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9月の開幕までひと月を切り、夏合宿でのトレーニングマッチが活気を帯びてきた大学ラグビー。選手権連覇中の帝京大学と、3季ぶりの覇権奪回を期す関西の雄、天理大学の注目の一戦は、期待通り見どころの多い好ゲームとなった。
序盤、満点の気迫で先手を取ったのは天理だった。マイボールキックオフからディフェンスでプレッシャーをかけて帝京のミスを誘い、敵陣22メートルライン付近左でスクラムを獲得。準備したプレーでNO8上ノ坊悠馬が豪快にラックサイドを突き抜け、開始1分あまりで先制トライを挙げる。
その後も出足の早い攻守で優勢にゲームを進める天理は、相手のペナルティに乗じてふたたび敵陣22メートル線内に前進。左ラインアウトからまたもサインプレーで中央をきれいにブレイクし、SO筒口允之が一直線にポスト下へ駆け抜ける。コンバージョンも決まり、リードは14-0に広がった。
開始10分で2トライのビハインド。並みのチームなら浮き足立って不思議のない状況だろう。しかしそうはならないのが、帝京の王者たるゆえんだ。焦って強引なプレーに傾く愚は絶対におかさず、一人ひとりが忠実に役割を遂行して、すぐに悪い流れを立て直す。
13分、スクラムを起点に敵陣で丁寧に攻撃を継続して防御を揺さぶり、左ライン際を突破。右オープンへの折り返しからNO8森元一気が抜け出し、あざやかにゴールラインを越える。
続く21分には天理のセットアタックにディフェンスで厳しく前に出てエラーを誘うと、転がるボールを足にかけて逆襲。チェイスしたWTB高本とむがそのまま胸に収め、左スミに飛び込んだ。このシーンでは立ち上がりの2トライをお膳立てした天理のキーマン、SH北條拓郎キャプテンに対しトイメンのSH李錦寿が猛然と圧力をかけてミスを誘発しており、帝京の対応力の高さが浮かび上がるトライだった。
これでスコアをイーブンに戻した帝京は、26分にも相手の反則に乗じてゴール前ラインアウトのチャンスをつかみ、LOダアンジャロ・アスイが近場を突いてトライを追加。19-14と勝ち越して完全に流れを引き寄せると、31分にもボールの動きを止めることなく縦横無尽につなぎ続け、ふたたびアスイがフィニッシュする。さらに37分にはラインアウトモールを力強く押し切って5本目のトライをマーク。31-14までリードを拡大して、前半の40分を終えた。
大学ラグビー 菅平合宿 2023 練習試合
【ハイライト動画】帝京大学 vs. 天理大学
後半、帝京は一挙にメンバーを入れ替えた布陣で登場。レギュラー奪取に燃えるフレッシュな選手たちが立ち上がりから果敢にボールを動かしてリズムを作り出し、戦力層の厚さを誇示する。そして迎えた54分、ターンオーバーボールをSH上村樹輝が判断よく裏のスペースに蹴り込み、みずからインゴールで押さえて36-14と引き離しにかかる。
しかし天理もここで引き下がらず、58分にターンオーバーからすばやく切り返して反撃。セオリー通りに逆サイド大外のスペースを攻略し、入替出場のWTBナイバルワガ・トマシが右コーナーを陥れる。続くターンで帝京に防御の裏をキックで破られトライを許したが、その後もファイティングポーズを崩さず、懸命に食らいついていく。
その姿勢が実ったのは、最終盤の76分だ。ひたむきなディフェンスから相手陣ゴール前でマイボールスクラムのチャンスを得ると、FW陣が強固な塊となって帝京パックを押し込み、ペナルティトライを奪取。最終スコアを43-28まで縮めて、フルタイムを迎えた。
余力十分ともいえる内容で、難敵との夏合宿初戦に完勝を収めた帝京。最大の焦点だったコリジョンのバトルで優位に立ち、相手の結束が緩んだ瞬間にたたみかける頑健な戦いぶりは、あらためてチームの充実ぶりを表すものだった。序盤に天理の勢いを受け、追いかける展開になったのは反省材料だろうが、まるで動じることなく堂々と盛り返した試合展開は、むしろ計り知れない底力を感じさせた。
前後半でメンバーが変わったためまだまだ全貌が見えない部分も多く、ここからさらにチーム力を伸ばしていくのはまちがいないだろう。今後は8月20日に早稲田大学、同27日に明治大学(いずれも13時キックオフ)と、今季を占う重要なゲームを控えている。実戦を重ねることでどのようにパフォーマンスを研ぎ澄ませていくのか、楽しみだ。
15点差での敗戦となったものの、天理も随所に持ち味を発揮して今季のチームのポテンシャルを示した。見事な集中力で機先を制し、引き締まった展開に持ち込んだことは、最後に奪ったスクラムトライとともに選手たちの自信になるはずだ。こちらも8月20日に明治大学、24日に東洋大学、27日には東海大学と好カードが組まれており、この敗戦からどう立て直していくかが注目される。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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