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埼玉パナソニックワイルドナイツの防御は攻撃と表裏一体だ。相手のアタックを受け止め、ボールを奪い返して終わりではなく、そこからカウンターで切り返すところまでがひとつのセットになっている。攻守反転、いわゆるターンオーバーの直後は相手のディフェンス体勢が整っていないから、もっとも攻めやすいシチュエーションになる。そこから生まれたトライが、この日もゲームの大勢を決めた。
開始5分にワイルドナイツ、7分にNTTドコモレッドハリケーンズが1本ずつPGを決め合う立ち上がりの中、最初のトライが生まれたのは10分だった。中盤でのFLベン・ガンターの猛タックルからワイルドナイツがボールを奪うと、すかさず周辺の選手が反応して左サイドのスペースを前進。一連の流れでテンポよく攻撃を継続して相手防御を崩し切り、SO松田力也がギャップを抜け出して中央に飛び込んだ。
その後もホストゲームで気迫をみなぎらせるレッドハリケーンズの攻守に受けることなく体を当ててプレッシャーをかけ続け、ペナルティを誘発。22分、29分と、もうひとつの得点源であるゴール前でのラインアウトモールでキャプテンのHO坂手淳史が連続トライを挙げ、24-3とリードを拡大する。
レッドハリケーンズも34分、ハイボールのこぼれ球をPR西川和眞が確保してチャンスを作り、すばやいボールアウトからSO川向瑛のキックパスが右外のWTBラリー・スルンガに通ってトライを返す。しかしワイルドナイツは直後の38分、キックレシーブからの切り返しで左サイドを突破し、細かくパスをつないでNO8ジャック・コーネルセンが左スミにグラウンディング。ハーフタイム直前にレッドハリケーンズがゴールライン目前まで迫ったものの、ワイルドナイツはあわてることなくきっちりと攻め手を封じて反則を誘い、31-10で前半を折り返した。
後半最初の得点も、ワイルドナイツの得意のパターンから生まれた。9分、ハーフウェーライン付近で相手のパスミスに鋭く反応してカウンターアタックを仕掛けると、ディフェンスの薄い右オープンを攻略しCTBディラン・ライリーがインゴールへ走り抜ける。以降はPR稲垣啓太やHO堀江翔太ら豪華なリザーブメンバーを次々に投入し、主導権を完全掌握。13分にWTB竹山晃暉、21分WTBセミシ・トゥポウ、27分LOマーク・アボット、36分CTBライリーと、自在の攻めで着実にトライを重ねた。
終わってみれば66-10の圧勝で6連勝を飾ったワイルドナイツ。9トライをマークしたアタック面以上に際立ったのが、終始安定感を保ち続けたディフェンスだ。レッドハリケーンズの果敢なファイトに自陣深くまで攻め込まれるシーンも少なかったが、まるで動じることなく強固な陣形を敷き、あと一歩の前進をことごとく阻止。一発一発のタックルの厳しさに加え、懐の深さも感じさせる守備局面でのパフォーマンスに、前年度王者の貫禄がにじんだ。
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪 vs. 埼玉ワイルドナイツ アクションエリア
ボールポゼッションや地域支配率は両軍ともほぼ同じ数字ながら、スコアでは大きな差がついた。それこそが試合巧者ぶりの表れであり、ワイルドナイツのゲームだったことの証といえるだろう。これでワイルドナイツは勝点を27に伸ばし、3位に浮上。開幕からの2節こそ新型コロナウイルスの影響で不戦敗となったが、実施された試合に限れば6戦全勝で、全16節のリーグ戦の折り返し地点にして早くも頭ひとつ抜け出しているような印象すら抱かせる。
一方のレッドハリケーンズは前の試合から中4週と間隔が空いたこともあってか細かい部分の連携ミスが多く、攻めた場面でスコアを積み上げられなかったことが大敗の要因となった。これで6敗目となり、戦った試合では勝利がない状況が続いている。多くの主軸がケガで戦線を離脱しており、復帰を待ついまがまさに今季の踏ん張りどころ。残り8節での巻き返しを期待したい。
文:直江 光信
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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