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山本幸輝選手
スクラムはいまや日本代表の強みとなった。その最前列で戦う日本屈指のプロップである山本幸輝が神戸製鋼コベルコスティーラーズに移籍した。強いスクラムを軸に攻撃を組み立てるヤマハ発動機ジュビロを退団し、移籍したのはなぜか。日本代表の勝利の歌「ヴィクトリーロード」を作詞し、円陣では必ず「ひとネタ」仕込んで笑いをとったムードメーカーは、いま何を思うのか。2019年のラグビーワールドカップ(RWC)では直前にメンバーから外れたが、そのことは移籍と関連しているのか。その胸の内を聞いた。
――いつ頃、移籍を考えたのですか。
「2021年のトップリーグは、ヤマハ発動機で自分の強みを確認できたシーズンでした。自信をもってプレーする中で、やはりもう一度日本代表を目指したいと思ったし、他のチームでチャレンジするのも良いのではないかと考え始めました」
――環境を変えたほうが成長できるということですか。
「それもありますし、個人的にチャレンジしてみたいという思いが強かったです。僕が得意なのはセットプレーですが、日本代表合宿に参加したとき、ボールを持つスキルや、パスのスキルなど自分の足りない部分が明確になって、そういったことにもチャレンジできる場所でやってみたいと思いました」
――セットプレーとは、スクラムのことですね。
「スクラムには絶対の自信があります。試合ではいつもスクラムに勝つことを大前提にしてプレーしていました。今もその気持ちは持ち続けています。その自信があるからこそ、どんな場所でもチャレンジできると思いました」
――8年間在籍したヤマハ発動機を離れる寂しさはありませんでしたか。
「8年間一緒に過ごした仲間と離れ離れになることに寂しさはありました。でも、リーグONEの試合でみんなと確実に会えるし、僕がヤマハで培ってきたスクラムの気持ちや技術は、チームが違っても生かし続けられると思います。ヤマハがスクラムで勝ちに来るのはわかっているし、そこにガツガツと勝負する自分を想像すると、ワクワクする気持ちがわいてきます」
――チームメイトに移籍について話したときの反応はどうでしたか。
「同期の伊藤平一郎選手と、松本力哉選手に話したときは、『がんばれよ』と言ってくれました。平一郎はスクラムを組むときの対面ですが、特徴はよくわかっているし、お互いに『試合しようぜ』と楽しみな気持ちになりました」
山本幸輝選手
――神戸製鋼に決めた理由はありますか。
「僕は近畿大学で関西なのですが、自分が最初に知った社会人チームでもありました。スター軍団で、魅力的なチームですし、同じプロップの山下裕史選手が上手にパスをするところを見て、自分もそうなりたいと思いました。移籍をするなら神戸製鋼でプレーしたいと思っていました」
――ヤマハ発動機で対戦した神戸製鋼はどんな存在でしたか。
「神戸製鋼は体も大きいし、みんなが知っている選手ばかりだし、初対戦のときは、『すげえ~』って思ってましたね」
――仲の良い選手はますか。
「日本代表合宿でも一緒だった山下裕史さん、山中亮平さん、中島イシレリさんです。神戸に来て3週間ほどですが、山中さんとかイシレリさんにはお世話になっています。タイミングが合うときに一緒にトレーニングさせてもらうこともあります」
――美味しい飲食店など見つけましたか。
「まだわからないので、皆さんに教えていただきたいですね。神戸に来て日が浅いので、車で通る時に見ているくらいですが、いろんなお店があるし、駅によって特色もありますよね。阪急、阪神、JRの各鉄道が通る場所でも違うみたいですし、そういったことも教えてほしいです」
――神戸で食べたいものはありますか。
「まだ食べていませんが、せっかく関西に帰ってきたので、お好み焼きに行きたいです。美味しいところ、教えてください」
――引っ越して、磐田との違いで何か感じたことはありますか。
「テレビをつけると、ほとんどの局から関西弁が聞こえてきますよね。僕は滋賀なので、関西人を名乗るな!と言われるかもしれませんけど」
――そんなことないでしょう(笑)。
「(笑)。関西弁がよく聞こえてきて、ちょっとした買い物でコンビニに行っても関西弁で話しかけられるので、すごく落ち着きます」
――トップリーグからリーグONEに移行することでの期待感はどうですか。
「どのチームもさらに強化をしているので、より厳しい戦いになるでしょうね。レベルの高い試合ばかりになると思いますし、すごく楽しみです。まずは神戸製鋼で認めてもらって試合に出ることが大事だと思っています。まだ全体練習は始まっていませんが、緊張することなく、包み隠さず自分を出していきたいです」
山本幸輝選手
――きょうの取材も神戸製鋼の赤いチームウェアを着用していただいていますが、どんな感覚ですか。
「僕は馴れるのが早いので、赤い服をよく着るようになりました」
――普段もですか!?
「あ、いや、なってないです(笑)」
――適当に盛りましたね!
「僕は違和感なく着ていますよ。でも、知人からは『違和感ある』って言われるし、神戸製鋼のプロフィール写真を見た磐田方面の人から『新鮮やな』と連絡があったりします(笑)」
――ライバル視しているプロップの選手はいますか。
「中島イシレリさんですね。同じポジションなので意識しています。神戸に来てトレーニングの時間が重なることがよくあるのですが、イシレリさんがいろんなトレーニングに取り組んでいることがわかりました。なんでも教えてくれるので、良い刺激を受けています」
――理想としているプロップはいますか。
「プレースタイルが人それぞれなので、具体的な人はいませんが、ヤマハ発動機でも影響を受けた長谷川慎さんですね。皆に慕われる人ですし、楽しむときは楽しみ、やるときはやる。そういう人になりたいです」
――長谷川さんは移籍について、どんな言葉をかけてくれましたか。
「いろいろ話しましたが、最終的には『頑張って来いよ』と言ってくれました。また、コロナが落ち着いたら食事しようと言ってくれました」
――神戸製鋼の全体練習が始まる前にやっておきたいのは、どんなことですか。
「体のコンディショニングの部分で、神戸製鋼でラグビーをする上で求められるものがあります。体脂肪の具体的な数値もいただいているので、合流するまでに、あまり得意ではない走る部分や、体質の部分を向上させたいです。トレーニングと同じくらい食事は重要だと思うので、そういう勉強もしていきたいと思っています」
――栄養士の方に学んだりしているのですね。
「栄養士さんもそうですし、幸い教えてくださる方が周りにいます。まあ、僕はよくわかっていないので、『これ食べても大丈夫ですか?』くらいしか聞けないんですけど。お好み焼きは、まだOKが出ていません」
――リーグONEになると、地域貢献やファンの皆さんとの関係も大切になってきます。自分なりに考えていることはありますか。
「どんなイベントをするか分かっていませんが、イベントにただ参加するだけではなく、より盛り上がるように自分から動いて、面白いことができたらいいなって思っています」
――日本代表にまた選ばれたいということででしたが、2023年のRWCの出場が目標ですね。
「それは大きな目標なのですが、ゴールだけを見るのではなく、試合に出て能力を上げて代表に選ばれたいです。今シーズンがすごく大事だし、一日一日を大切にしていきたいです」
――2019年のRWCでプレーできなかった悔しさは、今のモチベーションになっていますか。
「当時は悔しさもありましたし、これまでの時間のなかでリセットされたわけではありません。しかし、悔しさよりも、ラグビー選手としてプレーする以上は日本代表を目指したいという新たなチャレンジというイメージです」
――日本代表の勝利の歌「ヴィクトリーロード」を作詞しましたね。2019年のRWCでみんなが歌っているときは、どんな気持ちでしたか。
「僕が日本代表の合宿に参加しているとき、歌いだしは僕がやっていたので、観客席からみんなが歌っているのを見たときは羨ましかったです。ロッカールームで歌っている映像を田村優さんが送ってくれて、自分がリードできていないという寂しさはありましたが、みんなが勝って歌ってくれてうれしかったです」
――山本選手には何も権利はないのですか。
「ないですね。ここだけの話ですけど、曲はパクってますから(笑)。次は作曲からいかないとアカンと思ってます」
――神戸製鋼でも作ってください。
「僕だからできることもあると思うので、臆せずやっていきたいです!」
――日本代表合宿では、最後の円陣で面白い掛け声などで盛り上げていましたよね。
「やってましたねぇ。面白かったときは、円陣が解けた後に『ナイス』とか言ってくれますけど、面白くなかったときは、厳しいコメントをいただいていました(笑)。いいコメントをもらうとうれしくなるので、そのあたり神戸製鋼でも頑張っていきたいです」
――神戸製鋼のファンの皆さんには、どう呼んでほしいですか。
「僕、いつもコウキとしか呼ばれないので、面白いあだ名をつけてほしいです。山下さんだったら、ヤンブーですよね。ヤンブーって言ったら山下さんが浮かびますよね」
――コウキ以外にもありましたよね。
「コーキング(koking)ですか。大学のとき、タレントさんでキングがついている人がいて、Instagramのユーザー名をコーキングにしてみたら変えられなくなってしまって(笑)。ちょっと恥ずかしいし、若気の至りです。村上さん、あだ名、考えてください!」
――2022年1月に開幕するリーグONEでの目標を聞かせてください。
「リーグ初年度に優勝するというのは絶対的な目標です。その中で僕が中心として活躍できるように頑張っていきたいと思います」
大笑いの連続のインタビューだった。しかし、山本選手は少し硬くなっていたようだ。「この企画での寺田圭太選手(宗像サニックスブルース→神戸製鋼コベルコスティーラーズ)の記事を読んだら、めちゃくちゃ内容が良くて、賢そうだったので、今しゃべっていて不安しかないです(笑)。僕も賢そうにまとめてください!」。ファンサービスに熱心に取り組んできた神戸製鋼に陽気なキャラクターが加わった。リーグONEの初代王座獲得に向かってFWの強化と同時に、地域貢献、ファンサービスなど多岐にわたる活動のキーパーソンとなりそうだ。
■山本幸輝(やまもと・こうき)
・生年月日:1990年10月29日
・出身地:滋賀県
・身長/体重:181cm/115kg
・ポジション:PR
・経歴:八幡工業高校→近畿大学→ヤマハ発動機ジュビロ(2013~2021)→神戸製鋼コベルコスティーラーズ。日本代表キャップ7
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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