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雨の中の激戦
前回大会決勝と同じカードは、最後まで勝負のわからない激闘となった。ラグビーワールドカップ2023もベスト4が出揃い、10月21日(土)、パリ近郊のサン=ドニにある「スタッド・ドゥ・フランス」で2度目の優勝を狙うイングランド代表(世界ランキング5位)と、連覇を目指す南アフリカ代表(世界ランキング1位)が対戦した。
両者は過去に45回対戦し、「スプリングボクス」こと、南アフリカ代表の27勝2分16敗。ワールドカップに限ると南アフリカ代表が4勝し、イングランド代表が勝ったのは優勝した2003年大会のみだ。2019年大会決勝では横浜でスプリングボクスが、イングランドを32-12で下して優勝した。
プール戦から唯一の全勝チームであるイングランド代表は前回大会のリベンジを目指した。準々決勝からFW(フォワード)2名、BK(バックス)1名の先発を変更した。
PR(プロップ)エリス・ゲンジと、LO(ロック)オリー・チェッサムがベンチに下がり、PRジョー・マーラー、LOジョージ・マーティンが先発。FB(フルバック)にフレディ・スチュワードが復帰し、フィジー代表戦でFBを務めたマーカス・スミスはメンバー外となった。
それ以外は変わらず、FWは副将のFL(フランカー)コートニー・ロウズを筆頭に、PRダン・コール、HO(フッカー)ジェイミー・ジョージ、LOマロ・イトジェ、FLトム・カリーら経験豊富な選手が揃った。
BKもキャプテンのSO(スタンドオフ)を中軸に、SH(スクラムハーフ)アレックス・ミッチェル、CTB(センター)マヌ・ツイランギ、バックスリーはWTB(ウイング)エリオット・デイリー、ジョニー・メイが先発した。
イングランドvs.南アフリカ
一方、アイルランド代表に敗れて、プールBを2位通過で決勝トーナメントに進んだ南アフリカ代表。勝利した準々決勝のフランス代表戦からメンバー変更なく、全く同じ23名で臨んだ。うち15人が前回大会の決勝に出場し、優勝を経験したメンバーである。
ラグビーワールドカップ2023 フランス大会
【ハイライト動画】準決勝 イングランドvs.南アフリカ|雨のサン=ドニの死闘。スプリングボクスが決勝へ
FW第1列はPRスティーヴン・キッツォフ、フランス・マルハーバ、HOボンギ・ンボナンビの3人。LOエベン・エツベスと、フランコ・モスタート(三重ホンダヒート)。FLはキャプテンのシヤ・コリシとピーター ステフ・デュトイ(トヨタヴェルブリッツ)、NO8は日本でもプレー経験のあるドウェイン・フェルミューレンが務める。
ハーフ団はSHコーバス・ライナーとSOマニー・リボックの2人。CTBはダミアン・デアレエンデ(埼玉パナソニックワイルドナイツ)と、ジェシー・クリエル(横浜キヤノンイーグルス)。WTBチェスリン・コルビ(東京サントリーサンゴリアス)とカートリー・アレンゼ、FBはダミアン・ウィレムセが入った。
ベンチも変わらずHOデオン・フォーリー、PRオックス・ンチェとヴィンセント・コッホ、LOはRG・スナイマン、FLクワッガ・スミス(静岡ブルーレヴズ)。BKはSHファフ・デクラーク(横浜キヤノンイーグルス)、SOハンドレ・ポラード、昨季までトヨタヴェルブリッツに在籍したFBウィリー・ルルーが控える。
小雨が降る中、フィジカルが武器の両チームの試合はキックオフされた。試合は序盤から前回大会のリベンジに燃えるイングランド代表が、ハーフ団からのハイパントキックを軸に主導権を握る。
前半3分、キッキングゲームで敵陣に入ると相手の反則を誘って、SOファレルが中央からPG(ペナルティゴール)を決めて3-0と先制に成功。10分にも再び、SOファレルがPGを沈めて6-0とした。13分、南アフリカ代表は相手陣で反則を得らが、PGを選ばずタッチからモールでトライを狙いにいったが、イングランド代表FW陣が奮闘し、得点を許さなかった。
21分には南アフリカ代表SOリボックがPGを決めて6-3、しかし24分、すぐにイングランド代表のSOファレルがPGを返して、9-3として再び6点差とする。その後、35分にはスプリングボクスは途中出場のSOポラードが、39分にはイングランド代表SOファレルがそれぞれPGを決めて、前半は互いにノートライのまま12-6で前半を折り返した。
DGを決めるファレル
後半序盤、ゲームをコントロールしていたイングランド代表が相手ゴール前でチャンスを得たが、ラインアウトのミスなどで得点を重ねることができない。しかし13分、カウンターラックを成功させた後、SOファレルが50m近いDG(ドロップゴール)を決めて15-6と、1トライ1ゴールで逆転されない9点差にリードを広げた。
だが、南アフリカ代表も早めにベンチメンバーを入れ、PRンチェ、LOスナイマン、FLスミスらが入ると、スクラムで相手を圧倒し始める。27分、スクラムでペナルティを得た後、SOポラードがタッチに蹴って、残り10mの地点でラインアウトを得る。
29分、ラインアウトを起点もモールを押し込むと見せかけて、FLフォーリが抜け出してゲイン、最後はLOスナイマンが右中間に押さえてトライ。ゴールも決まり13-15と2点差に追い上げる。
逆転PGを決めたポラード
緊迫した状況の中、36分、イングランド代表FLスチュワートが自ら蹴ったハイパントキックをノックオン。38分、ハーフウェイライン付近でスクラムを得た南アフリカ代表は反則を誘って、PGの機会を得る。中央右50mほどのPGを、SOポラードがしっかりと決めて16-15と、この試合初めて逆転に成功する。
残り3分ほど、南アフリカ代表は落ち着いて試合を締めて、得点、ペナルティを与えず、そのままノーサイドを迎えた。ディフェンティングチャンピオンで、4度目の優勝を狙う南アフリカ代表が、2大会連続4度目の決勝進出を決めた。
POM(プレイヤー・オブ・ザ・マッチ)には前半途中から入り、ロングキックと逆転のPGで勝利に貢献したSOポラードが選出された。「信じられないくらい、この瞬間は安堵している。特に前半はベストの状態ではなかったのが悔やまれる。イングランドはいいところでプレッシャーをかけてきた』。
「でも、決してあきらめないファイトを見せたことは、チームとして、そして国としての誇りだ。(最後のPGは)大きな瞬間だったが、この舞台でSOとしてあのような瞬間を迎えることは、選手にとって最高の仕事だし、楽しかった」と冷静に振り返った。
惜しくも敗れたイングランド代表のスティーブ・ボースウィックHC(ヘッドコーチ)は「まさにテストマッチだった。チーム全体のパフォーマンスは強かったと思う。試合に勝つためのプランを持って臨んだが、少し足りなかった」。
「でも、このチームの23人のうち7人が25歳以下で、ベスト4の中では最も多い人数だ。世界王者相手に勝てる位置につけたのだから、選手たちは誇りに思っていい。選手たちはイングランドのためにプレーすることの意味を示してくれた」と胸を張った。
キャプテンSOファレルは「がっかりしているが、信じられないほど誇りに思う。すべてが思い通りにいったわけではないが、自分たちは今日のようなパフォーマンスを作り上げ、それでも最終的に南アフリカのような素晴らしいチームに及ばなかった」。
「試合前からいい勝負になるだろうと分かっていた。試合を通して見せた自分たちのファイトは勝つのに十分だったが、残念ながらその点で南アフリカの方が少し上回っていたと思う」と悔しそうに話した。
スクラムに活路を見出した南アフリカ
最後の最後で逆転勝利を収めた南アフリカ代表のジャック・ニーナバーHCは「私はまず、イングランドを大いに称えなければならない。今日のイングランドは素晴らしかった。彼らは非常に優れた戦術プランを持っていて、私たちに大きなプレッシャーをかけてきた」。
「もし、ニュージーランドが同じ戦術を使うようなことがあれば、私たちはその点を改善しなければならない。今夜はそれを理解するのに時間がかかった。思い通りにいかなくても、結果を出す方法を見つける。選手たちは試合の足がかりをつかむのに70分はかかったと思う。最後まであきらめずに戦った。それがこのチームの強みだろう」と語気を強めた。
キャプテンFLコリシは「イングランドはワールドクラスのチームで、1年前とはまったく違う。今日のイングランドは素晴らしいゲームプランを持っていた。この試合から得たものは、勝利を得るために徹底的に戦うことができたという事実だ」。
「また、カップを守れる立場になれたことに感謝している。どんなに醜くても関係ない。南アフリカが勝ったんだ。国中が私たちを応援してくれていることを実感している。人々がどのように感じ、どのような恩恵を受けているかを語っているビデオも見た。テレビを持っていない人たちがショッピングモールに行って、私たちのプレーを見るために一緒に座っているような国は世界中どこにもないと思う」。
「それこそがチームの原動力だ。自分たちが南アフリカだけでなく、アフリカ大陸全体を代表しているという自覚があるから特別だ。私たちが成功すれば、アフリカ全体が勝利することになる」とまっすぐに前を向いた。
イングランド代表は銅メダルをかけて、10月27日(金)にアルゼンチン代表と3位決定戦を戦う。4度目の栄冠を目指す南アフリカ代表は28日(土)に、同じく4度目の優勝を狙う「オールブラックス」こと、ニュージーランド代表とのファイナルを迎える。
★イングランドvs.南アフリカ戦の試合データ(https://www.jsports.co.jp/rugby/worldcup/widget/?kd_page=rwc_match_117)
文:斉藤健仁/Photo by S.IDA
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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