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ラグビー コラム 2022年4月11日

世界にひとつだけのクラブ~活動停止の宗像サニックスに敬意を~

be rugby ~ラグビーであれ~ by 藤島 大
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かつて「3対211の男」がトップリーグで存在を示した。もういっぺん。3対211である。
古賀龍二。覚えておられるか。かの「あなごステップ」の背番号15である。日本代表の名WTB、小野澤宏時の「うなぎステップ」にあやかる。同じようにスルスルと防御の網をよくすり抜けた。うなぎ(鰻)でなく、あなご(穴子)。こちらはいささか庶民的だ。

佐賀東高校から福岡工業大学へ進み、2015年度限りでの引退までトップリーグに114試合も出場した。そして、ここが重要なのだが所属クラブはサニックス!福岡は宗像の忘れがたきチームで16年間、読みが深く味わいも深いプレーを続けた。

3対211とは高校時代の佐賀県大会決勝のスコアである。もちろん相手は佐賀工業高校。もちろん負けた。それにしても30分ハーフでこのスコア。13年前に本人が話した。

「トライされた後にインゴールで円陣を組む時間もありませんでした。佐賀工には200点のノルマがあるのか難しい位置だとノーゴールと宣告して、すぐに始まる」

福岡工業大学へは学業の推薦で入った。ラグビー部へ。なんと、その年度からスポーツ推薦が導入されて、一学年下に佐賀工業の選手が入部してきたのには苦笑した。そんな無名の青年をサニックスは迎え入れ主軸へと育てた。

かつて「水道料金滞納者の栓を閉める仕事をしていた男」がトップリーグで存在を示した。

濱里周作。おもにCTBが持ち場だった。着実にゲインを切り、タックルの的を外さない。あたりまえの攻守をもれなく遂行する。監督にも元オールブラックスにも臆せずに接して申すべきは申した。万事に動じるところがない。所属はサニックス!

沖縄の名護高校の出身である。能力を認められたが大学ラグビーの道を選ばなかった。学業成績は優秀らしい。なのに、どうして、と、のちに聞くと話した。「勉強は得意だった。だけど、これ以上、勉強するのは嫌でした」。これ、名言ではあるまいか。

卒業後、地元のやんばるクラブに所属、市管工事組合に籍を得て、水道料金滞納の家の栓を施錠して回った。やがて、やんばるの仲間の声が高まる。

「周作がここにいるのはうれしい。しかし、ここにいるべきではない。さあトップリーグへ」

サニックスのトライアルに臨んだ。外国人選手を倒しに倒して、セッションが終わると言った。「さ、帰りましょうね」。入団は決まった。2007年から2020年まで在籍、トップリーグに77試合出場した。

いま頭に浮かび、直接取材した両雄を挙げた。こんな経歴の者はあまたいる。たとえば現役のプロップ、加藤一希は、愛知の春日丘高校では、かの姫野和樹と同期、ただし、こちらは「3軍」だった。それがサニックス、宗像サニックスブルースである。

このほど「2022年5月末日」をもって「活動休止」が発表された。「現下の経営環境を総合的に判断した結果」である。あらためて記録ならぬ記憶のクラブに敬意を捧げよう。いっぺんも王様でなかったが、いちども負け犬ではなかった。関東や関西の強豪大学からの逸材はたいがい素通りする。名も無き選手たちは、しかし、独自の方法で「富める者」を困らせた。

 

2008年。神戸製鋼コベルコスティーラーズを破る。京都の西京極における快挙だった。25対21。31歳の古賀龍二、22歳の濱里周作はともに先発に名を連ねていた。

サニックスの培った根の力の証明はむしろ翌09年度の同カードに示された。敵地に近い雨中の大阪で9対12の惜敗。前年の黒星に油断を断った才能集団に堂々と伍した。

神戸製鋼のSH後藤翔太は試合後にこう話した。
「トップリーグで戦っていて相手に哲学を感じるのは上の三つ(東芝、三洋電機、サントリー)とサニックスです」

フィットネスがあった。パス主体のスタイルがあった。元名古屋の青果市場勤務、こちらも叩き上げの藤井雄一郎監督(現・日本代表強化担当)は、戦法や練習法を自分の頭で創造できた。どのみち国内の大物は入団しない。だから「走りつなぐ」に割り切れた。新人が春の練習で8kgもやせた。サニックスはこの09年度に7位。これが最高の成績となった。

 

2012年の春。当時の日本代表のエディ・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)にサニックスの印象を聞くと語った。

「スタイルを評価します。いいラグビーです。ボールの動かし方に独自性がある。成績にも示されています。でもあのスクラムやモールでは優勝はできない。本当に強いチームには勝てません。国際ラグビーに置き換えればトップ10には入れない」

甘い言葉ではないが正しい評価だと思う。

2015年のワールドカップ。南アフリカ代表スプリングボクス戦の殊勲のトライ。かのヒーロー、カーン・ヘスケスは宗像が国際舞台に送り出した。強靭なステップのランナーはニュージーランドでは身長が「ショート」とされ、オールブラックスどころかスーパーラグビーにも招かれなかった。でも日本の九州に目利きがいた。

16年1月。ヘスケスその人に質問してみた。母国にいたころに「いつの日か自分がスプリングボクスをやっつける」なんて想像しましたか?

「もちろんノーです」

この一言だけで宗像サニックスブルースは世の中にあってよかった。

文:藤島 大

藤島大

藤島 大

1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。『 ラグビーマガジン 』『just RUGBY 』などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。

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