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日本代表
ラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が、サモア代表戦の前に話していた。
「テストマッチのプレッシャーは、テストマッチでしか分かりません」
試合前には両国国歌が歌われ、サモア代表は恒例の「シヴァタウ」を披露。
特有のプレッシャーが掛かる2023年初のテストマッチ(国代表同士の国際試合)で、日本代表は収穫と、いくつかの課題を突きつけられた。
7月22日(土)、札幌ドーム(北海道)で行われた日本代表×サモア代表(リポビタンDチャレンジカップ2023「パシフィックネーションズシリーズ」第1戦)。
9月開幕のラグビーワールドカップ(RWC)本番へ向けた国内5連戦の3戦目。RWC同組のサモアは、2カ月後のプールステージ第3戦の相手であり、RWC前哨戦となる重要な手合わせだった。
滑り出しは快調だった。
日本は序盤、相手のノックオンで起きた攻守交代直後に、CTBディラン・ライリーが無人エリアへロングキック。クレバーに敵陣22m内で自軍投入スクラムの好機を得た。
アマト・ファカタヴァ
ここから前半6分、FW戦で圧力を掛ける。相手のノックオンでプレーを続けたLOアマト・ファカタヴァが先制トライ。大東文化大学出身の28歳が代表デビュー戦でトライを決めた。
ゴール成功で7点を先取した日本。
ラグビーワールドカップ2023 特集ページ
先発FWの総体重が80キロ差(976-896)のスクラムに苦しむが、守備ではフィジカル自慢のサモアを受け止め、SO李承信のロータックルを放ち、直後に初キャップのWTBジョネ・ナイカブラが落球を誘うタックル。磨いてきたディフェンスで失点を防ぐ。
転機はお互いにペナルティゴール(PG)を加え、日本の7点リード(10-3)で迎えた前半30分だった。
札幌山の手高校(北海道)出身で代表戦79試合目のNO8リーチは、テストマッチで自身初というレッドカードをもらってしまった。
重罰化したハイタックルのリスク回避こそ、浦安合宿から全員で積み重ねてきたタックル練習の目的の一つだったはず。
しかしRWCレフリーの担当試合で痛恨のレッド。これが本番でなくてよかった――それが多くのファンの率直な思いではないだろうか。
「あのプレー(NO8リーチのレッド)に対しては、スキルが足りなかったと思います。そこでチームが落ち込んだ感じはありました」(FL姫野和樹)
残り約50分間を14人で戦うことになった日本。ゲームキャプテンの坂手はコミュニケーションを取った。
「14人になるとスペースが広くなり、タックルレンジも広くなるので、繋がりあってディフェンスしよう、という話をしました」(HO坂手)
フォワードのリーチが抜けたスクラムでは、急遽デビュー戦のWTBナイカブラがフランカーの位置へ。
しかしその後スクラムで2連続のペナルティを奪われ、自陣方向へ後退。モールは防いだものの、相手の重量FWの連続ピック&ゴーからトライを奪われた。
ハーフタイムを迎えて10対10の同点。
残り40分間をどう戦うか。ジョセフHCは「一人いなくて心配な様子」を選手から感じ取った。リーチはラインアウトのキーマンでもあった。
「ハーフタイムで戦術の変更しなければいけませんでした」とジョセフHCは明かした。
「リーチはラインアウトの要の選手。ラインアウトは6人から5人に調整したりしました。サモアはボールキャリーをたくさんしてくるチームなので、バックスのラインを厚くすることも考えました」
数的不利だったが、日本の後半の試合運びは巧みだったろう。
後半開始直後、ショートパスでLOファカタヴァが突破。反則を誘発すると、強引な力勝負は避けてショットを選択。SO李のPG成功で13-10と勝ち越した。
山中亮平
今夏初先発となるFB山中亮平は「久しぶりのテストマッチで緊張した」というが、特大キックでチームを助けた。
効果的に前進すると、ハーフタイムでも調整したラインアウトで相手ボールを奪取。頭脳的な試合運びで、数的不利を感じさせなかった。
リポビタンDチャレンジカップ2023 ラグビーパシフィックネーションズシリーズ
【ハイライト動画】日本代表 vs. サモア代表
さらに日本は後半7分、PG追加でリードを6点に広げる。
誤算はキック好調のFB山中が受けたキックチャージ。はたき落とした業師のSOジョナサン・タウマテイネがそのままグラウンディング。元豪州代表のSOクリスチャン・リアリーファノの逆転コンバージョンも成功し、1点ビハインド(16-17)となった。
ここで日本がサモアに放ってきたボディーブローが表面化してくる。
「キッキングゲームをして相手を疲れさせていこう、と考えていました」(FL姫野)
後半のサモアは、前半に比べてペナルティが倍増(3→6)。後半になって疲れた様子のボディランゲージが増えてきたサモアに対し、CTBライリーが自身のキック直後にジャッカル。
ここでのPGなどショット2本をさせ、日本は残り約20分の時点で、5点差(22-17)リードを奪った。
しかし直後のキックオフ後だった。自陣でノックオンがあり、相手ボールスクラムからサモアが左隅でバックス勝負。同点トライを決められた。
ここで相手SOリアリーファノが、難しい左隅からの勝ち越しのゴールキックを成功。35歳のベテランが流石のスキルをみせ、日本は2点リード(24-22)を奪われた。
2万2063人の来場者が見守る中、日本は最終盤のプレー精度に課題を残した。ダイレクトのキックや、度重なるノックオンがあった。
万事休す。日本は24-22で今夏3敗目を喫した。
「がっかりしている部分はあります。みんなの顔を見てもそう思います」と、ゲームキャプテンのHO坂手は話した。
「ただ14人になっても同じ絵を見続けられる時間はすごく多かったです。スリッピーなボールでミスもありましたが、エナジーを落とさず闘い続けたことは、自分たちにとってこれからに繋がる部分だと思います」
「もうひとつの修正点はスクラムです。修正に時間が掛かりました。後半に上手く修正できましたが、もっと早く修正すべきでした」
指揮官のジョセフHCは「残念な結果」と淡々と話した。
「テストマッチを14人で50分間戦うことは難しいことです。ただ、チームとしての反応は自分としてはポジティブ。勝てるところまではいけました」
「ラインアウトでは相手ボールも取ることができました。そこで相手が作ろうとしていたフローも変えられました」(ジョセフHC)
収穫はあったろう。
本大会を前に、テストマッチの緊張感、緊急時のストレスや戦い方、RWCレフリーの判断基準などを体感できた。後半は巧みな試合運びで接戦に持ち込んだ。ラインアウトのディフェンスは一貫して効果的だった。
李承信
選手では、2戦先発のSO李が6本のプレースキックを全成功。前戦を含めてもキック11本(4G、7PG)を全て成功させており、「自分の役割を果たせたことはポジティブ」とも話した。
一方で課題、修正点は、落球が多かったボールキャリー、修正対応が遅かったというスクラム、そして退場者を出してしまった「タックルのテクニック」(CTBライリー)だろう。
サモアはRWCになると豹変する、と、選手たちは口を揃える。
今回の課題と収穫から、チームをどう成長させるか。RWC初戦(チリ戦)は9月10日に迫る。最高出力で突進してくるサモアとの対戦は、約2カ月後の9月28日だ。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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