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花園の最高成績はベスト4。歴史をつくることができるか
12月27日に開幕した「花園」こと、全国高校ラグビー大会。近年、Aシードに匹敵するほどの力をつけてきたチームがある。それが31大会連続31回目の出場の石見智翠館(島根)だ。
昨季は3回戦で東福岡(福岡)に26-28で惜敗。そして、今季は春の選抜大会の2回戦で國學院栃木(栃木)に勝利し、準々決勝で東海大大阪仰星に3-14で敗れた。実力があるところは高校ラグビーファンに見せたと言えよう。
1990年創部の石見智翠館(元・江の川)と言えばディフェンス力に定評のあるチームで、2012年に春の選抜大会では準優勝の経験はあるが、花園では2015年度のベスト4が最高で、ベスト8も2回のチームだ。
コーチとして3年、指揮官として21年目の安藤哲治監督(48歳)は「花園のAシード級や西のBシードと対戦すると、力の差を感じていましたが、今では勝負できる位置に来られているかな」と話した。今季の大学ラグビーでも石見智翠館出身の選手が、1年生から活躍しているチームも多い。
1年前にできた人工芝グラウンド
まず、大きかったのが環境面だ。2020年10月に人工芝のグラウンドが完成し、照明も増設された。他のスポーツを見渡しても山陰地方で専用の人工芝を持っているチームは他にはないという。
「山陰は12月から2月にかけて、雨や雪、みぞれが降ります。毎日、ドロドロの田んぼの中で練習していたようなものでしたが、学校側の理解もあり、念願叶って人工芝のグランドができ、毎日、快適に練習ができるようになったことは大きかった」(安藤監督)。
石見智翠館は98人(1年生は32人、2年生が31人、3年生は35人)の部員全員が寮生活を送っている。2年前から強豪相手にブレイクダウンで負けない身体を作るために、狩野裕司アスレティックトレーナー、後藤研S&Cトレーナーの下、週4回のウエイトトレーニングをしているという。
安藤監督は「それまでは我流で生徒任せでしたが、本格的にウエイトトレーニングに取り組んでブレイクダウンで引けをとらなくなった」とその効果を実感している。もちろん毎回の食事で500g以上のお米を食べたり、間食をしたりと、リカバリーと身体作りのために栄養面にもこだわっている。
FWのセットプレーも力がある
また、ラグビー面でも進化を見せる。安藤監督は「20年以上、ベースはディフェンスで、得意としているところですが、この1~2年、アタックも強化をしないといけないと力をいれてきて、やり続けています」と話す。
月に3~4回、ニュージーランドでの指導歴があり、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪でアシスタントコーチを務める竹内克氏の指導を受けつつ、OBであり大東文化大学時代は、日本代表SH茂野海人(トヨタヴェルブリッツ)とハーフ団を組んでいた出村和也コーチがメインとなり、熱心に指導にあたっている。
ただ、コロナ禍の影響で、国体のブロック予選は中止となり、菅平合宿こそ実施できたが、9月は対外試合や遠征が禁止となったという。安藤監督は「昨年もそうでしたが、今年も少しゲーム感覚が足らないかな」と感じて10月以降、対外試合を繰り返した。
特にAシードの東福岡と5度の対戦を行い、今季は通算1勝4敗だという。春の選抜大会前に1度、僅差さだが勝利した。今季、15人制ラグビーで公式戦、練習試合を通して東福岡に土をつけたのは石見智翠館だけだという。石見智翠館としても東福岡に初めての勝利だった。「まず、1戦1戦頑張りたいですが、生徒も私も花園で東福岡と対戦したいという思いはあります」。
そんな石見智翠館を引っ張るのが、キャプテンのFL(フランカー)池田柾士(3年)だ。現在、クボタスピアーズ船橋・東京ベイでプレーするOBのFL岡山仙治を彷彿させる選手だという。また、FW(フォワード)でスクラムの核となるのが、高校日本代表候補にも選ばれたPR(プロップ)弓部智希(3年)で、、機動力もありタックルでも身体を張る。HO(フッカー)稲嶺翔太(3年)も高校日本代表候補だ。
BK(バックス)は180cmを超える選手が4人もいる。エースは副将で高校日本代表校にも選ばれた身長182cmのFB(フルバック)上ノ坊駿介(3年)。安藤監督は「今まで見てきた中でピカイチです。スキルとセンスがあり、何でもできる」と目を細めた。
BKはタレントが揃い、展開力は全国トップクラス
また、他にも高校日本代表候補CTB(センター)木下颯、SO(スタンドオフ)/CTB(センター)崎田士人、WTB(ウィング)川嶋人夢も180cm以上の身長を誇る。安藤監督は手応えを感じており、「FW、BK一体となったアタックは花園で出し切りたい」と自信をのぞかせた。
今季は3年生が話し合って「『STAY CONNECT』、全員でつながって戦い続ける」というスローガンを立てたという。
FL池田キャプテンは「春の選抜はフィットネスが持たなかったので、この1年間、火、水、木曜日とフィットネスを重点的にやってきた。花園でもフィットネスでは負けない。キャプテンとして言葉では鼓舞できないかも知れませんが、タックルや行動で鼓舞していきたい。目標は全国制覇です」と語気を強めた。
副キャプテンのFB上ノ坊は「智翠館はディフェンスのチームでしたが、今年はアタックでも勝負できる。FW、BK、どちらでも勝負のできるチームになっています。『激戦ブロック』に入ったと言われていますが、その中でもしっかり1戦1戦を大事にして、ベスト16の壁を乗り越えたい」と意気込んだ。
今季の花園は、3回戦までは無観客で行われる。各校60人の枠で応援することが可能だが、石見智翠館は保護者ではなく、部員がその枠を使用する予定だ。「(コロナ禍で)保護者のみなさんも試合を生で全然見られていないので、なんとかブロックを勝ち抜いて、お子さんが観戦できるベスト8以上に行って、見てもらいたいという気持ちが強いですね」(安藤監督)。
Bシードの石見智翠館は初戦となる2回戦で大分舞鶴(大分)と対戦する。同じブロックには、Bシードで優勝候補の一角、春の大阪王者・常翔学園(大阪第一)が入った。4年連続、正月で敗退しベスト16に終わっている石見智翠館。今季こそはその壁を破って上位に進出し、歴史を塗り替えることができるか。
文:斉藤健仁/写真提供:石見智翠館ラグビー部
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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