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奥村翔(静岡ブルーレヴズ)
ラグビーワールドカップ フランス大会を戦っていたラグビー日本代表、そのベースキャンプ地はフランス南西部のトゥールーズだった。この地では日本代表だけでなく、単身戦っていた日本人選手がいた。
それは静岡ブルーレヴズに所属し、昨季は共同キャプテンを務めたFB(フルバック)奥村翔(25歳)だ。7月から10月上旬までトゥールーズに留学し、今季に向けて腕を磨いた。
ブルーレヴズは前身のヤマハ発動機ジュビロ時代から、昨季フランスの『トップ14』で2シーズンぶり22度目の優勝を果たし、欧州優勝5回の名門『トゥールーズ』(スタッド・トゥールーザン)とパートナーシップ協定を締結しており、HO(フッカー)日野剛志もプレーした。ブルーレヴズになってからも、昨年12月にあらためて協定を結んでおり、奥村の留学もそれに基づく取り組みだった。
7月から留学していた奥村は日野のように、リーグ戦には出場できなかったが、日本代表がトゥールーズの本拠地アーネスト・ワロンで練習していたため、チームは9月にアメリカ遠征を敢行。
アメリカ代表と対戦した試合では、21-24で負けたものの奥村はトライも挙げるなど存在感を示した。そんな奥村にオクシタニー地域圏のスポーツ施設で話を聞いたのは、留学が終わる直前の10月のことだった。
奥村のフランス留学は6月に決まったという。「(もう1つの提携先である)ニュージーランドとフランス、どちらかに行くかということになり、高校日本代表に選ばれなかったですし、コロナ禍の影響もあって海外に行くのも初めてでした。いきなりフランス語では厳しいので、ニュージーランドに行きたいと行ったんですが、(アシスタントコーチの)堀川(隆延)さんに『フランスに行け!』と言われて、行くことになりました」。
チームに溶け込んだ奥村翔
フランス語を勉強する時間はほとんどなかったが、現地では日本のトヨタヴェルブリッツでプレーした元オールブラックスのジェローム・カイノ コーチ、元サモア代表ジョー・テコリコーチや、LO(ロック)のエマヌエル・メアフら、ニュージーランド、サモア出身の選手が暖かく迎えてくれて、監督の話を英語で説明してくれたという。
練習中の奥村翔
カイノコーチは「奥村はとてもいい選手で、とても速く、日本のプレーヤーらしい、いい技術を持った選手だ。でも、フランスの生活、フランスの文化への適応ぶりも凄かった。私たちのクラブ、文化にとてもよく溶け込んでくれた。将来はトップ14も通用する、日本を代表するインターナショナルな選手になるだろう。向上できる良い性格も合わせ持っている。日本代表になる可能性も十分だ」と手放しで褒めた。
フランス代表SHアントワーヌ・デュポンらは代表活動のため、ともにプレーすることは叶わなかったが、フランス代表経験のあるWTB(ウィング)/FBマティス・レベルらと一緒に練習をすることで、「ボールのもらい方などが参考になった」と話す。
また、BK(バックス)ラインの幅が狭い中で、オフロードパスでボールをつないだり、WTBがラックサイドを突いたりと勉強になることも多く、「今季、フェイズの中で、自分からどんどんやっていこうと思っています」とのことだ。
スタッド・トゥールーザンの練習場
奥村にとって、今回の留学で大きく変わったのは、ラグビーに対する価値観だったという。「フランスでは、楽しんでラグビーをやっている中に本気があった。昨季、キャプテンをやっていて思い詰めていましたが、吹っ切れました」。
「フランスはシステムはありますが、自由にラグビーをして、個人で、スキルでスペースを作っていくラグビー。楽しくラグビーできたことがパフォーマンスにつながった。自分には合っていると思いました。アメリカ代表戦でトライできたので、日本に帰れるかなと思いました(笑)」。
トゥールーズでは日本代表のセレモニーに参加し、実際にワールドカップの試合もスタジアムで観戦したという。日本代表SO(スタンドオフ)松田力也(埼玉ワイルドナイツ)は伏見工業、帝京大学の先輩であり、SO李承信(神戸スティーラーズ)は帝京大学の2つ後輩で一緒にプレーもした仲である。
次のワールドカップへ意欲を見せる
「生でワールドカップを見られてうれしかったですが、自分も次回、2027年大会は、29歳でベストな状態だと思うので、プレーしたいですね」。
また、トゥールーズでは松田、李、同じく2つ後輩のCTB(センター)長田智希(埼玉ワイルドナイツ)とスタジアムなどで会って交流を深めたり、FL(フランカー)リーチ マイケルと会食したりもできたという。
12月開幕のリーグワンで活躍が期待される
改めて、今季のリーグワンに対する意気込みを聞くと、「静岡に帰って、自分のパフォーマンスにベクトルを向けて、新しい日本代表のコーチ陣の目に止まるように活躍したい」。
そして、「得意のランで、ゲインラインを切って、チームに勢いを与えるプレーをします。コンバージョンキックも松田選手がワールドカップで90%を越えていたので、それくらいの成功率で決めて、ベストキッカー賞も狙いたいですね」と語気を強めた。
昨季、奥村自身もケガで6試合ほどしか出場できず、ブルーレヴズ自体も8位とやや低迷してしまった。奥村は「昨季の成績ではいけない。監督も新しくなるし(藤井雄一郎氏が就任)、どんなチームになるか楽しみです。トンガ代表のチャールズ・ピウタウも新しく入り、ポジション争いがありますが、15番で出場し続けて、優勝を狙いたい」と先を見据えた。
高校、大学時代は伸び伸びと自由なランで、スタジアムを沸かせてきた奥村。再び、フランスで得たスキルと経験を糧に、1回りも2回りも成長した姿を見せて、静岡ブルーレヴズのエースとして、得意のランでチームを上昇気流に乗せたい。
文:斉藤健仁/写真:SHIZUOKA BlueRevs / Yuuri Tanimoto
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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