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2019年ワールドカップメンバーの茂野海人
新生ラグビー日本代表の中で、2019年ワールドカップの試合に出場した選手がいないポジションがある。それはFW(フォワード)と、BK(バックス)のつなぎ役で、攻撃もリードする司令塔的なSH(スクラムハーフ)だ。
ワールドカップの5試合では、流大(サントリーサンゴリアス)が先発し、田中史朗(キヤノンイーグルス)がベンチから出場し、試合を締めるという形で臨んでいた。だが今回、36歳のベテランの田中が外れて、流は「メンタル的にリフレッシュしたい」という理由で日本代表に参加しなかった。
そこで、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)に選ばれたのは、ワールドカップに選ばれていたが、試合に出場できず悔しい思いをした茂野海人(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)、さらに今年、キヤノンイールグスで攻撃をリードした荒井康植、準優勝のサントリーで1年目ながら活躍した齋藤直人の3人だ。
今回のサンウルブズ戦、そしてブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦、アイルランド代表戦で中軸を担うと予想されるのは、ニュージーランドやサンウルブズ、さらに日本代表10キャップを得るなど国際経験豊富な30歳のSH茂野だろう。今年のトップリーグではトヨタ自動車で元オールブラックスのNO8(ナンバーエイト)キアラン・リードと、共同キャプテンを務めるなど、リーダーシップも発揮した。
ジェイミージャパンでは先輩である茂野は、久しぶりに合宿に参加して「新しい選手が結構多いので、コネクションを取っていけるように、(ラグビー強豪国である)ティア1の(ような)スタンダードをしっかり示していけるようにしたい。また、(キャプテンの)リーチ(マイケル)さんも言っているように、リアクションスピードを上げていけるようにしていきたい」と話した。
また、2023年ワールドカップに向けて、茂野は「大きな目標ですが、遠い目標かなと思います。僕自身、今、やらなければいけないことをやって、(遠い)目標を達成できると思っている」と目の前の練習に集中している。
さらに経験豊富な選手として、「新しい選手が多いと思うので、グラウンド内外のコミュニケーションはしっかりやって、いち早く1つのチームになれるようにやっていきたい。また、トヨタ自動車ではランする機会が少なかった。ランするところパスするところを見極めて、チームに対してコネクションしていきたい」と冷静に話した。
SHのポジション争いに関して聞かれると茂野は、「2人ともトップリーグを見ていてもいいプレーしているし、いいエナジーを持ってプレーしていた。新しい選手が入ってくるのはいい刺激になりますし、競争するということで僕も競争心が沸いてくる。やることは変わらないので、自分がやることにフォーカスを置いてやっていきたい」と自分のプレーに徹するつもりだ。
初選出のSH荒井康植
次にキヤノンでもハーフ団を組む日本代表SO(スタンドオフ)田村優が「スピード、フィットネスありますし、身体も張りますし、リーダーシップもある」と高く評価する荒井は、初の日本代表選出となった。
荒井は「何かを感じたら集合して話すので、一人ひとりにリーダーシップを感じました。また、日本代表は80分、仲間のために身体を張り続けるところです。自分としてはSHとして体力は自信があるので、声で仲間を支えながら、自分の強みである早いパスワークを全面に出してチームに貢献していきたい」と意気込んでいる。
今年、沢木敬介監督が就任したキヤノンで、田村と1シーズンハーフ団を組んで試合に出場し続けたことがやはり大きかったようだ。「優さんに、課題の1つだったディフェンスで、『ハーフだから身体張らないとかないから』と言われて、沢木さんや(田中)史(朗)さんとも話しながら、意識して修正して良くなって、いいマインドで試合に入ることができるようになった」と振り返った。
また、荒井は田村だけでなく、帝京大学時代、1つ年下のSO松田力也とハーフ団を組んでいたことは大きなアドバンテージとなろう。
荒井は「2人とも上から見ているというか、俯瞰してスペースや前が見えていて、的確な判断、指示もあり、すごく頼れる存在です。優さんはキックスキルが長けていて、主にキックを使いながらアタックしていく。力也はキックプラス、自分でも持って行けます」と話した。
23歳の新鋭・齋藤直人
3人目は最年少、23歳の齋藤だ。大学時代は主将として早稲田大学を優勝に導き、2020年はサンウルブズにも参加したホープだ。そんな齋藤も日本代表合宿は初参加となった。
「日本ラグビーで一番上のレベルの代表に呼んでいただき、合宿を通して、ジェイミー(・ジョセフHC)だったり、ブラウニー(トニー・ブラウン)だったり、優秀なコーチと経験のある多くの選手とプレーして、いろんなこと学ばせていただき光栄です」。
2020年のサンウルブズ、今年のトップリーグを経験して齋藤は、「(サンウルブズは)本当にプラスになった。トップリーグのスピード感やフィジカルのところは、大学からスーパーラグビーの舞台を経験したので、あまり驚きがなかった」。
また。「(サントリーで流と一緒にプレーしたことで)9番はチームを動かすポジションなので、発言の仕方やタイミングは、まだまだ経験を含めて足りないなと思いました。パスだったり、キックだったり、ランだったりは、これからも伸ばしていかないと行けない部分ですが、自信を持てた部分でもありました」と振り返った。
「常に9番をつけて試合に出ることを目指してやっている」という齋藤は、ポジション争いに勝つためには「アタック面であれば状況にもよるが、モメンタム(勢い)が出ている状態であれば、いかに早いテンポの中でいい判断ができるか、ディフェンスであればFWのオーガナイズが求められている。アタック、ディフェンスはその1点ずつが重要になってくる」と意気込んだ。
新生日本代表では、リーチ マイケル キャプテンやリーダー陣が引っ張る中で、強豪国であるティア1レベルのスタンダードが求められている。特にリアクション、起き上がるスピード、トランジッション(攻守の切り替え)のスピードは世界一を目指して日々、トレーニングしている。
また、SHのポジションにはブラウンコーチなど首脳陣から「ゲームのスピードをコントロールするので、そのスピードが遅くならないようにプレーしてほしい」(荒井)や、「日本が勝つためにはスピードが重要」(齋藤)と合宿の始めから指示されているという。
田中、流という2019年ワールドカップ組が不在の中で、9番を背負って日本代表の高速アタックをリードするのが誰になるのか、注目していきたい。
文/写真:斉藤健仁
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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