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【ハイライト動画あり】「歴史を作るチームになることが我々のゴール」。フィジー、ジョージアとの死闘制し決勝T進出に王手。ラグビーワールドカップ2023プールCレビュー
ラグビーレポート by 直江 光信
今大会で注目の的となっているフィジーが、ここまで調子の上がらない戦いが続いていたジョージアの渾身のパフォーマンスに土俵際まで追い込まれた。前半はほとんど見せ場を作れぬまま0-9での折り返し。ラインアウトを支配され、接点のバトルで受けに回り、大半の時間を自陣でのディフェンスに費やした。それでもひるむことなくファイティングポーズを維持し、重要な時間帯に2本の美しいトライを挙げて勝ち切った。その戦いぶりに、現在のチームの充実は表れていた。
4万の大観衆で埋まるスタッド・ド・ボルドーで17時45分にキックオフされたこの一戦。ここまで1分け1敗の勝ち点2、決勝トーナメント進出へ望みをつなぐため絶対に勝利が必要なジョージアは、開始直後から気迫みなぎるヒットを連発して流れをたぐり寄せた。
5分、フィールド中央のブレイクダウンで反則を誘い、SOルカ・マトカヴァのPGで先制。19分にはディフェンスラッシュから中盤のラックでペナルティをもぎ取り、WTBダヴィト・ニニアシヴィリが約60メートルの超ロングPGを見事に成功させる。直後のゴールラインを背負ってのピンチも猛タックルで最後の一線を死守し、28分過ぎには14フェーズにわたるフィジーの波状攻撃をはね返して40メートル近く前進する圧巻のディフェンスも見せた。
その後もジョージアペースで試合は進み、31分にふたたび防御でのペナルティ奪取からWTBニニアシヴィリの長距離砲で加点。38分の右タッチライン際を突破したプレーは惜しくもラストパスがスローフォワードと判定されたが、あわやトライという場面を作り場内のムードはさらにヒートアップする。結局40分間を通してジョージアが主導権を握ったまま、9-0で前半を終えた。
後半。フィジーは勢いを取り戻すべくキックオフから猛然とたたみかけるが、42分にエースのWTBセミ・ランドランドラがデリバレートノックオンでイエローカードを受けてしまう。数的優位となったジョージアはここでさらにギアを上げて攻め立て、敵陣レッドゾーンまで前進。マイボールスクラムを起点に猛攻を仕掛け、ゴールラインに迫った。
ラグビーワールドカップ2023 フランス大会 プールC
【ハイライト動画】フィジー vsジョージア
トライを奪えば流れが決定的になるという状況。しかしフィジーが底力を発揮するのはここからだった。
絶体絶命の局面にもあわてず、一人ひとりが粘り強く体を当て続けて相手のミスを誘い、ボールを奪取。そして51分、ようやく敵陣22メートル線内でマイボールラインアウトのチャンスをつかむと、左順目にフェーズを重ねてゴールラインに迫る。最後は大外でパスを受けたキャプテンのCTBワイセア・ナヤザレヴが、タックルを受けながら腕一本で左コーナーに押さえて待望のトライ。替わって入ったばかりのSHフランク・ロマニが難しい角度のゴールも決め、7-9と一気に射程圏内に入った。
以降は目まぐるしく攻守が入れ替わる展開が続いたが、精神的に余裕が生まれたフィジーはキックを効果的に使ってゲームを組み立て、じわじわと圧力をかける。56分の正面PGは外れたものの、65分にSHロマニが40メートルのPGを決め、ついに10-9と逆転。
試合を決めるトライが生まれたのは69分だ。中盤のラインアウトモールから好機をつかんだフィジーは、相手陣22メートル線付近のラックから右オープンに折り返し、大外で球を持ったFLレヴァニ・ボティアが重心の低いランでラインブレイク。タックルを受けながら紙一重のオフロードをつなぎ、WTBヴィナヤ・ハンボシがインゴールへ駆け抜けた。
17-9で迎えた70分以降はプレーが切れるたびに両チームの選手がピッチに倒れる消耗戦となったが、ジョージアは最後まで気持ちを切ることなく果敢に攻め続ける。残り1分を切ったところでペナルティを獲得すると、ショットを選択してSOマトカヴァが成功。17-12と5点差に詰め寄り、続くキックオフから最後の猛攻を仕掛けた。
スタジアムが熱気と興奮に包まれる中、際どいパスがことごとくつながり、途中出場のSHゲラ・アプラシゼが左サイドをブレイク。裏のスペースへボールを蹴り込み、SOマトカヴァが残る力を振り絞って懸命に追いかける。しかしわずかに早く追いついたフィジーのFBイライサ・ドロアセセが外へ蹴り出し、フルタイム。激闘に終止符を打った。
4トライ以上のボーナスポイントは取れなかったものの、前半の劣勢からよく立て直し貴重な白星を手にしたフィジー。これで総勝ち点は10となり、4大会ぶりの決勝トーナメント進出に王手をかけた。10月1日に第4戦を終えたオーストラリアが勝ち点11で暫定2位に浮上したが、フィジーはポルトガルとの最終戦(日本時間10月9日4時キックオフ)を残しており、そこで勝ち点1でも取ればプールマッチ突破が決まるという圧倒的優位な状況だ。
ワールドカップでしか味わえない緊張感と重圧に打ち勝ち、際どい接戦をものにした経験は、チームをまたひとつ先のレベルへと押し進めるだろう。キャプテンのCTBナヤザレヴは、諦めることなく戦い抜いた仲間を「誇りに思います」と称えた上で、「歴史を作るチームになることが我々のゴール」とあらためて今後への強い意気込みを口にした。
一方のジョージア。この敗戦でプールマッチ敗退が決まったが、気迫満点の真っ向勝負で強敵を崖っぷちまで追い詰めた戦いぶりは、チームのプライドと意地を感じさせるものだった。まばゆい輝きを放ったSOマトカヴァ、WTBニニアシヴィリ(ともにまだ21歳!)、FLベカ・サギナゼは、今後世界的に注目される存在になるだろう。「結果には満足していません。ただ選手たちを誇りに思います。今大会の最終戦となる次のウエールズ戦に向け、継続してベストを尽くしたい」。そう語るレヴァン・マイサシヴィリ監督の透き通った表情が、この熱闘を表現していた。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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