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ハカ「カパオパンゴ」を見据えるフランス代表
10回目のラグビー世界一決定戦が幕を開けた。9月8日、メイン会場となるパリ近郊サンドニのスタッド・フランセには78,690人の観衆が集った。フランスとラグビーの文化を簡潔に表現した開会式のあと、フランス代表選手が登場すると地鳴りのような歓声が沸き上がった。国歌の大合唱はラグビーワールドカップ(RWC)史上最大のボリュームに感じられた。ニュージーランド(NZ)のハカ「カパオパンゴ」に対しては一転。ブーイングはあったものの観客はおおむね静かに見守った。
ハカに対してはフランスが何か変わったフォーメーションで迎え撃つのではないかと噂されたが、フランスは何もしなかった。だた、一列になってハカを見据えた。観客の静かさ、選手達の姿にこの一戦への決意と覚悟がみてとれた。フランス時間の午後9時15分、世界ランキング3位フランス、4位NZという優勝候補同士の一戦が幕を開けた。
NZは試合直前になってキャプテンのFLサム・ケインの欠場を発表。背中に張りがあり大事を取ってのメンバー交代で、キャプテンはNO8アーディー・サヴェアが務めることに。ケインに代わって出場したのは23歳のトゥポウ・ヴァアイ。198cm、118kgの大型FLが先発に、リザーブには怪我から復帰のブロディ・レタリックが急きょ入った。
試合はNZのFBボーデン・バレットのキックオフで始まった。直後のNZボールのラインアウトからCTBリーコ・イオアネが抜け出す。そのままNZがフランス陣深く攻め込み、最後はボーデン・バレットの左コーナーへのキックパスをWTBマーク・テレアがインゴールで確保して先制トライをあげる。キックオフから92秒という電光石火のトライだった。SOリッチー・モウンガのゴールは決まらず、スコアは、5-0。しかし、フランスもFBトマ・ラモスの2本のPGで6-5と逆転。モウンガもPGを決めて、6-8とするが、29分、ラモスがハーフウェイライン付近からのロングPGを難なく決めて9-8と再び逆転して前半が終了した。
ラグビーワールドカップ2023 フランス大会
【ハイライト】フランス vs. ニュージーランド |ラグビーワールドカップ2023 フランス大会 プールA
フランスはSHアントワーヌ・デユポンのロングキックで陣地を稼ぎ、NZはFBバレット、SOモウンガのロングキックで地域を挽回。互いにトライを狙いやすい地域で戦うためのキックの応酬が続いた。前半はNZがキック合戦に勝って攻撃機会を多く得たが、いくつかのチャンスをミスで逃し、スコアを伸ばすことはできなかった。後半も先にトライしたのはNZだった。WTBウィル・ジョーダンがチャンスを作り、最後はテレアが左コーナーにトライ。9-13としたが、この日不調のモウンガのゴールは決まらなかった。
フランスのWTBダミアン・プノー
フランスの今大会初めてのトライは後半15分に生まれた。WTBダミアン・プノーが代表30トライ目を右コーナーに決め、伝説のCTBフィリップ・セラの記録に並んだ。NZのゴール前中央にできたラックから、SOマチュー・ジャリベール、FBトマ・ラモスが右へ移動。ジャリベールがタックラーをかわして、プノーにつないだ。フランス得意の移動攻撃が決まっての逆転でサポーターの興奮は頂点に。ラモスが難しいゴールも決めて、スコアは、16-13となる。
後半反則が多くなったNZに対し、フランスはラモスがさらに2PGを加えて、22-13と突き放し、後半38分、NZ陣から思い切ったランで攻めようとしたボーデン・バレットを倒してボールを奪うと、交代出場のSHマクシム・リュキュが間髪入れずにインゴール方向にキック。交代出場のメルヴィン・ジャミネが跳ね上がったボールに走り込んで、ダメ押しトライをあげた。
ニュージーランドはプール戦で史上初の敗北を喫した
NZのキャプテンを務めたNO8アーディー・サヴェアは「最後の20分に反則を重ねて失点してしまった」とコメント。試合を通じての反則数はフランスの4に対してNZは12。反則数はたしかに勝敗を分けたが、フランスの勝因は、攻めやすい場所までキックを使って粘り強く戦ったことだろう。マンオブザマッチは、驚異的なスタミナで走り続けたNO8グレゴリー・アルドリット。フランスのラファエル・イバネスGMは、「完璧なスタートです。ホームの観客の皆さんの前での試合でしたが、リードされたところからよく立て直してくれました」と話した。
自国開催で優勝が至上命令のフランスは、プールA1位での決勝トーナメント進出に向かってこれ以上ないスタートを切った。なにより、ホームの観客の熱い声援の中での勝利は、今大会の成功を約束するものだ。プール戦残り3試合も快進撃が続くだろう。一方、NZはプール戦で初の敗北。第1回大会から続いていたプール戦31連勝がストップした。凡ミスも多く悔しい敗戦だが、他チームとの実力差から考えて決勝トーナメントまでにチームを立て直せば、まだ優勝の可能性は残されている。今大会で再び両者が対戦する可能性があるのは決勝戦だけ。両チームの戦いを今後も注視したい。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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