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ラグビーW杯優勝の夢は、準決勝で潰えた。
それでも気力と体力を振り絞り、もう一度戦わなければならない。
モチベーション維持の難しさでは決勝戦を上回る、タフな極限的世界がラグビーW杯の3位決定戦だ。
イングランドのFBフレディー・スチュアードは今週、南アフリカに1点差(15-16)で敗れた準決勝後の気持ちを問われ、こう吐露した。
「あれ以来、毎日1時間の間に少なくとも数回は(準決勝のことを)考えてきました。接戦で負けるよりも、20、30点差で負けた方が受け入れることは簡単なのです。私たちは全員、打ちのめされています」
しかし再起すれば、勝利で大会を終えるチャンスが与えられている。
「誇れる仕事をしようと思います。一番やりたくないことは、2敗してワールドカップを終えることです」(イングランド、FBスチュアード)
その意気込みは、準決勝でニュージーランドにノートライで完敗(6-44)を喫した、アルゼンチンも同じのようだ。
アルゼンチンのCTBヘロニモ・デラフエンテは、3位決定戦へ向けて「敗戦しての帰国と、勝利しての帰国は違う」と話した。
「(銅)メダルを身に着けるのと、着けないのでは大きな違いがあります。私たちの目標は金メダル(優勝)を目指して決勝でプレーすることでしたが、今もまだメダルを勝ち取るチャンスがあります」
「メダルに関わらず全ての試合に勝ちたいと思ってはいますが、メダルがチーム、ファン、そして国にとって励みになることは確かです」
アルゼンチンには「借りを返す」というモチベーションもあるだろう。
前回対戦は9月のプールステージ第1戦。ジョージ・フォードに3本のドロップゴールなど27得点を奪われ、10-27で敗戦した。
前半3分に相手FLトム・カリーが退場となったにも関わらず、7人FWでスクラムを押されるなどし、数的優位を活かしきれなかった。3位決定戦はリベンジの好機だ。
南半球の側に立てば、3位決定戦は決勝に進出したニュージーランド、南アフリカと合わせ、W杯の表彰台を南半球勢で独占する機会。南半球のラグビー関係者はアルゼンチンの勝利を願っているかもしれない。
そんなアルゼンチンは、準決勝から先発3人を変更。LOペドロ・ルビオーロ、SHトマス・クベリ、CTBデラフエンテが新たに入った。
南米最強軍団を率いるマイケル・チェイカHC(ヘッドコーチ)は、今大会2度目となるイングランド戦へ、万全をアピールした。
「イングランドの試合は分析しました。(マーカス)スミスが15番に入り、ボール扱いが上手い(テオ・)ダンがフッカーに入っているので、より展開のある試合を予想しています」
イングランドの得意領域についても十分な注意を払う。
「イングランドのキックゲームについては準備をする必要があります。たくさんのランが見られるでしょう」
またこの試合がチーム最後の指揮になるかについては「全く分かりませんし、それについては考えていません」と語った。
アルゼンチンの先発変更が3人(FW1人、BK2人)だった一方で、イングランドは15人中8人(FW5人、BK3人)と大きく変えてきた。
FWの変更はFW第1列の3人と、LOオーリー・チェサム、2019年大会決勝以来のW杯ゲームとなるFLサム・アンダーヒル。
BKは代表引退を表明しているベテランSHベン・ヤングズ、WTBヘンリー・アランデル、FBスミスの3人となった。
2022年末に解任された前指揮官エディー・ジョーンズの後を継ぎ、ここまで辿り着いたイングランドのスティーヴ・ボーズウックHC。
試合のメンバー選考について問われると「優秀なアルゼンチンを相手に勝ちたいだけで、かなりシンプル」なプロセスだったと語った。
「この大会を通してスコッドは成長してきたので、この成長を続けたいと思っています。ここ2週間は厳しい試合もあったので、(選手の)変更については試合でエネルギーを発揮する為のものです」(イングランド、ボーズウィックHC)
また、準決勝後に南アフリカのHOボンギ・ンボナンビから差別発言を浴びたと話し、統括団体「ワールドラグビー」が調査に乗り出す騒ぎとなっているFLカリーも先発メンバーに名を連ねた。
ボーズウィックHCは「これはトム・カリーの事件ではありません」と話した。
「誰かが言った事が報告され、今ではワールドラグビーの一件となっています。この件について、私たちが伝えなければならないことは伝えました」
「彼(FLカリー)は、これまで他のどの選手よりも多くの試合に関わっていたため、週の初めに彼の身体の状態について話をしました。彼は私の目を真っ直ぐに見て、『何があっても金曜の夜にプレーしたい』とすぐに言いました」
指揮官は「彼の準備はこれまでと同じように極めてプロフェッショナルだった」と評価。背番号6の起用を決めた。
場外での騒ぎを含め、より一層の精神力が求められるかもしれない2023年W杯の3位決定戦。
イングランドよりも試合間隔が一日多く、リベンジというモチベーションがある分、メンタル面ではアルゼンチンが有利か。
どちらもキックゲームが得意だが、スクラム戦ではイングランドに分がある。アルゼンチンはセットピースの安定こそが、2007年以来4大会ぶりの最高3位タイへの道筋だろう。キックオフは日本時間土曜の午前4時(現地午後9時)に迫る。激戦の結末は、果たして――。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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