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「率直に悔しいです」。坂手淳史キャプテンは試合直後のインタビューで開口一番に言った。「善戦」ではなく「完敗」だった。来年のラグビーワールドカップでベスト8以上を目指す日本代表にとって、若手が多いとはいえ、世界ランキング2位との戦いは現時点での実力を如実に表す機会だった。日本代表は「アタック・ファースト」をテーマにこの試合に臨んだ。キック戦略に長けたフランス代表に対して、できるかぎりボールをキープして攻撃を仕掛けるという意図だ。フランス代表を消耗させる狙いだったが、消耗したのはボールを6割方キープして攻めた日本代表だった。
シオサイア・フィフィタ
7月2日(土)、気温35度という暑さの中、豊田スタジアムには24,570人の観客がつめかけた。午後3時5分、アイルランド協会のフランク・マーフィーレフリーの笛が鳴り響く。フランスボールのキックオフをキャッチした日本代表WTBシオサイア・フィフィタが22mライン内から突進すると、フランス代表デビューを飾ったLOトマ・ジョルメス(身長203cm、体重127kg)が低い姿勢で激しくタックルしフィフィタを押し戻す。このインパクトは強烈だった。ここからボールを右オープンに展開した日本だがパスミスが起きてターンオーバーされ、フランスボールのスクラムとなる。
フィールド中央、ゴールラインまで10mのスクラムからの仕掛けは見事だった。スクラムは崩れたが、SHマキシム・リュキュが右にボールを持ち出し、そこに左からSOマチュー・ジャリベール、FBメルヴィン・ジャミネが縦に並んで回り込んでくる。その外側にパワフルなCTBビリミ・バカタワが縦に走り込む。ここで内側のディフェンスを止め、ジャリベールとジャミネが外側のディフェンダーに向かって斜めに走って引き寄せ、タッチライン際にいたWTBダミアン・プノーにジャリベールがロングパスを送った。走るコースとサポート選手の位置取り、パスの精度の高い攻撃であっさりと先制トライを奪う。実力差を見せつけられるような、キックオフからトライまでの一連のプレーだった。
ラグビー日本代表テストマッチ2022
【ハイライト】日本 vs. フランス(7/2)
日本代表も急きょ先発したSO李承信がフランス陣10mライン付近からPGを決め、その後もチャンスを作るが、マイボールのラインアウトを2回連続キープできずチャンスを逸する。しかし、ボールをキープして攻め、ラックサイドをFLリーチ マイケルらが突いてチャンスを作り、左に右に大きく展開しながら最後はNO8テビタ・タタフがトライをあげた。スコアは7-10と逆転。その後は互いにPGを決めあって、前半は13-13と同点で折り返す。ディフェンスで粘り、ボールを保持して攻め続ける日本代表に対して、フランス代表は苦しんでいるように見えたが、後半に入ってフランス代表はギアを上げた。
テビタ・タタフ
後半5分、フランス代表は日本陣22mライン付近のラインアウトからBKで仕掛け、CTBヨラム・モエファナが最初にボールを受ける。その背後をSOジャリベールの斜めに走り、CTBバカタワの縦へ走り込む動きでディフェンスの穴を作ると、ジャリベールの右横に走り込んだWTBマティス・ルベルがトライをあげる。これでリードすると、ジャミネの正確なPGで加点し、18分、ラインアウトからの攻撃でルベルがタックラーを弾き飛ばして加速。素早いサポートでプノーがこの日2つ目のトライをあげて、30-16。フランス代表のアタックはセットプレーから時間をかけず、最小限のエネルギーでのトライばかりだった。日本代表は最後にフィフィタのトライで一矢報いたが、42-23で敗れた。
前半は88%だった日本代表のタックル成功率は、最後は65%まで下がった。疲れでディフェンスのポジショニングが遅れ、タックルの精度も落ちていた。ボールを持って進んだ距離は、日本代表が635mに対して、フランス代表は360m。圧倒的に差があるにもかかわらず、トライ数は、2対6。フランス代表の得点がいかに効率的だったかが分かる。本来は、体格が劣る日本代表がするべき戦い方なのかもしれない。
しかし、アタック・ファーストを貫いたからこそ、さまざまな課題も見えたし、修正もしやすくなる。スクラムは比較的安定していたが、ラインアウトは長身ぞろいのフランス代表に圧力を受けた。ラインアウトの成功率アップは第2戦の勝利には欠かせない。山沢拓也の欠場で急きょ先発した李承信にとっても、フランス代表のプレッシャーの前で攻撃ラインをコントロールし、手痛いミスをした経験は貴重だ。テストマッチはほんのささいなミス、判断ミス、反則で負けてしまう。多くの選手が、これを経験できたことは計り知れない価値がある。後半に出場し、テストマッチデビューとなったPR森川由起乙、WTB高橋汰地も臆することなくプレーした。この経験が選手たちの成長を促すはずだ。第2戦は7月9日、国立競技場で行われる。コンディション不良の選手が戻って来るのか未知数だが、課題を修正し、ファンの胸を熱くする戦いを期待したい。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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