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三菱重工相模原ダイナボアーズvs.静岡ブルーレヴズ
80分間、目の離せない激闘だった。リーグワンのディビジョン1第5節、三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)と静岡ブルーレヴズ(静岡BR)の一戦は、1月22日(日)、神奈川・相模原ギオンスタジアムでおこなわれた。ディビジョン2からの昇格一年目で3勝1敗の快進撃を続ける相模原DBのホストゲームは、10数台のキッチンカーがスタジアムの周囲を囲み、「ダイナボアーズ ダイボ君なりきりセット」の帽子など応援グッズを身に着けたファンが多数詰めかけた。なかには猪の帽子の上に、ビジターの静岡BRのニット帽をかぶって両チームを応援する人も。
開幕4連敗の静岡BRだが内容は接戦続き。相模原DBを今季より率いるグレン・ディレニーヘッドコーチも「ブルーレヴズはタフで我々と似たチーム。鏡を見ているようで、大きなチャレンジ」と接戦を予期していた。午後2時30分、世界のトップレフリーの一人であるアンガス・ガードナーレフリー(オーストラリアラグビー協会)の笛で激闘の幕が上がった。静岡BRのSO清原祥のキックオフ以降、互いに有利な地域で戦おうとキックの応酬となる。静岡BRはWTBマロ・ツイタマの好キックで相手陣深く入ると、得意のラインアウトからのモールで攻め込み、最後はSHブリン・ホールがトライ。清原のゴールも決まって、7-0と先制する。
クワッガ・スミス
静岡BRのディフェンスのプレッシャーに苦しんでいた相模原DBは、11分、自陣からCTBマット・ヴァエガが抜け出し、最後はCTBヘンリー ブラッキンが左コーナーにトライ。SOジェームス・シルコックが難しいゴールを決めて7-7の同点とする。その後もスクラムで優位に立ち、激しいコンタクトプレーで前に出る静岡BRペースで試合は進んだ。25分、相模原DBゴール前のスクラムからNO8クワッガ・スミスがサイドアタック。サポートしたブリン・ホールが押さえて、14-7と再びリードする。
その後は相模原DBが何度もチャンスを作ったが、静岡BRのキャプテン、クワッガ・スミスが判断の良いジャッカルで立ちはだかった。粘る相模原DBは、正確無比のプレースキッカーであるジェームス・シルコックが40m以上のロングPGを2本決め、14-13と1点差にして前半を終える。後半開始直後にもシルコックがPGを決めて、14-16と逆転も静岡BRは相模原DB陣10mライン付近のラインアウトからの攻撃で清原が抜け出し、PR伊藤平一郎、ツイタマとつないでトライ。21-16と逆転し、まさにシーソーゲームとなる。その戦いを3,420名の観客も固唾をのんで見守った。
ジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1
【第5節ハイライト動画】三菱重工相模原ダイナボアーズ vs. 静岡ブルーレヴズ
さらに清原とシルコックがPGを決めあい、24-19の5点差で迎えた後半29分、静岡BRは相模原DBゴール前のラインアウトを得て、決勝点を奪うチャンスを得る。ここは思い切って飛び出してきたディフェンスの前でノックオン。いったんチャンスが潰えたかに見えたが、相手ボールのスクラムを猛プッシュ。反則を誘って清原のPGにつなげた。スコアは、ワンチャンスでは逆転できない、27-18の8点差。静岡BRの勝利は濃厚かと思われた。
しかし、ハードトレーニングで鍛え上げてきた相模原DBには余力が残っていた。後半36分、シルコックのPGでまずは逆転可能な5点差に詰め総攻撃を仕掛ける。残り時間は3分。その中でボールをフィールドの横幅いっぱいを使って動かし続け、交代出場のCTBカーティス・ロナがゴールラインに迫り、ヘンリー ブラッキンがゴールライン直前の密集からボールを押さえた。静岡BRのLO大戸裕矢もボールに食らいつき、判定はTMO(映像判定)となったが、トライが認められた。劇的同点劇にバックスタンドのダイナボアーズファンが総立ちになる。多くの人は勝利を確信しただろう。しかし、ここまで100%の成功率だったシルコックのゴールキックはポストを外れた。
アンガス・ガードナーレフリーの笛が鳴る。ノーサイド直後に力を出し切った両チームの選手たちの気持ちが表れていた。キックを外し両手で顔を覆うシルコック。最初に駆け寄ってねぎらうように肩を叩いたのはクワッガ・スミスだった。そして、相模原BRの選手もやってくる。「最後まで逆転の可能性がある試合ができたのは、シルコックのキックがあったから。チームメイトが彼に駆け寄るところを見て良いチームだと思いました」。SH岩村昂太キャプテンの言葉だ。「プレシーズンにフィットネスを養ってきたことは、最後の5分に生きました」。どれほどのハードトレーニングだったのか想像がつく同点劇だった。
一方、惜しくも引き分けに持ち込まれた静岡BRもスクラムで優位に立ち、攻撃の精度も高く、悪くない戦いだった。「自分たちのスタイルをやりきること、各選手が各々の役割を遂行すること。それだけにフォーカスしました」(堀川隆延ヘッドコーチ)。今後に期待が持てる内容だった。
最後にアンガス・ガードナーレフリーについても触れておきたい。相手選手に対して、「どうだ」と言わんばかりに声を張り上げた選手にペナルティを科していた。ラグビー憲章の「品位、規律、尊重」の大切さを毅然と示すものだ。選手たちに今何が問題なのかを分かりやすく説明しながら試合を進行するレフリングは日本のレフリーのみならず、日本ラグビー全体に好影響を与えるものだった。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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