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松島幸太朗
16点ビハインドで迎えた後半立ち上がりの大事な時間帯に2本連続でトライを奪われ、残り30分の時点でスコアは13-41まで広がった。
6-38で完敗を喫した第1戦と同様に、このままズルズルと引き離されるのか。違った。ワールドカップ仕様の新ジャージーに身を包んだこの日の日本代表は、ここからたくましさを発揮してゲームに緊張感を呼び戻した。
セミシ・マシレワ
相手側へ大きく傾きかけた流れを引き寄せる火付け役となったのは、入替でピッチに立ったリザーブメンバーたちだ。まずは52分、入ったばかりのSH流大が、あいさつがわりのペナルティからのクイックタップで反撃の口火を切る。一連の流れから敵陣ゴールラインに迫り、判断よく密集サイドを持ち出したWTBセミシ・マシレワが左中間に飛び込んだ。
続く55分過ぎにはCTBディラン・ライリーのビッグゲインで敵陣へ攻め入り、12番の位置に入ったCTB長田智希が右サイドを好走。このチャンスはオールブラックスXVの懸命のカバーディフェンスに阻まれあと一歩でトライにはならなかったものの、今季リーグワン新人賞の23歳の堂々たるランは、スタジアムのムードをもう一段ヒートアップさせた。
ラグビーワールドカップ2023 特集ページ
さらに58分、敵陣深い位置でのマイボールスクラム起点のアタックでも、ファーストレシーバーの長田が持ち味のボールキャリーでモメンタムを生み出す。そのまま丁寧にフェーズを重ね、最後は右ショートサイドをFB松島幸太朗→マシレワで仕留め切った。
SO李承信のコンバージョンも決まり、スコアは27-41に。2トライ2ゴールで追いつく点差となったことで、フィールド上の空気はにわかに引き締まりはじめる。
そして62分30秒、今度は昨シーズンのジャパンのスキッパー、背番号16のHO坂手淳史がスクラムで統率力を発揮する。両サイドのクレイグ・ミラー、具智元のPR陣とともに一枚岩となって押し勝ち、ペナルティを獲得。左タッチラインへ蹴り出して、敵陣22メートル線上でマイボールラインアウトの好機を得た。
リポビタンDチャレンジカップ2023 ラグビー日本代表強化試合
【ハイライト動画】日本代表 vs. All Blacks XV
時計は残り15分あまり。1本取ってワンチャンスで手の届く点差に詰めれば、オールブラックスXVにはさらに大きなプレッシャーがのしかかる。粘りつくような湿気を含む猛暑もあり、さしものラグビー王国のエリートも消耗の色を隠せない。まさに勝負どころだ。
しかし日本代表はいい形を作り出したところで痛恨のエラーが重なり、足踏みするシーンが続く。刻々と減っていく残り時間に、焦りもあったのだろう。フル代表昇格に燃えるオールブラックスXVの、疲れているはずなのに本能のように体が動く反応力もさすがだった。
結局ラスト20分は双方スコアが動かず、27-41でフルタイム。ワールドカップイヤーの日本代表のスタートは、連敗発進という結果になった。
主導権争いの際(きわ)のせめぎ合いでことごとく相手に上回られ、中盤の時間帯までに大きく先行を許したことは、この試合の反省材料だ。一方でいったんは引き離されながらも気持ちを切らさず、逆転のイメージを描けるところまで盛り返したのは、現時点での日本代表の確かな地力の証といえる。取り切った3つのトライ以外にもチャンスは多く作れており、アタックでは明確に前週からの進歩を感じさせた。
長田智希
オールブラックスXVの懐深いスキルと攻守反転からたたみかける時の集中力、あらゆるプレーの土台をなす強靭なフィジカルは、さすが黒衣予備軍というべき凄みをたたえていた。2戦とも勝利には届かなかったものの、シーズン最初のシリーズでそうしたチームと戦えたことには、大きな価値があるだろう。2試合連続で先発フル出場を果たしたFL福井翔大、この日非凡な輝きを放ったCTB長田と、若い2人が動じることなく持ち味を発揮して勢いをもたらしたことも、貴重な収穫といえる。
来週からはいよいよテストマッチとなるパシフィックネーションズシリーズに突入する。サモア、トンガ、フィジーとの3連戦を経て8月15日に最終スコッドが発表され、同26日のイタリア戦が終われば、9月8日のワールドカップ開幕はもう目前だ。この2連戦で得た体感を糧に、本番に向けここから加速していくことを期待したい。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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