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優勝の瞬間、喜ぶ京産大フィフティーン
関西王者を決める戦いに決着をつけたのは、辻野隼大(済3=京都成章)のコンバージョンキックだった。静寂に包まれる中、辻野の右足から放たれた楕円球は、2本の白柱の間に吸い込まれる。悲鳴にも近い歓声に包まれる中、京都産業大学は創部初となる関西大学リーグ3連覇を成し遂げた。
「チャレンジャー」として挑んだ天理大学戦。前半は相手の激しいアタックとディフェンスを前に、なかなかゴールラインに近づけなかった。ラインアウトなどのミスでピンチを生み、前半18分と43分にトライを奪われる。FB(フルバック)辻野のPG(ペナルティゴール)で3点返すも3-12となり、これ以上の失点は避けたい。
後半は京産大のエンジン、NO8(ナンバーエイト)シオネ・ポルテレ(現2=目黒学院)の勢いが加速する。後半3分、フェイズを重ねゴール前5mまで攻め込み、相手の反則を誘う。LO(ロック)ソロモネ・フナキ(現3=目黒学院)のタップキックから、ボールをもらったポルテレがグラウンディングした。
続く9分、ハーフウェイラインでボールを受け取ったポルテレのビッグゲインからパスをつなぎ、辻野の絶妙なキックパスをWTB(ウィング)西浩斗(済3=熊本西)がキャッチしトライ。後半開始から10分経たずで2本のトライを奪い、13-12と逆転に成功した。
しかし、後半残り約10分というところで天理大の猛攻が始まる。自陣でゴールラインを背負った状態でのラインアウトモール。勢いを止めることができず、相手の得点を許した。
残り時間もわずかとなり、京産大のディフェンスにも力が入る。そこで生まれたラインオフサイドや、ハイタックルでさらに相手にチャンスを与えてしまった。後半36分、天理大のPGが決まり、13-22に。1トライ1ゴールでは追い付かない点差となり、ピンチに陥る京産大。
さらに悪い流れを断ち切れるか、という場面でのキックオフで痛恨のミス。ハーフウェイライン上で相手ボールスクラムとなる。直前にメンバー交代があり、これがファーストスクラムとなったPR(プロップ)川口新太(法3=東海大仰星)は「僕が1番武器にしているのはスクラム。そこでチームを引っ張って、絶対に自分たちのものにしようという一心で組んだ」と話す。
ラグビー関西大学リーグ2023
【ハイライト動画】天理大学 vs. 京都産業大学|京産大、ラストプレーでの逆転劇
その決意通り、相手のペナルティを誘いマイボールに。「BK(バックス)がミスしたとしてもFW(フォワード)の俺らが絶対カバーするし、BKもFWのミスをカバーしてくれている。やっぱり、ピンチの時にボールを取り返すのがフロントローの役目」(川口)と互いに支えあいながら、チームを勝利へと一歩一歩近づける。
ここで、FL(フランカー)三木皓正キャプテン(済4=京都成章)が選択したのはPG。点差を見て、三木に「いつでも蹴れる準備してるから」と伝えていた辻野。ここまで3本蹴って、1本成功という状況だったが「あいつが練習に早く来たり、遅くまで蹴っていたりすることは僕が一番見てきたので」(三木)と努力を信じ、託した。
「こうせい」と呼び、高校時代から三木のことを慕う辻野は、その期待に応えるかのように、蹴ったボールは美しい放物線を描き、ポールの間に収まった。16-22となり、勝機が見え始めた。
後半40分、再びスクラムでペナルティを奪いチャンスを作る。SH(スクラムハーフ)土永旭(営3=光泉カトリック)のキックで一気に攻め込み、敵陣深くでのラインアウト。ドライビングモールで進み、インゴールに入るもグラウンディングを阻まれ、トライならず。
残り1分を切り、ラスト1プレー。丁寧にボールを繋いでいき、CTB(センター)高井良成(営4=関大北陽)と、途中出場でFBに入った森祐也(済4=東海大福岡)が4年生の意地を見せつけ、大きくゲイン。最後は土永からパスを受けたPR川口が値千金のトライを決めた。
この時点で21-22。3連覇のためには辻野のコンバージョンキックの成功が絶対条件となる。逆転優勝か、1点差での敗北か、それを決める重要なキックだ。緊張する辻野に、普段多くは語らない三木キャプテンがかけたのは「結果がどうなろうと俺が全部責任持つから、思い切っていけ」という言葉。
優勝を決めた辻野のキック
頼もしいキャプテンの言葉を胸に、みんなの思いを背負って蹴った。アシスタントレフリーの旗が2本、空に掲げられた瞬間、会場は大歓声に包まれた。ゴール成功後、誰よりも早く駆けより抱き合った2人の姿から、これまで築いてきたお互いへの信頼や尊敬が感じられた。
3連覇を果たした京産大ラグビー部
試合前日のジャージー渡しで「自分がキャプテンになったのは正しかったのかと考えた。明日、タックルでそれが正しかったことを証明したい」と話した三木。強力な天理大のアタックを何度も何度も止めに行くその姿は、見る者の心を動かした。
試合後、「僕にとって三木は最高のキャプテンです。チームにとってもそれは証明されていると思うので、あとは日本一を目指してついていくだけです」と高校時代から誰よりも近くで三木を追いかけてきた辻野が話したこの言葉がすべてだ。
昨季の主力が多く抜け、スタメンにも4年生の名前は少なかった三木組。「この代は無理だろうと周りから言われていた」(三木)。チームのことを気にしすぎるあまり、自分の武器を見失うこともあったという。苦しい試合も多かったが、一戦一戦勝ち切り、自分たちのラグビーを追求してきたからこそ、創部初の関西リーグ3連覇という結果につながった。
「後輩たちの力を借りながらも、この学年で優勝できたことが本当にうれしい」(三木)。天理大戦のメンバーに入った4年生は5人。だが、スタンドには同期の名前が書かれたうちわを持つ、メンバー外の4年生の姿があった。試合に出られなくても、4年間ともに過ごしてきた仲間を応援したい、その思いがグラウンドで戦った5人の背中を押した。
初の3連覇を達成し、また1つ歴史を塗り替えた。大学選手権での目標は『日本一』だ。何年間も破れてきた、その夢を現実に。京産大の歴史を変える挑戦が今、始まる。
文/写真:藤田芽生(京産大アスレチック)
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