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ドゥハン・ファンデルメルヴァ
あまりに突然の変更で準備が間に合わなかったのだろう。メンバー外から試合開始直前にSOでの先発が決まったオーウェン・ファレルのジャージーには、背番号がなかった。逆にこちらはジャストサイズだったのか、代わりに10番を背負いピッチに立ったのは、同じくキックオフ間際の入れ替えで右WTBに起用されたルイス・リースザミットだ。そんな様相からも、チームがいかに緊急事態にあったかはうかがえた。
イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの強豪4協会の選抜メンバーによるドリームチーム、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ(B&Iライオンズ)の南アフリカ遠征第2戦となる7月7日のシャークス戦。ツアースクリーニングプログラムにより試合当日に選手1人、マネジメントスタッフ1人の新型コロナウイルス陽性者が確認され、さらに12人(選手8人、スタッフ4人)が濃厚接触者に認定されたことから、急遽キックオフが1時間遅れとなり、B&Iライオンズは当初の予定から8人を入れ替えてこの試合に臨むこととなった。
そしてそれでも、誇り高き獅子たちの確固たる姿勢は揺るがなかった。23人の登録メンバー中、7月3日のシグマ・ライオンズとのツアー初戦から中3日での連戦となる選手は実に15人(先発11人、リザーブ4人。SHアリ・プライス、SOファレル、WTBリースザミット、FBジョシュ・アダムスの4人は連続先発)。そんな厳しい状況をものともせず、気鋭のホープがそろうシャークスに対し終始試合を支配して、伝統のジャージーをまとって戦うことの意味を体現してみせた。
フィジカル面に強みを持つ相手にFW戦で圧力をかけ、スペースへボールを運んで決定力ある外のランナーで仕留める。B&Iライオンズは自分たちのゲームプランを忠実に遂行して序盤から主導権を握った。開始2分、敵陣22メートル線内のラインアウトからLOイアン・ヘンダーソン主将の突進で相手防御に杭を打ち込むと、SOファレル→WTBリースザミット→FBアダムスとオフロードでつなぎ早々に先制。6分にも右サイドを前進してディフェンダーを集め、左オープンに振ってWTBドゥハン・ファンデルメルヴァがインゴールへ走り抜ける。
ラグビー ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ2021 南アフリカ遠征
【ハイライト】シャークス vs. B&Iライオンズ(2021年7月7日)
その後しばらくスコアが停滞する時間もあったものの、きっちり体を当ててシャークスの勢いあるアタックに立ちはだかると、26分、SOファレルの防御裏へのキックをチェイスしたWTBファンデルメルヴァが左隅にトライ。38分にはゴール前のラインアウトからモールを押し込み、CTBバンディ・アキがピック&ゴーで鋭く前に出てゴールラインを越える。26-0とリードを拡大して前半を折り返した。
いくつか好機を作りながらも仕留めきれない場面が続いたシャークスだったが、50分にようやく得点を刻む。この試合で再三好走を見せた2016年リオ五輪出場の元7人制南アフリカ代表、WTBヴェルナー・コックの仕掛けから右大外を崩し、最後はサポートから抜け出したFLジェームズ・フェンターが右中間にトライ。しかしここでB&Iライオンズは連戦の疲れが浮かび始めた選手たちに替えてフレッシュレッグを投入し、相手側へ傾きかけた流れをふたたび引き寄せる。
56分、シャークスのターンオーバーしたボールがこぼれたところへFBアダムスがすばやく反応し、左中間に押さえて追加点を挙げると、60分にはキックレシーブの切り返しからWTBリースザミットが約60メートルを走りきって突き放す。さらに73分にWTBファンデルメルヴァ、77分にはFBアダムスが、それぞれこの試合3本目となるトライを奪取。最終的に54-7まで得点差を広げてフィニッシュした。
「(20時キックオフの試合で)18時までスタッフと選手がホテルの部屋にとどまらなければならかったのだから、現実離れした状況だったし本当のチャレンジだった。17時30分まで検査の結果がわからず、そこからいくつかのメンバー変更を余儀なくされたが、そんな状況でもしっかりアジャストした選手たちのパフォーマンスと、スタッフ陣のハードワークを誇りに思う」
B&Iライオンズのウォーレン・ガットランド監督の試合後のコメントだ。当初の予定とは大幅に異なる布陣、短期間の連戦で万全とはほど遠いコンディションでも、選手たちは最大限の力を発揮してライオンズの“格”を示した。8トライを挙げたアタックの連携も見事だったが、何よりプライドを感じさせたのが、接点で体を当てる高い意識とディフェンス時の集中力だ。シャークスの能力あるランナーにライン防御を破られる場面はあったが、懸命のカバーリングと骨惜しみしないレッグドライブでピンチを再三しのぎきった。ガットランド監督も「守備面が大きく改善された」と手応えを口にしている。
2013年の豪州遠征、2017年のニュージーランド遠征に続くガットランド体制での3度目のツアーということもあり、今回のB&Iライオンズは早い段階から仕上がりのよさが目を引く。一方で気になるのは、新型コロナウイルスの影響だ。現在南アフリカ国内は深刻な感染拡大下にあり、B&Iライオンズで陽性者が確認されたほか、南アフリカ代表やブルズ、同国遠征中のジョージア代表でも陽性者が続出し、今週末のB&Iライオンズ-ブルズ戦が延期(その後の対応は検討中)、南アフリカ-ジョージア戦は中止が決定した。B&Iライオンズは来週14日に南アフリカA、17日にはストーマーズ戦が予定されており、24日からは2019年W杯を制した世界王者、南アフリカとの3週連続のテストマッチが組まれているが、予断を許さない状況となっている。
強靭なフィジカルを前面に押し出して2019年W杯で新たなトレンドを作った南アフリカに対し、B&Iライオンズが2年近くかけて進めてきた準備の成果を披露する今回のテストシリーズは、国際ラグビー界の次のトレンドを左右する重要なジャッジの機会だ。なんとか事態が収束し、世界中が注目する3連戦が無事開催されることを願いたい。
文:直江 光信
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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