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盤石のアイルランド、スコットランドの気迫みなぎる挑戦退け1位通過決める。ラグビーワールドカップ2023、プールB最終節レビュー
ラグビーレポート by 直江 光信
逆転での決勝トーナメント進出に燃えるスコットランドの気迫みなぎるチャレンジにも、アイルランドの盤石の牙城は揺るがなかった。ゲインラインバトルを制し、組織力と運動量で上回って、過去何度も激闘を繰り広げてきた誇り高き好敵手を力でねじ伏せた。圧巻の36-14。世界ランキング1位のアイルランドが、プレッシャーのかかる大一番でスコットランドに快勝し、文句なしの4連勝でプールB1位通過を果たした。
試合はいきなり動いた。開始50秒過ぎ、中盤で攻撃を継続するアイルランドは、右中間ラックから左へ振ってCTBギャリー・リングローズがきれいにラインブレイク。外をサポートしたWTBマック・ハンセン→WTBジェームズ・ロウとパスがつながり、早々に先制トライを挙げる。
スコットランドも直後のターンで敵陣に攻め込み、22メートル線内でマイボールラインアウトのチャンスをつかむが、アイルランドは自慢の堅守で対抗。速いテンポのアタックにもあわてることなく防御ラインを保ち、最後は相手が孤立したところでNO8ケーラン・ドリスがターンオーバーを勝ち取る。11分から13分にかけてのシーンもぶ厚い壁のような防御で相手の前進をことごとく阻み、危なげなく守り切った。
その後もアイルランドが気迫の攻守で優位に立つ時間は続き、18分にはスコットランドのキャプテン、FLジェイミー・リッチーがタックルの際に右肩を痛めピッチを退く痛恨のアクシデント。そして26分、アイルランドは得意のラインアウト起点のアタックから狙い通りに大外でオーバーラップを作り、FBヒューゴ・キーナンが左コーナーに飛び込む。SOジョニー・セクストンが難しい角度のゴールも決め、リードを12-0に広げた。
アイルランドは32分にも相手陣22メートル線内に攻め入り、ハードワーカーぞろいのFWが近場勝負でジリジリと前進。最後はLOイアン・ヘンダーソンがタックルをかいくぐって左中間に押さえる。さらに前半終了間際にはゴール前ペナルティでPGではなくタップキックからの攻撃を選択し、相手ディフェンスを崩し切ってまたもキーナンが右中間にフィニッシュ。この時点で4トライのボーナスポイントを手にし、26-0で前半を折り返した。
ラグビーワールドカップ2023 フランス大会 プールB
【ハイライト動画】アイルランド vsスコットランド
後半。スコットランドは入替でFBに入ったオリー・スミスが42分に不行跡でイエローカードを受け、みずから首を絞めてしまう。アイルランドはこのチャンスにすかさずたたみかけ、続くラインアウト起点の攻撃から左ライン際でパスを受けたHOダン・シーハンがインゴールへ。これでゲームの趨勢は決定的になった。
以後、アイルランドはフレッシュなリザーブメンバーを次々と投入しながら接点での推進力を維持し、試合を優勢に展開。攻守とも圧力を緩めることなく前に出続け、58分にはSOジャック・クラウリーのピンポイントのキックパスからCTBリングローズが悠々とゴールラインを越える。
スコットランドがようやく反撃に転じたのは、勝負が決した後の64分だ。キックレシーブ起点の攻撃でいい形を作り出し、CTBシオネ・トゥイプロトゥのブレイクから右ライン際でパスを受けたHOユアン・アシュマンが右中間を陥れる。続く65分にもキックオフレシーブからCTBヒュー・ジョーンズが左ライン際を突破し、サポートしたSHアリ・プライスがポスト下へ駆け抜けて7点を返した。
フルスロットルで飛ばしてきた影響からか足が止まり始めたアイルランドだったが、70分以降はキックを軸にした堅実なゲームメイクへとシフトし、じわじわと時計を進める。終了直前、ゴール前で得たペナルティからFW勝負を挑み、PRフィンレー・ビーラムがねじ込んだプレーは直前にノックオンがあったという判定でトライは認められなかったが、危なげなく試合をコントロールしきって36-14でフルタイムを迎えた。
この試合に敗れればプールマッチ敗退の可能性もあったアイルランドだが、13-8で勝利した南アフリカ戦に続いて凄みに満ちたパフォーマンスを披露し、堂々と重圧をはね除けてみせた。これで4戦全勝の勝ち点19とし、死の組と呼ばれたプールBを文句なしの1位で通過。スコアが開いた45分以降一気にメンバーを入れ替えるなどまだ余力も感じさせる内容で、クライマックスの決勝トーナメントに向け、チーム状態はピークを迎えつつあることをうかがわせる。
10月14日の準々決勝(日本時間15日04時キックオフ@サンドニ)で対峙するのは、プールA2位のニュージーランド。2019年の日本大会でも準々決勝で顔を合わせ、14-46で完敗を喫している因縁の相手だ。イタリアを96-17と圧倒するなどここにきて調子を上げてきている印象だが、南アフリカ、スコットランドとの試練を乗り越えた今のアイルランドは、まちがいなく勝利に手の届く実力を備えたチームといえる。過去何度も挑みながら跳ね返されてきたクウォーターファイナルの壁をついに突破するのか、世界中の視線が注がれる大一番になるだろう。
一方、2大会連続のプールマッチ敗退となったスコットランド。この試合にかける強い意気込みはプレーの随所から伝わってきたが、序盤のフィジカルバトルで後手に回り、追いかける展開を強いられる中でキャプテンが早い時間帯に負傷退場したのは痛かった。世界ランキング5位の実力者がこの段階で姿を消すのは抽選の不運を嘆くほかないが、終盤に2トライを返し意地は示した。これほどのチームが、ノックアウトステージの舞台に立つことなく大会を後にする――。ワールドカップの厳しさを痛感する試合だった。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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