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梶村祐介選手
ラグビー新リーグの「リーグONE(ワン)」の横浜キヤノンイーグルスに大物CTBが加入した。明治大学、サントリーサンゴリアスで活躍した梶村祐介だ。報徳学園時代から注目を浴び、世代屈指のCTBとしてU20日本代表、ジュニア・ジャパン、日本代表、サンウルブズとトップチームに選出されてきたが、3年間を過ごしたサントリーでの試合出場機会は少なかった。リーグONEの開幕を前に、梶村が下した決断は移籍だった。決断に至った経緯、なぜキヤノンなのかなど胸の内を聞いた。
――移籍を決めた理由を聞かせてください。
「一番の理由は試合の中で成長したいということです。入社1年目のシーズンはレギュラーポジションを獲得できましたが(先発7試合)、2020、2021シーズンは先発が少なく、26歳になる年でこれだけ試合時間が少ないのは良くないとシーズン中に考え始めました」
――決断までは悩みましたか。
「サントリーというチームは魅力的だと思って入りましたし、実際に入ってみても素晴らしいチームでした。このチームを出ることが自分にとってベストなのかということは、2か月、3か月と悩みました。最後は、プレーヤーである以上、試合に出なければ意味はないと思ったので決断しました」
――引き留められませんでしたか。
「サントリーの契約が1年残っていたので、(移籍は)簡単ではありませんでした。残ってほしいという言葉もいただきました。でも、今のままだと2023年のラグビーワールドカップに出ることも難しくなりますし、試合に出続ければもっと強くなる自信もあるので、チームを出たいという話をさせていただきました。僕は12番でプレーしたいと思っているのですが、チームとしては中村亮土選手、サム・ケレビ選手がいるので、12番、13番の両方でプレーしてほしいということでした。そこも考え方が違ったかなと思います。高校、大学、社会人の先輩であるゼネラルマネージャーの田中澄憲さんにも自分の思いを伝えました。じっくり話し合い、最後は田中さんも『頑張れよ』と快く送り出してくださって、心から感謝しています」
梶村祐介選手
――なぜ、12番なのですか。
「13番は外国人選手が多いですし、ランナー型の選手が揃うポジションだと思います。パス、キックのスキルをしっかり出しながら、自分でも突破を狙う12番のほうが僕は向いていると思っています。プレーしていても楽しいです」
――トップリーグからリーグONEに変わることについては、どんな期待がありますか。
「試合数が増えることですね。海外のリーグを見ていても、あきらかに日本は試合数が少ないです。もっと増えてほしいと思っていました。それに、僕はまだシーズンを通して試合に出続けたことがまだ一度もありません。今の自分には試合の経験が必要です」
――試合でしか学べないことがあるのですね。
「試合で上手くいかないことを練習で工夫して、それを試合で試したいというのがあります。試す機会がないというのが、試合がないデメリットです。練習だけだと、上手くいってしまうことが多いんです」
――新しいチームに行っても、出場機会が増える保証はありませんよね。
「どこへ行っても競争があることは理解しています。しかし、日本代表候補のCTBは日本人では僕と中村さんだけです。自分は試合に出さえずれば、やれる自信があります。そこでしっかり経験を積んで、もう一度チャレンジしたいという思いがあります」
梶村祐介選手
――キヤノンに決めた理由を聞かせてください。
「沢木敬介さんが監督に就任されて、アタック中心の面白いラグビーをしていると思っていました。敬介さんの下でプレーしたいと思ったのがサントリーに入った大きな理由でした。今回もそこが一番大きいです」
――沢木さんは梶村選手にとってどんなコーチですか。
「敬介さんの下でプレーすると、自分はやれるんだと思えてくるんです。良い意味で満足させてもらえなくて、どれだけ良いプレーをしてもさらにその上を求めてくれるので、常に成長する意欲をかきたててくれるコーチです」
――外から見ていると、怖いコーチだという印象がありますが。
「はい、怖いです(笑)。それくらいプレッシャーがあるほうが良いと思っています」
――キヤノンにも、南橋直哉選手、南アフリカ代表のジェシー・クリエル選手と、素晴らしいCTBがいますよね。
「クリエル選手が13番で、12番を南橋さんと取り合うことになると思います。プレースタイルも似ている気がするので楽しみです。ご本人とも話しました。南橋さんは多くのチームを経験されているので、いろんなことを学びたいです。また、僕も社会人4年目のシーズンなので、若い選手をリードしていきたいと思っています」
――12番として理想とする選手はいますか。
「僕はずっとハルさん(立川理道選手)を尊敬していて、あのプレースタイルは12番の理想形です。(パス、キック、ラン)なんでもできるし、ここにいてほしいと思うところにいてくれる。トライラインを背負ったディフェンスのときも、誰もいないスペースにハルさんだけ戻ってタックルするなどチームのために走りますよね。そこは目標にしています」
梶村祐介選手
――現在は身長181cm、体重95kgということですが、昨年はウェイトトレーニングに力を入れたようですね。
「去年はウェイトトレーニングをよくやりました。ただ、自分がどれだけ頑張っても、サム・ケレビ選手のような体にはなれない。どこかで自分と他の選手の差別化をしないといけないと思いました。CTBの中では一番スピードがあったので、2021年に関しては、そこを強化していました」
――スピードは伸びましたか。
「伸びました。GPSも、秒速9.6m、9.7mくらいだったので、CTBの中では速いほうだと思います」
梶村祐介選手
――1秒で9.7m走るということですよね。WTBでもそこまで速い人は少ないのではないですか。
「速いWTBだと、10.2mくらい行くようです。ケンキさん(福岡堅樹)、チヒトさん(松井千士)レベルですけど」
――その肉体を維持するために食べているものはありますか。
「鶏胸肉で鶏ハムを作っています。低温調理器に肉を入れるだけなのですが、ネギソースとか作って間食で食べています。鶏むねなので、どれだけ食べても太りません」
――ところで、キヤノンに移って何か特典などありましたか。
「カメラ関連で何かあるかと思ったら、今のところ何もありません(笑)」
――サントリーは何かあったのですか。
「新しい飲料が発売される前に、試飲できるくらいですかね(笑)」
――カメラはキヤノンのものを使っていましたか。
「僕、カメラを持っていなかったので、これを機にキヤノンのカメラを買ってみようかと思っています。自分はもともと趣味がなかったので」
――気分転換は何をしているのですか。
「7月に長女が産まれました。妻がまだ実家にいるので、今は娘に会いに行くのが楽しみです」
――リーグONEで戦ってみたいCTBはいますか。
「亮土さんしかいません! 実は対戦したことがないんですよ。一緒に試合したことも少ないし、対面で戦ったことはないんです」
――中村亮土さんは、どんなCTBですか。
「もともとディフェンスがいいイメージはあったのですが、ラグビーワールドカップを経て、アタック面でも良いスキルを持ち、良いフィジカルで前に出ています。いま、できないことがないんじゃないですか。トライも取りますからね」
梶村祐介選手
――梶村選手はどこで優っていきたいですか。
「フィジカルと、パスの部分は僕の強みだと思っています。ディフェンスについても、2021年シーズンは90%以上のタックル成功率で良くはなっているのですが、信頼感はまだ得られていないと思いますので、ディフェンスの信頼を得ることと、パフォーマンスの安定が必要になってくると思います」
――目標は、2023年のラグビーワールドカップ出場ですか。
「それも考えての移籍ですが、それ以上に、ラグビーがしたいということです。この3年間、プレシーズンばかりのイメージなんです。半年以上準備してシーズンが半分で終わったこともありました。(リーグONEでは)シーズンを通して思い切りプレーしたいです」
――リーグONEへの期待を聞かせてください。
「これまで以上にファンの皆さん、地域の皆さんと密接にかかわっていくことになると思います。各クラブがどうやって新しいファンを獲得していくか。これまでは企業のチームだったと思いますが、それに加えて、イーグルスであれば横浜を背負ってプレーすることになります。横浜という大きな街を背負って戦うのは楽しみです」
梶村祐介選手
梶村選手の未来を語る笑顔は輝いていた。サントリーでは最初の2年間、社員としてスーパーなどの営業に回っていた。仕事をしてから練習に向かう経験は「今後の人生に生きると思います」と話した。これまでの社会人ラグビーは一つのチームで長くプレーするのが当たり前だった。梶村選手もそう思っていたという。しかし、リーグONE発足を機に、移籍を考える選手は増えるだろう。「場所を変えれば輝ける選手はたくさんいます。選手ファーストでルールが変わっていくと良いですね」。これまでの移籍規定は選手の引き抜きを防止すなどチーム側を守るルールだった。リーグONEを活性化するためには、選手にチャンスを与えて成長を促す移籍しやすいルール作りが必要だろう。それにしても、中村亮土対梶村祐介はリーグONE屈指の注目対決だ。楽しみがまた一つ増えた。
■梶村祐介(かじむら・ゆうすけ)
・生年月日:1995年9月13日
・出身地:兵庫県
・身長/体重:181cm/95kg
・ポジション:CTB
・経歴:伊丹ラグビースクール、天王寺川中→報徳学園→明治大→サントリーサンゴリアス(2019~2021)→横浜キヤノンイーグルス。日本代表キャップ1
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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