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埼玉ワイルドナイツ vs. シャイニングアークス東京ベイ浦安
ジャパンラグビーリーグワンの最高峰ディビジョン1(D1)第12節で、下馬評を覆すような展開があった。
3勝8敗(実戦3勝5敗)で11位のシャイニングアークス東京ベイ浦安が、9勝2敗(実戦9戦全勝)で3位の埼玉ワイルドナイツを追い込んだのだ。
直近のリーグ戦で26戦無敗(25勝1分)の昨季チャンピオンに、11位のチームが肉薄した理由はいくつかありそうだ。
一つはシャイニングアークスにトップ・オブ・トップと伍するだけの潜在力があったこと。
2010年度のトップリーグ初参戦から継続強化し、近年はSHグレイグ・レイドロー(元スコットランド代表)やFBイズラエル・フォラウ(元オーストラリア代表)らの海外スターに加え、優秀な大卒新人選手も入団。選手層が着実に厚くなっていた。
その実力をパフォーマンスとして表現するためには実戦経験が必要だったが、今季はコロナ禍の影響で3つの不戦敗、活動中断を味わった。ロブ・ペニー監督はワイルドナイツ戦後にこう語っていた。
「これまではチームとしての連係が望んでいたレベルにありませんでした。連係を高めるためにはゲームタイムを共に重ねることがかなり重要ですが、コロナ禍による影響でゲームタイムを伸ばすことができず、それがチームに勢いをつける妨げになっていたことは事実です」
また今季はコーチングスタッフが大きく変わり、マットコーベイン(DFコーチ)、元日本代表のブライスロビンス(スキルコーチ)が加わった。ペニー監督自身は2期目だが、2018年度までの1期目を知らない若手もいる。タレントはおり潜在力はあるが、スタイル等の浸透に時間が掛かっていたというわけだ。
しかしシーズンが深まるにつれ、連係面の精度が上がってきたという。
「細かい戦術が合ってきて、チームも良くなっています。この試合(パナソニック戦)でかなり自信が付いたと思います」(シャイニングアークス、NO8リアム・ギル)
ワイルドナイツ戦のシャイニングアークスは、敵地戦ながら前半を10-0とリードして折り返した。
ディフェンスでは守備力の高いバックロー(FLトンプソンルーク、FL松本健留、NO8ギル)を始めとして堅陣を敷き、SO松田力也を中心に多用するキックに対してはFBフォラウなどが上手く対応。
前半11分、FBフォラウのハイボールキャッチから攻守交代が起きると、ここから攻め込み、相手の反則を受けてSOレイドローがショット成功。
3点を先取すると、さらに同31分にはSOレイドローのショートキック再獲得から途中出場のマッケンジーアレキサンダーがリーグ初トライ。レイドローの10番起用が的中する格好となり、10点リードのまま後半へ向かった。
しかしワイルドナイツは後半に強い。
迫力十分のリザーブ陣がこの日も爆発的な力をチームに与えた。どうしてワイルドナイツは後半に強いのか、と問われた背番号18のヴァルアサエリ愛が、こう話していた。
「インパクトプレイヤーがいて、チームの勢いを作ることができるからです」
ワイルドナイツはこの日、後半開始からヴァルアサエリ愛、そしてクレイグ・ミラーという2人の日本代表プロップを投入した。
するとシャイニングアークスは開始から反則を立て続けに犯し、開始1分で自陣に後退。先発だったLO宮川智海が効果的なキャリーで会場を沸かせると、最後はそのPRヴァルがSOレイドローを弾きながらフィニッシュした。
「ハーフタイムでは、前半は自分たちのミス、ペナルティが多くて良くなかったので、そこを改善すること、そして役割をその場で判断していくことも話しました。後半はスタートから、自分たちのやるべき事ができました。良い改善でした」(ワイルドナイツ、HO坂手淳史キャプテン)
後半最初のチャンスでトライ(ゴール成功)を決め、いきなり3点差(7-10)に詰めたワイルドナイツは、さらに攻勢。
「前半を通して、大外が空いていることに気付きました」(ワイルドナイツ、CTBディラン・ライリー)
トライ直後の後半5分、日本代表CTBライリーが、複層的なアタックの突破役を務めて左隅をラインブレイク。狙い通りのブレイクから、WTBマリカ・コロインベテが2トライ目。
ワイルドナイツはあっという間に21-10と逆転。逆に11点のリードを奪った。
「後半の始めに3トライされました。そこは突き詰め方が足りなかったと思います。最後取り切れないところも勝つチームと負けるチームの差だなと思いました」
飯沼蓮(シャイニングアークス東京ベイ浦安)
試合をそう冷静に振り返ったのは、攻撃的な仕掛けや配球、落ち着きが光ったルーキー、元明大キャプテンのSH飯沼蓮だ。
そのSH飯沼は、3連続トライを浴びたものの「そこからハドルを組んで追い返せた」とチームを誇った。
後半21分には強烈なディフェンダーである途中出場のジミー・トゥポウが、モール攻撃からのFW戦でグラウンディングに成功。そしてSO松田のPG成功でふたたび7点差(17-24)とされた後半32分、あの男が豪快なランを見せる。
シャイニングアークスがこの日肉薄することができた理由の一つには、局面を打開できる絶対的エースの存在もあるだろう。
「自分の強みを局面で見せられたことには満足しています。(シャイニングアークスは)アタッキングチームで、試合中はいつも絡んでいける局面を探しています」(シャイニングアークス、FBフォラウ)
エリア中盤でこぼれ球を受けた33歳は、ハンドオフやステップなど多彩な技術を織り交ぜながら中央突破。個人技でワイルドナイツの鉄壁をこじ開け、問答無用の豪快トライ。スコアはコンバージョン成功で24-24の同点となった。
しかしワイルドナイツにも歴戦の猛者がいた。
失トライ直後の後半35分、途中出場のHO堀江翔太がスピード感溢れるランで間隙を突破。オフロードパスを成功させ、ここからCTBアソが勝ち越しトライが生まれたのだ。
後半ロスタイム。
同点を目指してトライを狙ったシャイニングアークスだが、最後はPRヴァルのディフェンスを起点にターンオーバー。ここでも途中出場組が決定的な仕事をして、タッチに蹴り出し、ノーサイド。
ジャパンラグビー リーグワン2022 ディビジョン1
【第12節ハイライト】埼玉ワイルドナイツ vs. シャイニングアークス東京ベイ浦安
連勝が大台の「10」に乗り、ついに2位に浮上したワイルドナイツ。ロビー・ディーンズ監督は「勝利のためにはハードワークが必要で、ギリギリのところでの勝利になりました。結果を手にしたことは嬉しいです」と振り返った。
ただ、シーズンが深まり怪我人が増えているとしつつ、後半4分に負傷後退した先発LO宮川については「今日ピッチで負傷した宮川選手のケガはオペが必要、という状況です。早い復帰を望んでいます」と気遣った。
一方、9敗目を喫したシャイニングアークスだが、ペニー監督は7点差の激闘を演じた選手を「誇りに思う」と讃えた。
「選手を誇りに思う気持ちでいっぱいです。かなり大きなエナジーを見せてくれました。彼らが見せてくれた努力は素晴らしかった。このリーグ(ディビジョン1)で闘っていけることを証明できました」
また、先発SH飯沼については「新加入で才能のある選手。これから見られることを楽しみにしています。9番は競争率の高いポジションですが、これから良いパフォーマンスを出せることを証明してくれました」と及第点を与えていた。
シャイニングアークスは4勝目を懸けて4月15日(金)、8勝4敗(4位)の横浜キヤノンイーグルスとナイトゲーム(19時キックオフ)で激突。
そしてワイルドナイツの次戦の相手は、5勝7敗(7位)のコベルコ神戸スティーラーズ。前回対戦は後半40分に堀江翔太が逆転トライを決める劇的な幕切れだった。
我々はふたたび「逆転のワイルドナイツ」を目撃するのか。それともスティーラーズが名門の意地を見せるか。激戦は必至だ。
文:多羅 正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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