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中野将伍選手
まさに薄氷の勝利だった。
大敗したアイルランド戦から先発10人を変えた世界ランキング10位の日本代表が、現地時間11月13日(土)、今秋の欧州ツアー2戦目として、同19位のポルトガル代表と初のテストマッチを行った。
「ここ最近の試合のポルトガルを見ましたが、良い試合をしていました。良い準備しないと結果がでないと思っていました」(CTB中村亮土ゲーム主将)
「プライドを持って戦ってくるし、もともとタイトな試合になると予想していました」(FLリーチマイケル)
タイトになる要素は多かった。
まずポルトガルが好調だった。W杯出場は2007年フランス大会の1度きりだが、2021年の「ヨーロピアン・ネーションズ・カップ」は強豪ジョージア代表に次いで大会2位。直近ではカナダ代表にも20-17で逆転勝利していた。
プロアマ混成ながら先発15人は主力。約半数がフランスリーグで経験を積んでいる。会場はホーム。格上相手にチャレンジできるマインドも有利だった。
かたや日本は代表初先発のCTB中野将伍などチャレンジングな陣容。2021年は好勝負がありつつもテストマッチは4戦全敗で、大敗したアイルランド戦からの立て直しの段階。舞台はアウェーのポルトガル(コインブラ)――。
ただ最終盤までリードがわずか6点(25-31)で、逆転負けの可能性もあったほど苦戦すると予想していただろうか。
苦戦の大きな理由は、ポルトガルの約2倍あった15回のペナルティと、2枚のイエローカード。再獲得したかったコンテストキック(競り合いを目的としたキック)もほとんどが相手の懐に入り、ポゼッションも伸びなかった。
ただ選手選考をするコーチ目線で言えば、タフなゲームになったことはマイナス面ばかりではないだろう。誰がW杯というタフな舞台で正確なプレーができるのか――。
先発を任されたSO松田力也は前半4分、防御裏への正確なショートキックで先制トライを演出した。キックを再獲得したCTB中野がFB山中亮平へと繋ぎ、WTBシオサイア・フィフィタが左隅に押さえた。
SO松田はこのトライ後のコンバージョンキックこそ外したが、その後のプレースキックは全成功(8本中7本成功)。前半だけで3つのペナルティゴール、1つのコンバージョンキックを沈めて11得点だった。
ポルトガルもSHサムエル・マルケスの速攻から前半23分に奪った1トライ、2本のPGを決めて前半終了間際まで3点差(11-14)だった。
ここでアピールしたのがCTB中野だ。前半40分、ラインアウトからの2次攻撃で守備の切れ目に飛び込んで鮮やかに突破。そのまま走りきって代表デビュー戦でトライを決めた。
CTB中野は随所で良いタックルも放ち、日本代表ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が「ショウゴ(中野)は良いプレーをしてくれた。日本ラグビー界の未来にとっても良いこと」と讃える出来だった。
前半を10点リード(21-11)で折り返した日本はしかし、後半に規律が大きく乱れ、2枚のイエローカードをもらってしまう。
1枚目は前半3分、FLリーチのハイタックルだった。ここからFWが7人となった日本は後退した上、相手のモール攻撃とラインアウトの過程でさらに2つのペナルティを犯してしまう。
ここでポルトガルはモールからフランス1部リーグ(TOP14)でプレーするHOマイク・タジャールがトライ。ゴール成功で3点差(18-21)に縮められた。
しかし後半13分だった。
後半12分、この日守備で献身的だったLOジャック・コーネルセンが相手ラインアウトでスティールすると、こぼれ球を捕球したHO堀越康介が持ち前のスピードで猛進。
HO堀越はゴール前で掴まるが、この日2度のジャッカルでも輝いていたFL姫野和樹がすぐさま順目に押し込み、ゴール下にトライ。リードはふたたび10点(28-18)に拡大した。
ところが日本はノーボールタックルなどのペナルティでたびたび自陣に後退。厳格なレフリングに対応できず、後半20分にポルトガルのFLジョアン・グラナーテにFWの攻防からトライを許した。
ラグビー日本代表テストマッチ2021
【ハイライト】ポルトガル代表 vs. 日本代表
3分後の後半23分にSO松田のPGでリードを6点(31-25)にするものの、ポルトガルはホームの歓声を浴びながら猛攻。
すると後半36分、途中出場の中島イシレリがハイタックルで、日本に2枚目のイエローカード。残り時間を14人で戦うことが濃厚となり、さらにポルトガルのアタックに火が付く。
最終盤、ポルトガルが自陣から執念の連続攻撃を見せ、14人の日本の守備網は崩れた。ポルトガルがエリア左にボールを展開。隅にいた途中出場のWTB松島幸太朗も巻き込まれ、最後の砦であるFB山中亮平と、大外で2対1。背後は無人――。
ここでFB山中はパスをカットするチャレンジに出た。片手で相手のパスを取りにいき、弾いた。ここで弾いたボールが地面に落ちていたら、反則でトライを防いだとして確実に笛が吹かれていた。
しかしFB山中は宙に浮いたボールを再獲得。そのまま50m以上を切り返した。これが結果的に試合を決定づける決勝トライ(ゴール成功)となり、最終スコアは38-25で決着した。
ポルトガルのラストパスが繋がっていたら逆転負けのシナリオもあった。まさに薄氷を踏むような勝利だった。
この日の日本はコンテストキックを多用。キックカウンターの際にも「相手のハイボールに対して、ゲインが出来なさそうな時はハイボールを上げてチェイスし、プレッシャーを掛けて再獲得する戦術」(CTB中野)だったが、ほとんど再獲得はできなかった。
敗戦はしたが観客を湧かせたポルトガル。
指揮官のパトリス・ラジスケHCは試合後、「選手達をこの上なく誇りに思います。私たちが今日ここでプレーしたかったゲームをまさに見せてくれました」と手応えを語った。
CTBトマース・アップルトン主将は2007年大会以来2度目のW杯出場をはっきり見据えていた。
「私たちは、今日の試合を誇らしく思いますが、まだ十分ではありません。チームとして大きく成長していることはこの2年間の結果からわかると思いますが、2023年のラグビーワールドカップへの道のりを進んでいる最中なのです」
アウェーでしぶとく勝ちきった日本。
試合後のジョセフHCは「この2年間で最初の勝利。まだ5試合しかしておらず経験が少なく、新しい選手もいた」と語った上で、「ポルトガルはしつこくてタフで、選手もコーチも素晴らしかった」と讃えた。
そして指揮官は15回あったペナルティ、2枚のイエローカードに言及した。
「後半に多くのペナルティをして、2回のイエローカードが出てしまうと、立て直すことは難しくなるのでそこは改善したい。ペナルティの3分の2はディフェンス(の局面)でした」
大敗したアイルランド戦から立て直した面もあった。
「ディフェンスは前の試合(アイルランド戦)よりゲインラインで止めることができ、ポルトガル代表には30%しかゲインラインを与えませんでした。タックル、コリジョンは良くなったが、これからもっと精度を上げたい」
薄氷の勝利だとしても、勝ってツアー最終戦に臨めることの価値は小さくないだろう。ゲーム主将のCTB中村が言った。
「ペナルティでペースを握れず、難しい展開になりました。勝って次に進めることが非常に大事。すぐに強くはならないので、毎週良い積み重ねをして、チームとして良い準備をしたい」
代表の前主将であるFLリーチも、勝利という収穫については「タイトなゲームを乗り切ったことはプラスになります」と前向きなコメントを残した。
ゲーム主将のCTB中村は次戦に向けて、「新しい選手が経験できたし、チームとして波に乗っているので、次のスコットランド代表戦に勝って帰りたい」と決意を語った。
きたる欧州ツアー最終戦は、11月20日のスコットランド戦。舞台はスコットランドラグビーの聖地「マレーフィールド」だ。
スコットランドは今秋2勝1敗。直近では19年W杯王者南アフリカ代表に15-30で敗戦したが、10月にトンガには60-14で大勝。世界ランキング上位のオーストラリア“ワラビーズ”には15-13で競り勝っている。
タイトなゲームを乗り切った自信、反省を糧にして、桜の戦士たちはツアー最終戦へ向かう。
文:多羅 正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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