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ストーマーズ vs. B&Iライオンズ
7月7日のシャークス戦は試合当日に新型コロナウイルスの陽性者が確認され、キックオフ直前に登録メンバー8人を変更。3日後のブルズ戦は相手に複数の陽性者が出たことから急遽相手をシャークスに変更して実施された。まさに非常事態に見舞われている今回のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ(B&Iライオンズ)の南アフリカツアーだが、関係者の懸命の尽力により7月14日の南アフリカA戦まで4試合が開催され、今週末のストーマーズ戦(日本時間17日深夜1時キックオフ)でいよいよ後半戦に突入する。24日からスタートする世界王者スプリングボクスとの3週連続のテストマッチに向け、B&Iライオンズにとってはこれが最後の実戦になるだけに、さまざまな面で注目点の多い一戦となった。
ちなみにこの試合を巡っては、B&Iライオンズとスプリングボクスのマネジメントサイドの間で異例のやり取りがあった。コロナ陽性者の確認で7月9日に予定されていたジョージアとの第2テストがキャンセルになったスプリングボクスのディレクター・オブ・ラグビー(DOR)、ラシー・エラスマス(2019年ワールドカップ優勝時のヘッドコーチ)が、ストーマーズに代わって南アフリカAが相手になることを提案。しかしB&Iライオンズのウォーレン・ガットランド監督は即座にそれを退け、「予定通りストーマーズと戦う」と声明を出した。こうしたかけ合いからも、双方がいかに17日のゲームを大切な機会ととらえているかがうかがえる。
スプリングボクスにとっては、9日のジョージア戦がなくなったことで失われた各選手のゲームタイムを、少しでもリカバーしたい思いがあったのは事実だろう。それを裏付けるように、14日の南アフリカAにはFLピーター=ステフ・デュトイやSHファフ・デクラーク、WTBチェズリン・コルビら、2019年ワールドカップ優勝の主軸を多数起用した。もっともキャプテンのFLシヤ・コリシをはじめ、LOルード・デヤハーやSOハンドレ・ポラード、WTBマカゾレ・マピンピらがコロナ感染により隔離措置となり、依然として実戦を通して連携を深める時間が不足しているのは否めない。さらにジャック・ニーナバーヘッドコーチも陽性確認でチームを離れ、14日のゲームではエラスマスDORが臨時で指揮を執った。この点は、24日の第1テストに向け不安の残る部分といえる。
一方のB&Iライオンズは、“第4のテストマッチ”とも称された南アフリカA戦に13-17で敗れ、今ツアーで初めて黒星を喫した。SHデクラーク、SOモルネ・ステインのキックを起点に激しく体を当ててくる相手の圧力に押し込まれる場面が目立ち、前半は3-17と苦しい展開。しかし後半は南アフリカAの規律の乱れにも乗じて流れを立て直し、PRウィン・ジョーンズのトライとSOオーウェン・ファレルのG、PGで4点差まで詰め寄った。焦点のひとつだったスクラムで優位に立つシーンもあり、ガットランド監督は「これこそが我々の望んでいた試合であり、10日後の第1テストに向けここから多くのものを得られるだろう」と手応えを語っている。
37名のスコッドで遠征するB&Iライオンズにすれば、2週間で5試合を戦うタイトなスケジュールの中でメンバーをローテーションしながらチームをビルドアップし、万全の状態でテストシリーズに臨む準備を進めることが、ツアー前半戦の最大のテーマだ。いうまでもなく首脳陣はそれをふまえてメンバー起用をプランニングしており、対戦相手がストーマーズから南アフリカAに変わるのを拒んだのは当然のことといえる。
ひとつ気がかりなのは、SOにケガ人が続いている点だ。フィン・ラッセルがアキレス腱を痛め今後の出場が不透明となり、ハリクインズをプレミアシップ優勝に導いた22歳のマーカス・スミスが7月10日に急遽召集された。また南アフリカA戦では当初10番で出場する予定だったダン・ビガーが足首のケガで大事をとり、スクランブルでファレルが代役を務めている。ツアー前からテストマッチで誰を起用するかが話題になったポジションだけに、最終的にどのような人選になるのかが注目される。
逆に大きなプラス材料は、6月26日のジャパン戦で肩を負傷しツアーメンバーから離脱したキャプテンのLOアラン・ウィン・ジョーンズが驚異的な回復を見せ、15日木曜日にふたたびチームに合流したことだ。すでにウェールズ国内でトレーニングもこなしてきており、コンディションはまったく問題ないとのこと。ウェールズ代表でも監督とキャプテンとして長く師弟関係にあるガットランド監督は、「チームにとって計り知れないほど大きな追い風だ」とカムバックを大歓迎した。
B&Iライオンズスターティングメンバー
そして15日に発表されたストーマーズ戦の登録メンバーには、南アフリカ入りしたばかりのその2人がさっそく名を連ねた。マーカス・スミスはSOとしてライオンズデビューを飾ることになり、アラン・ウィン・ジョーンズは19番をつけてベンチに入る。先発メンバーは3日前の南アフリカA戦からすべて入れ替わり、HOルーク・カーワンディッキー、LOアダム・ビアード、FLタイグ・バーン、CTBエリオット・デイリーの4人が、前戦のリザーブから繰り上がって先発を務める。
注目はここまでの遠征でそれぞれ4本、7本のトライを挙げているドゥーハン・ファンデルメルヴァとジョッシュ・アダムスの両WTBだ。ゲームキャプテンを務めるFBスチュアート・ホッグを含めた決定力ある3人がどのようなアタックを見せるのか、また新鋭SOスミスがいかにこの魅力的なバックスリーを操るのか、大きな見どころとなるだろう。FWではシャークスとの第2戦以来中6日での出番となる今季のシックスネーションズ最優秀選手、FLハミッシュ・ワトソンがテストマッチ出場に向けどんなアピールを見せてくれるかも楽しみだ。
ストーマーズスターティングメンバー
対するストーマーズは、FLデュトイやPRスティーヴン・キッツォフ、HOボンギ・ンボナンビら主軸8名を南アフリカ代表に輩出しており、経験の浅い若手主体の布陣。とはいえ代表選出経験のある202cmのLO、JD・シカリングやピーター=ステフの弟、FLヨハン・デュトイ、7人制のスターであるWTBシアベロ・セナトラ、小柄ながら切れ味抜群のFBセルジール・ピーターセンなど、ポテンシャルを秘めた好選手が並ぶ。キャプテンを務めるのは、U20南アフリカ代表の主将経験もある23歳のLOアーンスト・ファンライン。全身バネのアスリート、FLナマ・カバの爆発力がどこまで欧州のドリームチームに通じるかも興味深い。
クライマックスの3週連続のテストシリーズに向けた、最後のウォームアップマッチ。チームづくりの最終フェーズに入ったB&Iライオンズの戦いぶりに注目だ。
文:直江 光信
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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