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ラグビーワールドカップ2023(RWC)フランス大会で、最も活躍した日本選手の一人だろう。
初出場の2019年大会は5試合で計63分出場だったが、前十字靱帯断裂のリハビリを経て、今大会は全4試合に先発。プレースキック成功率は驚異の95%(20本中19本)を記録した。
伏見工業-帝京大学-埼玉パナソニックワイルドナイツと歩む29歳は、プール最終アルゼンチン戦でも鋭いタックルを放つなど攻守に活躍。決勝トーナメント進出は逃して落涙したが、“司令塔松田”の進化は日本代表の明るい材料となった。
そんな松田へ今回インタビューしたのは、J SPORTS「ラグビーわんだほー!」のMCで、ラグビー日本代表応援サポーター2023も務めた浅野杏奈。
帰国後多忙な日々を送る松田に「休めていますか?」と浅野が訊ねると、「まだチームに合流していないので(※インタビュー実施は11月上旬)そういう意味ではゆっくりできています」と和やかな笑みを浮かべた。
「(RWC中は)相手の試合を見て、ゲームプランやサインプレーを覚えて――ということをずっとやっていました。敗退後は悔しさもありつつ決勝戦などを見ながら、息抜きをしていました」
RWC期間中の息抜きは、チームルームにある卓球、トランプ、ゲーム(任天堂『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズ)だったという。
日本代表4試合の振り返りでは、まず42-12で勝利した大会初戦(vs.チリ代表)に話題が及んだ。
大会前まで不調だったプレースキックだが、チリ戦では6本中6本成功。劇的に改善した理由を詳細に明かしてくれた。
「一番の問題は身体のバランスで、自分のイメージと身体がズレていました。長い遠征や様々変わるトレーニング環境の中で気付くことができずにいました」
「振り返ってみると、右肩が使えていませんでした。いつもは動いているところが動きにくくなっていた。それを動かすために、チリ戦の前日に“はじめから肩に力を入れる”意識でいこうと」
変化に気付いて微調整をした結果、チリ戦の最初のプレースキックで、手応えがあった。
「(一本目から)手応えはありました。RWCという舞台で、しかも15mという一番嫌な感じの角度で、それまでは外していて――と色々あったのですが、開き直ってやるしかないと。蹴った瞬間に、やっと戻ってきたな、と思いました」
インタビュアーの浅野が、他のキッカーの変化にも気付きますか、と訊ねると、松田はキッカーならではの観察眼を披露した。
他のキッカーを見ていると、外すキックが分かる、というのだ。
「決勝戦で南アフリカのポラード選手は1本目で緊張していて、左に引っ掛けそうになって、ポールに当たって入ったじゃないですか。緊張すると(動作が)早くなって蹴り急いで左にいきやすい、ということがあるんです」
「2本目も真ん中よりも左にいった。3本目くらいで良い感じに戻り、そこからはもう外さないだろうなと思っていました」
「逆にモウンガ選手は大会を通してあまり調子が良くなく、ずっと左に引っ掛ける外し方をしていました。決勝戦では、その点を気にしすぎて右側に外していました」
ニュージーランドは後半33分、RWC決勝初体験のCTBジョーディー・バレットに逆転PGのロングキックを託したが、外れた。
松田はその決定的な場面にも言及した。
「あの競った場面で、センターの選手が長い距離を蹴るのはすごくリスクがあるんです。スーパーラグビーでは決めているかもしれないですけど、RWCのプレッシャー、(7試合目の)決勝戦という疲労感もある中で、コンバージョンを蹴っていないのにあの距離をいきなり蹴る――。うまくはいかないだろう、と思いました」
「あの2つ(後半19分のコンバージョン、33分のペナルティゴール)が入っていれば結果は全然違ったと思います。キックの大事さを学んだ試合でした」
インタビューの話題は日本代表戦に戻り、12-34で大会初黒星を喫したプール第2戦の相手、イングランドについては「強かったです」と率直に振り返った。
「王道のイングランドのラグビースタイルをやってくることは分かっていましたが、こちらが(得点を)欲しい時に取れなかった。相手にはアンラッキーなトライを取られ(後半16分)、そこで流れが変わりました。勝負のアヤのところをどう掴むか、という点が今後重要になると思います」
28-22で競り勝って2勝目を挙げた第3戦サモア戦については、「一番怖かったというか」と語り始めた。
「勢いもありましたし、やりにくさもあるのかなと思っていました。ただ札幌での前回対戦では負けているので、自分たちは向かっていけるメンタルがありました」
「負けた前回は(レッドカードで)14人で闘っているので、今回は 15対15で、自分たちのラグビーさえできればいけるとは思っていました」
「やはり強かったですし、本当に力のあるチームでした。最後は6点差で『もしかしたら』という展開になり、僕があの1本さえ決めていれば、1トライ1ゴールで追いつかない8点差でした。もし負けていたら、責任を感じていたと思います。本当に一本一本が大事だなと感じますね」
日本代表は第4戦でアルゼンチンに27-39に敗れ、決勝トーナメント進出を逃した。
チームの雰囲気は「すごく良かった」が、届かなかった。
「RWC開幕までうまくいかなかったですが、チームはチリ戦で良いスタートを切って、毎試合成長していると実感していました。チームワークもすごく良かったですし『行ける』と自信を持って挑んでいました」
「勝てばベスト8に行ける、という舞台でした。懸けている想いもすごくありましたし・・・。すごく悔しかったですね」
浅野は渡欧前にも松田にインタビューを行っている。そこで松田は「10番を背負う自信がある。それをRWCで示したい」と決意表明をしていた。
そのことについて浅野が言及すると、松田は2027年大会への抱負をまじえ、力強く語った。
「2019年大会後、あの場所で10番を背負って試合に勝つことを目標にやってきました。ベスト8には行けませんでしたが、自分にとって大きな大会になりました。2019年大会後の悔しさの情熱とは似ていますが、また違うモチベーションで2027年に向かいたいなということはすごく思っています」
「2027年を迎えるにあたっては、もっと考えてプレー精度を上げ、状況判断はもっと的確にしないといけない。そこは具体的に考えられています」
浅野はズバリ、司令塔の定位置争いをする李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)の存在について訊ねた。
「もともと関係性は悪くないと僕は思っていますし、スンシン(承信)にもそんなに嫌われてはいないと思います(笑)」
「ただグラウンドではライバルだし、チームとしてやる時は負けたくないとお互いに思ってるし、その気持ちが競争につながると思うので、次に向かって良い切磋琢磨をしたいです。譲る気はない、と思っています」
2027年大会は「もちろん目指します」という松田は、日本代表の背番号10を、誰にも譲る気はない。
その4年後へ向けたステップという点において、これ以上ない国内最高峰の舞台が12月9日(土)に開幕する「ジャパンラグビー リーグワン」の2023-24シーズンだ。
松田の所属する昨季準優勝のワイルドナイツは12月10日(日)、昨季3位の横浜キヤノンイーグルスとの開幕戦を控えている。いきなりの昨季「2位×3位」対決となる。
どんなシーズンになりそうですか、と浅野が訊ねると、松田はディビジョン1の高い競争力について触れた。
「本当にすごい選手が来ますし、どのチームも差がなくなってきています。楽な試合はないです。気が抜けません。ワクワクしますし、すごく気合いが入っています」
ここで浅野が「一人だけ他チームからワイルドナイツに加えるとしたら」と訊ねた。松田はその開幕戦で激突するイーグルスから、あの選手をピックアップした。
「デクラーク選手(南アフリカ代表)は、敵でしか闘っていないのでやってみたいなと思います。味方にいれば心強いなと思いますし、どういう感じなのかなと。僕は何も指示せず、逆に僕が動かされそうな気がします(笑)。喋ったことはあって良い人だと知っているので、楽しそうだなとも思います」
「イーグルスは開幕戦の相手です。向こうは僕らにターゲットを置いていると思います。激しい試合になると思いますが、絶対に勝ちます」
個人的にみてほし自分のプレーは「ディフェンスなど身体を張るところ」。センター経験も豊富な好タックラーぶりに注目だ。
最後にワイルドナイツの一員として、松田は今季リーグワンへの抱負を語った。
「本当に昨年は(決勝で)負けて、悔しい思いをしています。その思いはチームのみんなが持っています」
「優勝を全員で取りに行こうということは、昨シーズンが終わった直後から何回も話しています。今シーズンの目標は、そこに尽きます」
常勝軍団ワイルドナイツは“優勝”だけを見据えている。その中心には、RWCで進化した松田力也がいる。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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