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稲垣 啓太(埼玉ワイルドナイツ)
「持てるもの全てを懸けて戦いました」
負ければ4強プレーオフ進出が絶望的になる7位(5勝7敗)のコベルコ神戸スティーラーズ。
デーブ・ディロンHC(ヘッドコーチ)は試合後、2位(10勝2敗)埼玉ワイルドナイツ戦への覚悟をそう表現した。
ジャパンラグビーリーグワンの最高峰「ディビジョン1(D1)」は第13節。
4月16日(土)、埼玉・熊谷スポーツ文化公園ラグビー場で開催された一戦は、6点差の熱戦になった。
前半2分にペナルティゴール(PG)で3点を先取したワイルドナイツは、ファースト・スクラムで会心の一撃。
今季D1随一の安定感を誇るスクラムで、まっすぐ組み勝ってペナルティ奪取。ここから敵陣に入り、モールから左隅にポジショニングしたNO8大西樹が狙いすましたトライ。8点リードを奪った。
風下から反撃を試みるスティーラーズだが、ワイルドナイツのWTBマリカ・コロインベテが守備で立ちはだかった。
ジャッカルに加え、スティーラーズの突進役であるWTBアタアタ・モエアキオラを弾き飛ばす強烈タックル。ド迫力のマッチアップを披露した東海大学の元キャプテンは「チャレンジしたかった」と明かした。
「相手(コロインベテ)は世界トップレベルのウイング。成長するために強みのフィジカルを出して、チャレンジしました。強かったです(笑)。良い経験と勉強になりました」(スティーラーズ、WTBモエアキオラ)
しかしスティーラーズには風下の劣勢をはねかえす実力があった。
LOジェラード・カウリートゥイオティのビッグタックル、FL橋本皓キャプテンのジャッカルなどから再三敵陣へ。
重要なフィニッシュの場面、この日武器となったラインアウトモールから、SOアーロン・クルーデンが数的優位を作ってWTBモエアキオラのトライをアシスト。
後半27分に待望のチーム初トライ(ゴール失敗)を決めると、直後にPGで3点を失ったものの、前半終了間際の38分にふたたびモールで攻勢。HO有田隆平が右隅に押さえ、1点ビハインド(10-11)で後半へ向かった。
後半風上のスティーラーズはキックも上手く活用しながら逆転を目指した。
「後半は風上になり、風の力も利用して賢くキックも使おうと話しました。ワイルドナイツさんはキックリターンからのスコアが多いチーム。キックの仕方も話しましたし、ボールを一度持つことが出来たときにはチャンスをものにしていこう、と伝えました」(スティーラーズ、ディロンHC)
後半のスティーラーズは最高のスタートを切った。
後半4分、スクラムからラックを作らずCTBルカニョ・アムが右へ配球すると、WTBモエアキオラがマッチアップの相手WTBコロインベテを弾き飛ばし、豪快な逆転トライ。SOクルーデンがこの日初めてコンバージョンを決め、ついにこの日初めてのリード(17-11)を奪った。
しかし後半に強いワイルドナイツは、この日も健在だった。FW4人が代わっていた後半11分から3連続トライを決めたのだ。
ゲームチェンジャーの一人になっている堀江は、途中出場で意識している点をこう明かした。
「意識していることは『やってきたこと以外はしないようにしよう』ということです。ゲームを変えてやろう、といったプレーはしない。最後の80分までやってきたことをやり続ける。それ以外は考えていないです」(HO堀江)
積み重ねてきたこと以外はやらない。36歳の名フッカーは、チームにとっての勝利への最善手を押さえていた。
後半16分にスティーラーズはFB山中亮平がノーボールタックルで痛恨のシンビン(10分間の一時退出)となり、直後にWTB竹山晃暉が右隅で後半2トライ目。同24分にはゲームチェンジャーの堀江みずからが後半3トライ目を決めた。
13点リード(30-17)を奪われたスティーラーズだが、新加入の南アフリカ代表CTBアムが流石のジャッカル。
ジャパンラグビーリーグワン2022ディビジョン1
【第13節ハイライト】埼玉ワイルドナイツ vs. コベルコ神戸スティーラーズ
前半から戦果を上げているモールに賭け、後半28分にモール最後尾のSH日和佐がグラウンディング。6点差(26-30)に詰める奮闘を見せた。
いよいよ最終盤。ここでも決定的な仕事をしたのはワイルドナイツだった。
後半35分、ワイルドナイツはペナルティから勝負のスクラム選択。
ここで見事に強制ペナルティ(コラプシング)を引き出すと、生まれたアドバンテージを活かしてSO松田力也が防御裏へショートパント。スクラムでの勝利からCTBライリーのダメ押しトライに繋げた。
13点ビハインドになったスティーラーズは後半ロスタイムにWTB山下楽平がフィニッシュし、SOクルーデンが風を読んだキックで最後は6点差(31-37)としたが、無念のノーサイド。
意地で7点差以内のボーナスポイント「1」を手にしたものの、残り3試合でプレーオフ圏内の4位横浜キヤノンイーグルスとの勝ち点は14差。プレーオフ進出は極めて厳しくなった。
堀江 翔太(埼玉ワイルドナイツ)
これで11連勝となったワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督は「後半の効果的なプレーによって勝つことが出来ました。野口や山沢拓也などの選手が復帰してきたこと、またFLラクラン・ボーシェーやLOジャック・コーネルセンの役割も大きかった」と振り返った。
一方、プレーオフ進出が厳しくなったことについて、スティーラーズのディロンHCは「非常に残念。コロナ禍による試合中止は不戦敗になるのでそこも響きました」と語った。
「前半は上々の結果でしたが、後半はプレーの質が高まってきませんでした。チャンスもありましたが、取りきることができませんでした。最後にもう一度立て直し、ボーナスポイントを取ることが出来ましたが、非常に悔しい結果となりました。ワイルドナイツさんは勝つべくして勝ちました」
スティーラーズの被ペナルティは14回(ワイルドナイツは12回)で相手と大差はなかったが、勝負所の後半で、シンビンの間に2トライを奪われた。FL橋本キャプテンは「反則から相手に流れを渡してしまったことは残念」と振り返った。
11勝2敗となったワイルドナイツは次戦、4月23日(土)、プレーオフ圏内で争っている好調イーグルスとの上位対決に臨む。
一方のスティーラーズは同日、クボタスピアーズ船橋・東京ベイと東京・江戸川区陸上競技場で相まみえる。
ハイレベルの熱戦が続くD1。果たして初代王者への挑戦権を手にする四傑はどのチームか。
文:多羅 正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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