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HAKAに対するJAPAN XV
ラグビー王国のトップ選手たちのマルチなスキルと弱みを見せないタフネスを痛感する試合だった。ニュージーランドの準代表オールブラックス・フィフティーン(ABXV)戦を目に、リーチ マイケルキャプテンは、「テーマはストリート・ファイト。大事なのは先制パンチ」とコメントした。ラグビーワールドカップ(RWC)に向けて大事な強化試合の一戦目は、緻密なチームプレーよりも強化合宿で鍛えたタックルスキル、メンタルタフネスを披露することが大切だった。そして、なによりラグビー王国の精鋭と真っ向勝負し、日本代表サポーターへRWCへの期待感を高めてもらう。そんな戦いが求められていた。
強い風が舞う秩父宮ラグビー場には、超満員の22,283人の観衆が集った。午後5時、ABXVのキックオフで試合は始まった。ジャパン・フィフティーン(JPXV)のSO松田力也が好タッチキックで陣地を戻す。前半5分、松田のPGでJPXVが3点をリードする。LOジェームズ・ムーアは、2021年以来の代表復帰ながらキックオフで安定したキャッチを見せ、CTB中野将伍の力強いタックル、ノンキャップのFL福井翔大のジャッカルなど観客を沸かせる好プレーが続いた。
ラグビーワールドカップ2023 特集ページ
しかし、前半10分あたりからJPXVにノットリリースザボール、ハイタックル、オフサイドなど反則が続く。JPXVのゴール前のPKからABXVはスクラムを選択。JPXVがスクラムに集中したところで、素早くボールを出し、NO8クリスチャン・リオウィリーがサイドアタック、倒された直後にSHブラッド・ウェバーがボールを出し、SOスティーヴン・ペロフェタが右斜めに走りながらインゴールにボールを押さえた。JPXVのディフェンスが整う前にボールを動かすスピーディーなトライだった。ゴールは決まらず、スコアは、5-3。
福井翔大とリーチ マイケル
その後もJPXVはコンタクトでは引けを取らず、リーチが密集サイドをついて前に出るなど健闘する。互いにPGを決めあい、8-6のスコアで向けた前半37分、ABXV陣に少し入った左中間のスクラムからJPXVがサインプレーを仕掛けたが、CTB中野のパスがスローフォワードの判定。WTBセミシ・マシレワにチャンスボールが渡ったかに見えただけに惜しいシーンだった。このまま前半は終了するかに見えたが、前半終了間際、JPXVは相手ボールのラックを乗り越えてターン―オーバーに成功しながら、ハンドリングエラーでABXVにスクラムを与えてしまう。ここで猛プッシュを受けて反則を犯し、ペロフェタにPGを追加された。試合後にジェイミー・ジョセフヘッドコーチが、「ターンオーバーでボールを取り返しているのに、そこでパニックになってミスをしていた。経験ある選手までそうなっていたので修正しないといけない」と話した通り、JPXVは好プレーがチャンスにつながらなかった。
リポビタンDチャレンジカップ2023
【ハイライト】JAPAN XV vs. All Blacks XV|ラグビー日本代表強化試合
後半も先にPGを許し、15分、オールブラックスで18キャップを持つCTBジャック・グッドヒューにトライされる。松島のカウンターアタックでWTBジョネ・ナイカブラが相手陣深く入りながらパスがつながらず、逆にABXVに反撃を許したものだ。連続攻撃の中でグッドヒューに2回抜け出され、最後はWTBベイリン・サリヴァンをサポートしたグッドヒューがインゴールに走り込んだ。雑なパスでミスをしたJPXVと丁寧なパスとサポートで得点したABXVの精度の差が如実に表れた得点だった。スコアは21-6となる。
残りは20分。タックル数が多くなって疲れの見えるJPXVに対し、ABXVは30度を超える蒸し暑さの中でも疲れた素振りを見せず最後まで攻めた。冬のニュージーランドからやってきて、蒸し暑さ、強風という難しい環境でも黙々と丁寧にプレーする。ラグビー王国のトップ選手の矜持を見た思いだった。最終スコアは、38-6。ノートライに終わったJPXVは、先制パンチをふるうこともできず、粘り強さも発揮できなかった。この試合にコンディションを調整せず、ハードなトレーニングの中で新しい選手に経験を積ませながら戦うという難しい状況は理解できるが、観客を沸かせるプレーが少なかったのは残念だった。
ABXVのビリー・ハーモン共同キャプテンは、「ジャパンはストラクチャーのあるチーム。速い展開でオープンスペースを作ることを心掛けた」と語った。JPXVの前に出てくるディフェンスをさせないように、素早いボール出しで外のスペースを攻めたと語った。目論み通りにスコアされたわけだ。
JPXVの収穫はスクラム、ラインアウトが安定していたことと、久しぶりの代表復帰のムーア、福井翔大が期待以上の働きをしたことだろう。特に福井は試合前に「やるしかないし、やれる気しかしません」と語っていた通り、タックル、ジャッカルでABXVの攻撃を寸断した。ジョセフHCも「福井のプレーは他の選手にプレッシャーをかけることになるでしょう」と話し、他選手の奮起を促した。リーチキャプテンは「負けは負けで受け止めないといけないし、反省点もあります。でも、このチームの良さは反省点を修正できるところ」と話し、次の試合ではファンの期待に応えたいと話した。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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