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花園近鉄ライナーズがディビジョン1(D1)昇格へ大きく前進した。
「ホストゲームでいつも以上に気持ちが乗っていました」
ライナーズの野中翔平主将の気合いは十分だった。
それもそのはず、ジャパンラグビーリーグワンのディビジョン2(D2)でリーグ戦2位通過(8勝2敗)のライナーズにとって、4月30日(土)は、大事な「1位〜3位順位決定戦」の初戦だった。
上位3チームによる1回総当たりの順位決定戦。2位と3位は順位決定戦後、D1の下位2チーム(NTTドコモレッドハリケーンズ大阪を除く)との入替戦に進むが、1位はD1へ自動昇格だ。
今回、本拠地の東大阪市花園ラグビー場に迎えた相手は、すでに順位決定戦で1勝を上げているリーグ戦3位通過(7勝3敗)の三重ホンダヒート。
ヒートは勝てば自動昇格が決まる。ライナーズにとっても、負ければ自動昇格を逃してしまう大一番だった。
リーグ戦でライナーズに今季連敗しているヒートのFL古田凌主将は「2回負けていたので勝ってやろうと思っていました」。こちらも気合いは満点、リベンジ達成と昇格を掴みにいった。
ライナーズは、この試合で翌5月1日に38歳になったLO松岡勇が公式戦100出場。レジェンドロックのメモリアルゲームに華を添えたいライナーズは、前半から快調に飛ばした。
先制点はライナーズのWTB木村朋也のインターセプトだった。
FL野中主将の好タックルで相手を押し込むと、FBマット・ダフィーが窮屈に放ったパスを奪取。そのまま振り切り5点(ゴール失敗)を奪った。
しかし序盤のヒートは崩れず、前に出るディフェンスから攻守交代。前半22分にはPG(ペナルティゴール)で3点を返し、2点ビハインド(3-5)とした。
ライナーズの逆襲に火を付けた一人がCTB吉本匠だ。
スキルと強さを兼備した果敢なボールキャリー、さらには相手のミスを誘う好タックルなどで存在感を示した。起用の理由をライナーズOBの佐藤幹夫コーチはこう明かした。
【順位決定戦 第2節ハイライト】花園近鉄ライナーズ vs. 三重ホンダヒート|ジャパンラグビー リーグワン2022 ディビジョン2
「(起用の理由は)コンディションがすごく良かったことと、我々のスタイルで重要なポイントである10番、12番ができること。フィジカルも強い。今日はすごく良かったです」
ライナーズは前半25分、不用意な反則が続いたヒートを押し込み、ゴール前でSOクエイド・クーパーが相手2人を巻き込むポジショニング&ステップ。CTB吉本がインゴールに駆け込み、12-3と突き放した。
一戦必勝の重大局面でヒートは規律に苦しんだ。
前半36分には痛恨のペナルティトライを与えた。ヒートのLOフランコ・モスタートが、ボールを受け取る寸前だったCTBシオサイア・フィフィタを押して転倒させた。
このプレーでLOモスタートはシンビン(10分間の一時退場)となり、さらに反則がなければトライだったとして7点を失ってしまった。
後半に入っても序盤は14人だったヒートに対し、ライナーズがさらに攻勢。千両役者のSOクーパーの才気が爆発した。
SOクーパーは自陣でジャッカル&クイックリスタートで左隅を突破。フォローしていたLO菅原貴人が独走トライ。さらにWTB木村の2トライ目などでリードを30点(33-3)に広げた。
ヒートのFL古田主将が「良い時間帯もあった」と語ったように、30点ビハインドのヒートがここから2連続トライで粘った。
まず2人のランナーが驚異的な切れ味を披露したのは後半13分だ。
ヒートは自陣からFWが見事なモールで押し込むと、左隅で明治大学出身のWTB尾又寛汰が相手を切り裂くビッグゲイン。
さらにボールは途中出場の俊足SH根塚聖冴へ。相手を翻弄するステップで次々に相手を抜き去り、後半13分にWTB生方信孝がこの日チーム初トライ。
根塚は8分後に自身でトライも決め、ヒートは30点だったビハインドを一気に16点差(17-33)に縮めた。
ここでライナーズの停滞ムードを一掃したのは、第7節以来の出場となったSOクーパーだった。
巧みなロングキックでエリア獲得に貢献していたファンタジスタは後半26分、最後はみずからを囮として、死角から走り込ませたCTBフィフィタのトライをアシスト。
さらに直後、みずからライン突破したSOクーパーは、左大外の空いたスペースへ縦回転のキックパス。このバウンドをWTB片岡が捕球し、反撃の芽を摘むようなファンタジックなトライ。
リードをふたたび30点(47-17)に広げ、そのまま試合はノーサイドを迎えた。
計6トライを奪ったライナーズ。野中主将が試合前から「ゲームメイカーと僕は狙っていた」というボーナスポイント付きの勝ち点5を見事に手にした。
ライナーズは試合後、メンバー全員が公式戦100試合出場のLO松岡の写真が載った特製Tシャツを着込み、記念セレモニーを行った。マイクを握った松岡は仕事人のロックらしく「みなさんの応援が力になりました。サポートを頂いて100試合を達成できました」と淡々と語った。
ライナーズが勝ち点5になったことで自動昇格がなくなった勝点4のヒート。指揮官の上田泰平ヘッドコーチは記者会見で、みずからに否があるとした一方、選手の努力は誇った。
「前半からはライナーズさんはスペースに対するアタックの姿勢がよく見られていました。そこで受けてしまったというより、選手自身体が堅くなってしまったのかなと。選手を緊張させる状態でやらせてしまったことは反省しています。選手はきついなかでも体を張ってくれました。最後はホンダの時間帯も作ることができました」
入替戦出場が決まったヒートのFL古田主将は、早くも次へ視線を向けていた。
「確実にチームとして成長しています。チームがひとつになって、毎回良い練習ができて試合に臨めています。アタックでも前に行こうという気持ち、ディフェンスもシステムを守ってやりきろうという姿勢が見られる。まだ試合は残っているのでしっかりやっていきたいです」
一方、悲願のD1昇格へ前進したライナーズ。
佐藤コーチは「(松岡)勇の100キャップを祝うことができた。自分たちのスタイルをやり抜けたことが収穫」と落ち着いた声色で振り返った。
ライナーズはいよいよ昇格をかけた最終局面へ挑む。
相手は三菱重工相模原ダイナボアーズ。今季連敗している相手であり、FL野中主将の闘志は早くも滾っていた。
「ダイナボアーズさんに(今季)2つ負けている。これまでブレイクダウンでボールを失った回数が多いので、そこは重要になると思います。ただ同じ相手に何度も負けるのはプレイヤーとして許せないところがある。そこは意地ですね。そこへ向かうまでに意地ではないところを詰めていきます」
D2の優勝チームは5月8日(日)に決まる。舞台は西の聖地から、東の聖地へ。東京・秩父宮ラグビー場がファイナルバトルの会場だ。
文:多羅 正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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