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三重ヒートが今季ベストのパフォーマンスで大きな白星を獲得。相模原ダイナボアーズは相次ぐアクシデントに泣く。リーグワンディビジョン2順位決定戦レビュー
ラグビーレポート by 直江 光信三菱重工相模原ダイナボアーズ vs. 三重ホンダヒート
極限の重圧がのしかかる大一番。だからこそ想定外の出来事にもアジャストする適応力が重要な意味を持つ。それがポストシーズンの戦いだ。ディビジョン2の順位決定戦第1節、リーグ戦1位通過の三菱重工相模原ダイナボアーズと同3位三重ホンダヒートの一戦も、まさにそんなゲームだった。
キックオフ直後から接点で激しいバトルが繰り広げられる中、開始3分にダイナボアーズ、7分にヒートがPGを決め合う緊張感に満ちた立ち上がりとなったこの試合。芝の上のムードが一変するアクシデントが起こったのは、10分過ぎだった。中盤の攻防でヒートNO8ヴィリアミ・アフ・カイポウリにタックルした際に、ダイナボアーズのSOコリン・スレイドが左肩を負傷。70分近い時間を残した段階で、中枢としてチームをコントロールするはずだったプレーメイカーがピッチを離れる事態になったのだ。
代わってSOの位置に立ったのは、この春でダイナボアーズ在籍15年目となる大ベテラン、37歳の阿久田健策。実はこの阿久田も、当初15番で先発予定だった石田一貴のケガで試合前日に急遽メンバー入りが決まった状況だった。ダイナボアーズにすれば、いきなり崖っぷちに追い込まれたような心境だっただろう。
そしてこの直後、ヒートの貴重なトライが生まる。22メートルライン上のラインアウトから左順目にフェーズを重ね、タックル後のボールを鋭く持ち出したカイポウリが一直線にポスト下へ。SO朴成基のコンバージョンも決まり、10-3と先行した。
ヒートが一気にたたみかけそうな場面だったが、開幕から9連勝で首位を快走したダイナボアーズの地力もまた確かだった。続くキックオフからの攻防で相手陣に攻め入ると、左中間22メートル付近のスクラムを起点に右へ展開。SH岩村昂太のパスをダイレクトに受けたCTBマイケル・リトルが柔らかいタッチで防御ライン裏のスペースにキックを上げ、弾んだボールをCTB奈良望が胸に収めてインゴールに飛び込む。阿久田のゴール成功で試合は振り出しに戻った。
その後はハイペースで仕掛けるヒートのアタックに対し、ダイナボアーズが渾身のディフェンスでしのぐ流れで時計が進む。風上の優位性もあって30分以降はほぼヒートが敵陣で攻め続けたが、ダイナボアーズも集中力高くひたむきにタックルを繰り返してゴールラインを死守。拮抗した内容のまま、前半の40分を終えた。
10-10で迎えた後半。勢いを持続するヒートが44分にPGを加え、一歩先に出る。さらに50分にも入替出場のSOジョノ・ランスが右中間約25メートルのPGを決め、スコアは6点差に広がった。
しかしダイナボアーズもここで底力を見せる。54分に得たゴール前のマイボールスクラムでFWが粘り強く近場を攻め、最後はラックサイドをもぐったSH岩村が腕を伸ばして右中間にグラウンディング。SO阿久田が落ち着いてコンバージョンを通し、17-16と逆転を果たす。
そこからは壮絶な死闘となった。ともに力を振り絞って厳しくプレッシャーをかけ合い、めまぐるしく攻守が入れ替わる。疲労が蓄積し足が止まり始める時間帯に入っても、両者の活力と意志はまったく衰えない。
そうした中、勝負を決定づけるシーンが訪れたのは72分だった。入替で入ったばかりのダイナボアーズHO大塚憂也が、相手選手への危険なタックルでシンビンの一時退場に。ヒートはこの有利な状況を逃さずチャンスに結びつけ、76分にランスが右中間約25メートルのPGを決めて土壇場で19-17とゲームをひっくり返した。
ダイナボアーズも懸命に食い下がり、続くキックオフでペナルティを獲得すると、阿久田が正面約35メートルの位置でPGを狙う。しかしプレッシャーからかこのキックはミスショットになり、逆転はならず。ラストプレーでもヒートが連続ディフェンスでダイナボアーズをキャリーバックに追い込み、歓喜の拳を突き上げた。
リーグ戦では思うように調子が上がらず3位通過となったヒートだが、この大一番でシーズンベストといえるパフォーマンスを発揮した精神力は見事だった。とりわけ際立っていたのがディフェンス時のディシプリンへの意識で、不要なペナルティで相手にチャンスを与えるケースが極めて少なかったことが、大きな勝因となった。これでディビジョン1に自動昇格となる1位へ王手をかけた形となり、最高のマインドで次週の花園近鉄ライナーズ戦へ向かえるはずだ。
一方のダイナボアーズは、試合直前のメンバー変更も含めキーポジションにアクシデントが重なったことがあまりに痛かった。ただ、その状況でも勝利に肉薄するところまで持ち込めたのはまぎれもない実力の証だ。大きい敗戦となったのは事実だが、次節のライナーズ対ヒート戦の結果次第では、まだ自力での1位の可能性も残る。ハプニングによって平静を失い規律が乱れた反省点を克服し、この先の戦いで真価を見せてくれることを期待したい。
文:直江 光信
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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