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「ラグビーで心をひとつに。」「再び世界を驚かせろ!」――。
マレー・フィールドに日本語の応援メッセージが表示され、ラグビー日本代表“ブレイブ・ブロッサムズ”を後押しする。
6月26日(土)、ラグビー日本代表とブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ(B&Iライオンズ)が対戦するマレー・フィールド(スコットランド)に、ファンから募集した応援メッセージが表示される。
この取り組みを仕掛けたのは、ラグビー日本代表やトップリーグ、過去にはサンウルブズもスポンサードした三菱地所。B&Iライオンズ戦の試合当日、ピッチ上のLED看板に表示される広告の一部をファンに開放するのだ。
応援メッセージはラグビーファンにはお馴染みのバーチャルタウン「丸の内15丁目」で「#ONETEAMCHEER」(ワンチーム・チア)として募集され、サイト上の住民投票により、7つのメッセージが決まった。
高田晋作さん
プロジェクトの中心メンバーは、丸の内15丁目の“町長”で、愚直なタックルマンだった元慶大キャプテンだ。
「弊社はラグビー日本代表のオフィシャルスポンサーとして、B&Iライオンズ戦でLEDの広告看板を出すのですが、その一部をファンの皆さんに開放し、日本国内のラグビーファンの熱い想い・ラグビー日本代表への応援メッセージを、ファンの代わりに現地に届ける施策です。選手たちがプレーしているそのそばで、ファンも一緒になって闘うことを実現したいと思っています。たくさんの応援メッセージが集まったので、それをつなぎ合わせて応援ソングもできないかとも考えているんですよ」
楽しげに今後の展望も語ってくれたのは、三菱地所(株)広報部ラグビーマーケティング室長の高田晋作さん。
1999年度、故・上田昭夫監督のもと、創部100周年という節目を14年ぶり3度目の大学日本一で飾った伝説的な主将だ。
高田さんの原動力は溢れるラグビー愛だ。その歴史を紐解くと、早稲田大学出身の父親との思い出に行き当たる。
「私の父親はラグビー部ではなかったですが、早稲田大学の出身です。ラグビーが好きで、小さい頃から昔の国立競技場によく連れて行ってもらいました」
国立競技場に充満するラグビー熱を体感した少年は、國學院久我山中学でラグビーを始め、國學院久我山高から慶大へ。
4年時に第100代の主将に就任し、上田監督、林雅人ヘッドコーチ(HC)の下、副将の金沢篤さん(元慶大HC、現パナソニックワイルドナイツコーチ)らとスタートを切った。ただ春シーズンは、不動の司令塔だったSO淵上宗志を主将に据えた関東学院大学に大敗した。
「関東学院さんは当時3連覇を狙っていた断トツのチームでした。春シーズンは前半に大差で離されて、歴然とした差を感じましたね」
そんな関東学院大を大学選手権決勝で破ってしまうのだから劇的だった。高田さんたちは着実に「歴然とした差」を埋めていった。
「前年度の慶應は13年ぶりに出場した大学選手権の準決勝で、明治大学さんにロスタイムで負けてしまいました(18-24)。私たちの代は、ロスタイムで負けない『一歩先』のチームを目指して、パス、ラインアウト、タックルのスキルなど足りなかった部分を少しずつ詰めていきました」
「学生なので当然最初から上手くはいかず、試行錯誤の連続でしたね。私は林HCと二人三脚で戦術を考え、チームに落とし込みつつ、キャプテンとして『どうすればすべての選手が実力を発揮できるか』といった環境作りに取り組みました。メンタルとスキルは両輪で、秋になって勝つことで自信をつけていったんです」
そして2000年1月15日。4万人の観衆が詰めかけた旧国立競技場で、就任6季目の上田監督、高田主将率いる慶大は27-7で優勝を果たすのだった。
「準決勝までは固い試合運びを意識していましたが、私たち(の世代)にとって決勝戦は初めて。失うものはありませんでした。恐れず前半から飛ばしていった結果だったと思います」
大学日本一になった2000年の大学選手権決勝戦
メモリアル優勝を達成できた最大の要因を訊ねられると、高田さんは創部100周年へ向けてリクルート、指導体制などを整えた上田監督の存在を挙げた。
「やっぱり上田さんは凄い人だと思っています。プロデュース能力にとても長けていました。伝統あるクラブをガラッと変えたプロデューサーの存在が一番大きかったですね」
慶大を革新した名将のもと、かつて観客席にいた少年は旧国立のピッチで万雷の拍手を浴び、伝説の一部になった。
高田さんは慶大卒業後、NHKを経て三菱地所に入社した。
ビジネス界で活躍しながらも「ラグビー界に協力したいOBが多い」という元慶大ラガーらしく、高田さんもラグビーワールドカップ(RWC)日本大会のスポンサーとなった三菱地所で、日本ラグビー界のためのチャレンジを始めた。
街づくりという本業を通して、RWC日本大会を盛り上げ、また、東京・丸の内を舞台に人々の熱狂を生み出すことで丸の内エリアのブランディングに繋げ、会社事業にも貢献する。
その考えで仕掛けたのが、ラグビーの魅力を発信する場「丸の内15丁目PROJECT.」の立ち上げだった。このネーミングのミソは、「ラグビー」と名乗らなかったことだ。「ラグビーと入れてしまうとラグビーファン以外は入って来づらくなる。にわかファンも巻き込んでいくため考えた施策でした。」
「弊社は『街』という場を作っている会社で、いろんな人を巻き込める可能性があると思っていました。スポーツへの全社的な取り組みは初めてで大変なこともありましたが、実績作りや説明を重ねながら、たくさんの方々のおかげで丸の内15丁目プロジェクトが立ち上がりました」
当時認知度の低かったRWC日本大会を盛り上げようと、丸の内15丁目は斬新な切り口の企画を仕掛けた。
2015年RWC南アフリカ戦のラスト4分間を240枚のポスターで表現した作品等を展示した「ラグビーアート展」。
ラグビー短編映画「BY THE RUGBY」の製作。
ラグビー神社
東京・丸の内に、RWCの成功を祈願できる「ラグビー神社」まで造ってしまった。
この神社造りという異例のミッションで中心的な役割を果たしたのは、プロジェクトメンバーの一人で、秋田高校-慶大のトライゲッターとして活躍した出雲隆佑さんだ。
京都に出向き、世界遺産「下鴨神社」の境内にあるラグビーとゆかりの深い「雑太社(さわたしゃ)」の御祭神「神魂命(かんたまのみこと)を分祀してもらい、正式な神社を造り上げた。
ラグビー神社は現在、岩手・釜石鵜住居復興スタジアムを見下ろす裏山に移設されている。日本屈指のラグビータウン・釜石市を訪れたら、ぜひ参拝したい新名所だ。
2019年9月20日、丸の内15丁目メンバーも気運醸成に奔走してきたRWC日本大会がついに開幕した。
高田さんは大会期間中、全48試合のパブリックビューイングを行っていた丸ビル(1階マルキューブ)にいた。丸ビルは紅白に装飾され、丸の内、大手町、有楽町エリアにある計44の飲食店では大会特別メニューを用意してもらっていた。
本当に盛り上がるのだろうか――。開幕直前まで抱えていたそんな不安は、9月20日の開幕戦「日本対ロシア」で吹き飛んだ。
「丸ビルのパブリックビューイング会場にいましたが、凄かったです。おそらく丸ビル史上最多に近いくらいの動員というか、会場から東京駅側に続く中央通路も全て人で埋まる感じでした。開幕戦から、いわゆる『にわかファン』と呼ばれた方々までラグビーの魅力が届いたと思います」
日本代表が史上初のRWC8強を達成したRWC日本大会は、大成功に終わった。しかし高田さんたちは大会後に大仕事が待っていた。
12月11日(水)、東京・丸の内仲通りで行われた「ONETEAMパレード」である。
「丸の内15丁目プロジェクトの取り組みを認めてもらったからだと思いますが、『パレードを丸の内仲通りで実現できないか』というお話を頂きました。丸の内で過去に大掛かりなパレードをやったことはなく、仲通りは公道なので、管轄する警察に行ってどうすれば開催できるか、というところから話し合いました」
ラグビー日本代表が手を振りながら歩いた800mは、日本にとって2019年RWCの最高のフィナーレになった。
冬晴れの丸の内仲通りは、まるで歓声に溢れたスタジアムだった。
ONETEAMパレード
「仲通り沿いのビルから観ていましたが、凄いことになったなと思いました。前日の夜から並んだ人もいて、黄色い声援が飛び交っていました。前年の日本のラグビー界だったらあり得ないような光景でした」
ONETEAMパレード
SH田中史朗の顔はパレードが始まる前から涙でぐしゃぐしゃ。2021年で現役を引退した福岡堅樹はこの日を振り返って「あの光景はすごく特別なもの」と語った。
「我々の力ではありませんが、弊社の街づくりと絡めてサポートできたことは、ひとつの集大成と言いますか――すごく良い光景が生まれたなと思いました」
2015年から4シーズンは慶大でコーチも務めていた。
今は慶大日吉グラウンドからは離れ、週末になると父親として、次男が通うラグビースクールへ足を運んでいる。
ラグビー経験は、いずれ社会で活きる。そんな確信があるから、我が子にも仲間と一緒に楕円球を追いかけてほしい。
「自分の強みを見つけて、それをチームのどこで活かすのか。それを見つけてほしいなと思って、ラグビースクールに入れています」
「社会に出ても『One for all, All for one』の意識で、一つの目標をチームでどう達成するのかが重要です。ラグビーは社会で重要になるチーム意識をすごく学べるスポーツだと思っています」
RWC日本大会の盛り上げに貢献した丸の内15丁目プロジェクトは、引き続き日本ラグビーと共に未来へ進む。高田さんは日本ラグビーの一歩先を思い描いている。
「日本のラグビーは2019年RWCで国民的認知を得られ、一段階上がったと思うんです。これからはさらに社会との接点を増やして、ラグビーの価値をさらに高められたらと思っています。『丸の内15丁目』では今後、ラグビーの力で社会を変えていくようなプロジェクトを具現化していきたいと思っています」
ラグビーの力で社会を変えていく舞台として、現在は『番地プロジェクト』(仮)を構想中だ。
丸の内15丁目というバーチャルタウンを「番地」で区分けし、例えば「2番地」では、日本ラグビー協会が立ち上げたメンタルの啓発活動「よわいはつよい」のようなメンタルヘルスのプロジェクトを立ち上げてみる。
またSDGsの17の目標にかけて「17番地」ではSDGsとラグビーを絡めた大学を創ってみる。
構想を語る丸の内15丁目の町長は、「純粋に面白いなと思います」と笑顔だった。
その先に思い描くのは、2023年にW杯にいく日本代表の選手達を、東京・丸の内から10万人の大壮行会で送り出し、大会終了後には100万人の大凱旋パレードで迎えたいという夢だ。
本当に楽しいのに違いない。仕事とラグビーの共通点について訊ねた時、高田さんは「プロジェクトメンバーが『ラグビーをやっている感覚がする』と言ってくれたこともあるんです」と嬉しそうにしていた。
高田さんは知恵と情熱、溢れんばかりのラグビー愛で、これからもビジネス界から日本ラグビーの発展に貢献していく。
文:多羅 正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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