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簡単なゲームではなかった。だからこそ帝京大の強さは際立った。
前半のスコアは12-17。開始6分に先制トライを許し、その後も筑波大の気迫みなぎる攻守に食い込まれてリズムに乗り切れないまま40分を終えた。後半もマイボールスクラムでのペナルティから筑波大FB高田賢臣に約50mのロングPGを決められ、ビハインドは一時8点差まで広がった。
スタジアム全体にアップセットのムードがふくらんでいくような試合展開。それでも帝京大の堅牢な土台はぐらつかなかった。厳格なトレーニングによって築き上げてきた隙のないスタイルは、追い込まれたことでむしろ真価を発揮した。
とりわけ大きな存在感を誇示したのは、入替で後半からピッチに立ったHO江良颯だ。
まずは47分、力強いプッシュでスクラムを押し切ってペナルティをもぎ取り、ラインアウトモールでのPR高井翔太のトライを導く。51分にはフィールド中央で鋭く縦に切れ込んで豪快にラインブレイクし、敵陣22mライン内へ前進。続く右展開から大外でカットパスを受けたWTB小村真也が右コーナーに押さえた。
これで24-20と逆転した帝京大は、55分にもSO高本幹也がキックレシーブからのカウンターアタックで左ライン側を抜け出し、一気に筑波大ゴール前へ。またしてもHO江良が2人のタックラーをいなしながらオフロードでつなぎ、FL青木恵斗がゴールラインを越える。このトライでリードはまたたく間に31-20まで広がった。
こうなれば流れは完全に帝京大だ。59分にはスクラムでのペナルティ奪取で得たラインアウトから連続攻撃でたたみかけ、LO尹礼温の巧みなオフロードでWTB小村がこの日4本目となるトライをマーク。自陣22m線内のディフェンス機を危なげなくしのいで迎えた68分には、ゴール前ラインアウトからFWで近場を攻め、FL奥井章仁が左中間にねじ込む。終わってみれば45-20までスコアを広げての完勝で、前年度の大学王者が対抗戦最初の関門を突破した。
ラグビー 関東大学対抗戦2022
【ハイライト動画】筑波大学 vs. 帝京大学
前節の青山学院大戦に続き後半に底力を見せた帝京大だが、嫌なムードに陥って不思議のない展開にも動じず、流れが自分たちの側へと傾くやたたみかけて突き放す集中力と遂行力は、優勝候補筆頭の呼び声にふさわしいものだった。相手が果敢にプレッシャーをかけてくる中、かわそうとするのではなくきっちりと体を当て、選手一人ひとりが忠実に自分の役割をまっとうする。まさに横綱相撲そのものの揺るぎない試合運びに、積み重ねてきた鍛錬の成果は浮かび上がった。
戦力面では何といってもFW陣の充実が目を引く。フロントローはスクラムやモールで推進力を発揮し、尹礼温、江里口真弘の両LOは脚力を生かしたフィールドプレーで再三攻撃のアクセントとなった。青木、奥井、NO8延原秀飛のバックローの破壊力とワークレートも相変わらずで、HO江良の攻守にわたる圧巻のパフォーマンスは、埼玉ワイルドナイツのHO堀江翔太のゲームチェンジャーぶりを想起させた。
BKも多彩なプレーメイクとみずからのランでチャンスを生み出すSO高本を筆頭に、頑健なプレーで中盤に芯を通した松山千大主将、二村莞司の両CTB、さまざまな局面で抜群のセンスを見せるWTB小村真也、FB谷中樹平と、学生有数の才能がずらりと並ぶ。バックアップの層も厚く、誰が出ても持ち味を発揮してチームに貢献できるのは心強い要素だろう。就任1年目の相馬朋和監督が、この豊かな戦力をこれからどのように導いていくかが楽しみだ。
筑波大は準備してきたものを随所に発揮し、前半は完璧に近い試合運びでリードを奪った。後半先に得点を挙げた後もチャンスはあっただけに、細かい連携ミスや判断の乱れでもう一歩突き離せなかった点は惜しまれる。一方で、PR木原優作主将やLO梁川賢吉、NO8谷山隼大を軸にしたFWがフィジカルバトルで堂々と渡り合い、50分まで先行できたことは、あらためて確かなポテンシャルの証だ。ダメージが蓄積してくる残り20分をいかに戦って乗り越えるか、勝ち切る試合運びを確立することが、今後のテーマだろう。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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