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充実のフィジーは旋風を巻き起こせるか。名将復帰のウェールズは防御と両WTBで活路開く。ラグビーワールドカップ2023、9月10日注目カードプレビュー。
ラグビーレポート by 直江 光信ウェールズ vs フィジー メンバー
南半球とヨーロッパの強豪国が上位を占めることの多いラグビーワールドカップだが、今回のフランス大会でその壁を破る可能性を秘めた一番手と目されているのがフィジーだ。これまでは世界各地のクラブに散らばる選手が集まって活動できる期間が短く、継続的な強化を進めることが難しかったが、国内に本拠を置くフィジアン・ドゥルアが2022シーズンからスーパーラグビーに参戦するようになったことで、チーム力は飛躍的に向上した。
フィジー メンバー
18人のフィジアン・ドゥルア所属選手を軸に、海外の名門クラブで活躍するビッグネームを加えた今回のスコッドは、フィジー史上最強との呼び声も高い。今夏のパシフィックネーションズシリーズはトンガに36-20、サモアに33-19、さらにジャパンにも35-12と勝利して優勝。8月26日にはトゥイッケナムでイングランドから史上初勝利(30-22)も挙げており、自信を持って大会に臨んでくるはずだ。
ウェールズ メンバー
そのフィジーとプールCの初戦で対峙するのは、「レッドドラゴン」の愛称で知られるウェールズ。前回大会4位で、シックスネーションズ28回の優勝を誇る世界屈指の強豪だ。もっともこの2年は低調なシーズンが続いており、2022年はホームでイタリアに21-22、ジョージアに12-13と敗戦。ウェールズユニオンの財政面の問題も噴出し、代表チームの顔だったLOアラン=ウィン・ジョーンズとFLジャスティン・ティプリックが今年5月に突如代表引退を表明するなど、多くの不安材料を抱えている。
ラグビーワールドカップ2023 特集ページ
8月5日のイングランドとの第1戦に20-9で勝利し、翌週の第2戦も敗れたものの17-19と接戦を演じて復調したかに思われたが、同19日の本拠地プリンシパリティスタジアムでの南アフリカ戦は、若手主体の布陣で挑んだこともあって16-52と大敗。今大会で同組のオーストラリアもすっきりしないパフォーマンスが続いており、プールCはどこが決勝トーナメントに勝ち上がるかわからない混沌とした様相だ。それだけに9月10日のこの初戦(日本時間11日04時キックオフ@ボルドー)は、ウェールズ、フィジー両国にとってはもちろん、大会全体の流れをも左右する重要な一戦となる。
2019年にいったんは退任したものの、後任のウェイン・ピヴァックの成績不振による解任を受け2022年12月にふたたび復帰したウォーレン・ガットランドヘッドコーチ(HC)は、停滞したムードを払拭すべく思い切った決断をした。共同キャプテンに指名したのは、23歳のFLジャック・モーガンと24歳のHOデヴィ・レイク。モーガンは180センチ、102キロと上背こそないものの気迫を前面に押し出したプレーが魅力の闘将タイプで、186センチ、115キロのサイズを有するレイクは、セットプレーの牽引役として期待される。
戦力を見ると、FWはややパンチ力不足だがBKには若く才能あふれるタレントがそろっており、中でもルイス・リース=ザミット(22歳)、リオ・ダイアー(23歳)は世界的フィニッシャーに成長するポテンシャルを秘めた逸材だ。同じWTBには、前回大会のトライ王であるジョシュ・アダムスもいる。8月のイングランド戦のように粘り強いディフェンスで失点を最小限にとどめ、決定力あるアウトサイドBKが少ないチャンスをものにするスタイルを確立できるかが、浮沈の鍵だろう。
一方のフィジーは、イングランド戦勝利の立役者のひとりで、プレーメーカーとして活躍が期待されたSOケイレブ・マンツが大会直前の練習で膝を負傷し離脱。ここにきて司令塔の変更を余儀なくされたのは大きな痛手だ。もっともBKには世界有数のラインブレイカーと評されるCTB/WTBセミ・ランドランドラを筆頭に、キャプテンのCTBワイセア・ナヤザレヴやWTBヴィナヤ・ハンボシら脅威となるランナーがそろっており、布陣が固まれば今大会屈指の破壊力あるラインに仕上がる可能性もある。
キックオフ2日前に発表された試合登録メンバーを見ると、先発15人中2019年大会の経験者はウェールズが9人、フィジーは6人。うちプールマッチで激突した大分でのゲームに出場しているのは、ウェールズがPRトーマス・フランシス、FLアーロン・ウェインライト、SHガレス・デーヴィス、SOダン・ビガー、WTBアダムス、CTBジョージ・ノース、FBリアム・ウィリアムズの7人で、フィジーはPRエロニ・マウィ、HOサム・マタヴェシ、NO8ヴィリアメ・マタ、SHフランク・ロマニ、CTBランドランドラ、CTBナヤザレヴと6人全員が前回大会に続いての出場となる(試合は29-17でウェールズが勝利)。
キックオフ前の世界ランキングは、ウェールズの10位に対しフィジーは9位。過去の対戦成績ではウェールズが11勝1分け1敗と圧倒しているが、フィジーにとって唯一の勝利が2007年のワールドカップフランス大会で挙げたもの(38-34)という点は好材料だろう。ちなみにこの時はフィジーがプール2位で決勝トーナメントに進出する一方、ウェールズはプール3位で大会を終えており、お互いにとって因縁の相手といえる。
どのエリアからでも一発で仕留め切る力を有するフィジーにスペースを与えれば、勢いを断ち切るのは困難だ。ウェールズとしてはディフェンスで粘り強く圧力をかけ続け、タイトな展開に持ち込むことが勝利への条件となる。対照的なスタイルの激突。熱戦必至だ。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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