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齋藤直人選手
帝京大の9連覇以降、群雄割拠の時代に入った大学ラグビーは過去3シーズン、明大、早大、天理大と王者が変わった。2021年度シーズンは果たしてどんな戦いが繰り広げられるのだろう。大学のスター選手たちの多くが日本代表、トップリーグで活躍している。サントリーサンゴリアス(現・東京サントリーサンゴリアス)のSH齋藤直人もその一人。早大のキャプテンとして、2019年度の大学選手権で頂点に立ち、今年の6月には日本代表で初キャップを得た。卒業から2年、斎藤は後輩たちの戦いぶりをどう見ているのか。大学ラグビー全体への期待感も含めて、注目ポイントなどを聞いた。
――昨年の母校・早大は大学選手権決勝で天理大に敗れて準優勝でした。昨季の戦いをどうみていましたか。
「関東大学対抗戦については、コロナ禍で春に試合がなかったこともあって、初戦の青山学院大戦では経験の無さが出ていました。自分と岸岡智樹が9番、10番を務めた一昨年からハーフ団が変わって先発メンバーとして初の対抗戦ということもあったかもしれません。その後、試合を重ねるごとに成長したシーズンでしたね」
――12月の早明戦は見ていましたか。
「完敗でしたね(14-34)。サントリーが大分で合宿しているときで、テレビの見られる大きな部屋でチームメイトと観戦したのですが、僕たちのときの早明戦を思い出しました。セットプレーも負けて、勝てる雰囲気がなかったですね。ただし、僕らのときもそうですが、大学選手権では対抗戦の時と逆の結果が出ると思っていたので、最後はなんとかなるのではないかと思っていました」
――その明治大は大学選手権の準決勝で天理大に負け、早大も決勝で敗れました。
「決勝戦では天理大のシオサイア・フィフィタが、自分がマークされている中で味方を生かすプレーをしていたのは、止めようがないですね。ゴール前でアシペリ・モアラに力でトライされているのを見ても、勝つのは難しいと思いました」
――最初のターンオーバーからトライされたし、ブレイクダウン(ボール争奪戦)で劣勢でしたね。
「ブレイクダウンから綺麗にボールを出して、どんどん展開していくという天理大のやりたいラグビーをされましたね」
2019年関東大学対抗戦 早稲田vs.帝京
――早大の学生時代、特に印象に残っているのはどの試合ですか。
「大学1年生の時と、4年生の時の関東大学対抗戦の帝京大戦との試合です」
――それぞれ理由を教えてください。
「まず1年生のときは、ボコボコにされました(スコアは、3-75)。帝京には現在の日本代表の姫野和樹さん、松田力也さんがいて、サントリーでいうと飯野晃司さん、尾崎晟也さんがいました。まったく歯が立たなかったです。あんな試合は、大学4年間であのときだけです。4年生のときは、早稲田に負傷者が多く苦しい戦いだったのですが、シーソーゲームになり、最後に自分がトライをとって勝つことができました(スコアは、34-32)。なかなか追いつけなくて、80分間、ずっとハラハラしながらプレーしたので印象深いです」
2019年度大学選手権優勝
――4年生の最後は11年ぶりの日本一で終わり、試合後、勝利の部歌「荒ぶる」を歌いましたね。
「優勝したことについて、よく感想を聞かれるのですが、試合後は本当に疲れ切っていました。感想を聞かれたときに、嬉しい、疲れた、どちらを言うか迷うくらいです。あの試合では8km走っていました(GPSによる測定)。8kmという数字はあまり出ないんです」
――「荒ぶる」を歌っているときの気持ちは、どうでしたか。
「年に一回は練習するのですが、歌ったことがなかったので、大丈夫かな?と思いながらなんとか乗り切りました(笑)」
――今季は2シーズンぶりの王座奪還を期すシーズンになりますね。監督は大田尾竜彦さんに変わりました。
「独特なラグビーをするということは、現役の選手からも聞いています。(大田尾さんがいた)ヤマハ発動機のスタイルは攻撃に特徴があるし、セットプレーに注力するだろうと想像しています。レスリングトレーニングをしていることも聞きました。ヤマハ色が出ていますね」
――現役選手からいろいろ情報を得ているのですか。
「SOの吉村紘(3年)とは仲が良くて、よく電話で話します。最初は適応するのが大変だったようですが、夏に帝京大に勝ったところを見ても、今のところいい感じに仕上がってきているのかなと思います。スクラムは帝京大が強かったようですが、そのあたりが安定すると良いですね。自分たちの代もFWが危機感を持ってスクラムを安定させてくれたことが優勝につながったと思っています」
――現在は社会人のチームでプレーされていますが、大学ラグビーで勝つためには何が大切になってきますか。
「大学の上位チームは部員が多いので、試合に出るメンバーだけではなく、それ以外の選手も含めて、このチームで優勝したいとみんなが思えるかどうか。僕は大学3、4年になってそういうことが大事なのだと感じるようになりました。キャプテンなったときは、下のチームの4年生とよく話すようにして、意識の差をどう埋めるか考えていました」
2019年関東大学対抗戦 早稲田vs.明治
――現役選手たちにシーズンを迎えるにあたって、アドバイスはありますか。
「気になることは解決してからシーズンに入ってほしいし、シーズン中も気になることがあったからそのままにしないで解決しながら各試合に臨んでほしいです」
――今年の早大で誰か注目している選手はいますか。
「キャプテンの長田智希はじめ、今の4年生は僕も2年間一緒にプレーしましたし、練習熱心で、リスペクトできる代です。一人挙げるなら長田でしょうね。リーダーシップもあるし、きついときに踏ん張って前に出て仲間を鼓舞できる。プレーヤーとしてもなんでもできますし、スピードがあってサイズもある。後輩ながら尊敬する選手です」
――齋藤選手のあとのSHはどうですか。
「京都成章から入ってきた宮尾昌典(1年)は昨季の高校大会決勝戦で桐蔭学園との試合を見ました。スキルの高い選手です。1年生では國學院栃木から入った細矢聖樹もいます。河村謙尚(4年)、小西泰聖(3年)もいる。僕はラグビーを始めて21年目になるのですが、競争しているときが一番成長できます。早稲田のSHは、とても良い環境にあると思います」
――他の大学で注目している選手はいますか。
「帝京大キャプテンのフロントロー細木康太郎(4年)は注目しています。横浜ラグビースクール、桐蔭学園高校の後輩なんです。チームとして注目は東海大ですかね。春に負けていますよね。東海大は上位に来るのではないかと思っています」
――横浜ラグビースクールの後輩のSO武藤ゆらぎ(2年)選手がいますね。
「そうなんです。武藤と、丸山凛太朗という2人の10番がいることで、ボールの動かし方は面白くなるんじゃないかと思います。東海大伝統の強力FWも健在でしょう。もちろん、帝京大も強いと思います。桐蔭学園からFL青木恵斗(1年)も入っていますし、留学生もいて、自分が1年生のときに負けたチームのようなフィジカルを前面に押し出した戦いができるのではないかと思います」
――齋藤選手の場合、横浜ラグビースクールや桐蔭学園の後輩もたくさんいるから、どこの大学が勝っても嬉しいのではないですか。
「もちろん、早稲田に勝ってほしいですけど、かかわりのある選手が出ているのは楽しみですよね。どこが勝っても楽しみなシーズンになると思います」
――J SPORTSでは大学ラグビー以外に全国高校大会も放送します。どんな思い出がありますか。
「僕は高校1年生と3年生で出場して2回とも準優勝でした。ベスト8の試合はお客さんもたくさん入って、楽しかったですね。ただ、2回とも相手が天理で完全アウェイでした(笑)。高校3年生のときは、準決勝以降、試合間隔を空けた年で3週間くらい大阪にいました。高校生で3週間の遠征は経験がなかったので、帰ってすごい疲れを感じましたね。でも、優勝したかったです」
――その後、桐蔭学園は連覇しました。齋藤選手達がその礎を築いたわけですね。
「はい、そう言ってほしいです(笑)」
――高校ラグビーならではの面白さはありますか。
「大学、社会人に比べるとシステムで動いていないので、一人一人の本能的なプレーがより多く出ると思います。これから楽しみな選手を見つけるのも楽しいですよね」
日本代表の新戦力としても期待される齋藤は、何度も「競争がある時こそ伸びる」と話した。サントリーではラグビーワールドカップ2019の日本代表SH流大とレギュラーポジションを争い、成長中。今年の6月にはブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ、アイルランド代表という世界のトップチームと戦い、持ち前のスピードを生かして好サポートからトライを奪っている。横浜ラグビースクール時代から常にトップを目指して走り続けてきたからこそ今がある。各カテゴリーの優勝争いは見どころがいっぱいだが、伸び盛りの若い選手たちの奮闘も楽しみながら観戦したい。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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