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後半34分、テビタ・タタフがディフェンダーを弾き飛ばしてインゴールに飛び込んだ時、国立競技場の興奮は頂点に達した。ラグビーワールドカップ(RWC)以外の国内の日本代表戦で史上最多の観客57,011人の大半がまとった赤白ジャージーが揺れた。直後、映像判定でタタフのノックオンが明らかになる。勝利が手のひらからこぼれ落ちた。
落胆が広がったが、日本代表選手はすぐに気持ちを切り替え、その後も何度もゴールに迫った。しかし、ゴールラインを越えることはできず時間切れとなった。崖っぷちに追い込まれながら勝利したフランス代表ファビアン・ガルティエヘッドコーチは試合直後のフィールドでのインタビューを「テストマッチは勝つことが大切」と締めくくった。的を射た言葉だが、悔しい思いで聞いた人は多かっただろう。
7月9日(土)、リポビタンDチャレンジカップ2022、日本代表対フランス代表第2戦は、午後2時50分、日本代表SO李承信のキックオフで始まった。気温31度は第1戦の豊田スタジアムより低かったが、ピッチに直射日光が当たる時間が長く、選手の体感は豊田よりも暑かったようだ。両チームともに汗によるハンドリングエラーが多かったのはそのためかもしれない。第1戦の日本代表は徹底してボールをキープして攻め続けて消耗した。第2戦の日本代表は防御背後へのキックを織り交ぜ、ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチの言葉通り、「バランスをとって、賢く」戦った。
先制したのはフランス代表だった。前半9分、ゴール前5mの右ラインアウトからモールを組むもすぐに展開し、最後はWTBマティス・ルベルが左中間にトライする。その3分後、日本代表がトライを返す。相手キックをキャッチしたWTBゲラード・ファンデンヒーファーがカウンターアタックを仕掛け、FB山中亮平、WTBシオサイア・フィフィタ、CTB中野将伍、ディラン・ライリーとボールがつながる。ライリーはタックルを受けながらタッチライン際にサポートしたファンデンヒーファーへバックフリップパス。ファンデンヒーファーがゴールラインに迫り、最後は山中が大歓声のなかインゴールに駆け込んだ。後ろに蹴られたボールに対して両CTBが素早く戻って仕掛けた攻撃は整理されたものだった。スコアは、5-7。19分、李がPGを決めて8-7と逆転する。
ハイライト
日本 vs. フランス|ラグビー日本代表テストマッチ2022(07/09)
キックを効果的に使った戦いのほか、日本代表は第1戦からさまざまな修正をほどこしていた。身長201cmのワーナー・ディアンズ、202cmのサナイラ・ワクァを並べてラインアウトは、高さよりも素早く動くことで成功率を上げた。ディフェンスラインもタックラーの体の向きを修正し、穴を作らずにボールキャリアーに圧力をかけた。そして、前半40分、フランス代表のミスボールをハーフウェイライン付近で確保すると、すかさずアタック。山中、HO坂手淳史、中野がボールをつなぎ、FLリーチ マイケルがゴールに迫る。最後は好サポートの山中がトライ。15-7とリードを広げた。ボールキープとキックの判断もよく、バランスの良い戦い方が印象的な前半だった。
後半の立ち上がりは、リーチ、ベン・ガンターの両FLが好タックルを連発するも、アタックでミスが出てフランス代表SHマキシム・ルクにPGを決められ、15-10に迫られる。その後の日本代表は自陣からアタックを仕掛けるが、ハンドリングエラーで攻撃がつながらない。ややボールキープに偏り過ぎた感があった。後半17分、ワクァに代えてインパクトプレーヤーのタタフ、18分には坂手に代わって、「ラスボス」堀江翔太が登場。国立競技場はこの日最高の盛り上がりを見せた。
しかし、その後の日本代表はハンドリングエラー、ラインアウトでのスローイングミスなどが続き、苦しい展開になる。そんな状況でライリー、ガンターがジャッカルを決めてピンチを救った。後半28分には、自陣に攻め込まれたところでガンターがジャッカル。相手の反則を誘ったが、このPKから交代出場のSH茂野海人が速攻を仕掛けた。しかし、このタップキックがクリアに手から離れていないという判定で、相手ボールのスクラムになる。この判定は痛恨だった。このスクラムで圧力を受け、フランス代表の交代出場のSHバティスト・クイユーにサイドを突破されトライを奪われてしまう。スコアは、15-20。この5点差が日本代表に重くのしかかった。
そして、幻のトライシーンが訪れる。後半を通してプレーの精度を欠いたことは力不足と認めるしかない。21歳の李承信、20歳のワーナー・ディアンズほか若い力がテストマッチの経験を積み、選手層が厚くなったのは間違いない。フランス代表との2試合での修正力の高さも評価されるべきだろう。2023年のRWCフランス大会まで準備期間はあと1年。「惜しいところまでいって負けたのは悔しい。いい試合だったで終わらせないように、この経験をプラスにしないといけない」(リーチ マイケル)。その言葉通り、なぜ勝ちきれなかったのかを検証し、秋の代表戦に向けてプレーの判断、スキルの精度を高めたい。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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