連続32回目の出場。大会初戦は12月17日(日)の3回戦。同じく大阪・ヨドコウで、慶應義塾大学と対戦する。
舞台はいよいよ大学選手権へ。珠玉の名勝負を演じた京産大、天理大は全国でどんな戦いをみせてくれるのだろうか。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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