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浜野俊平さん
2019年のラグビーワールドカップ(RWC)から約1年半。日本代表がようやく動き始めた。直近の目標は、2023年のRWCフランス大会で2019年のベスト8以上の戦績を残すことだ。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチが率いる日本代表の好成績のためには、選手だけではなく、チームを支えるスタッフの役割も重要になる。今回は、上智大学の学生だった2016年から日本代表のアナリストを務め、2019年大会の躍進に貢献。2023年大会に向けても分析の腕に磨きをかける浜野俊平さん(27歳)に、その仕事内容など伺った。
──ラグビーを始めたのは、いつですか。
「中学までは野球をしていたのですが、何か新しいスポーツが始めたくて、入学した高校にラグビー部があったので入部しました。高校(桐光学園)、大学(上智大学)で続けました」
──大学時代、どんなきっかけでアナリストの道に入ったのですか。
「フルタイムコーチがいない部活だったので、学生コーチという立場でも活動していました。初めて分析ソフトを触ったのは大学2年生でした」
──分析することは楽しかったから続けたのですね。
「映像と数字でプレーを客観的に可視化するのは面白かったですね。感覚的にプレーしていたものを、きちんと機械を使ってレビューして、次の相手の分析をするというプロセスが好きになっていきました」
浜野俊平さん
──それを仕事にしようと思ったのはいつ頃ですか。
「大学のコーチがそのソフトを持ってきてくれたのですが、縁あって、当時、15人制日本代表のアナリストだった中島正太さんが学校に来て分析方法を教えてくださったんです。その縁で2015年から7人制日本代表のサポートをするようになりました。プロフェッショナルな環境では、いかに客観的な指標が大事なのかということが分かり、より面白いと感じるようになりました」
──15人制日本代表のアナリストになったのは2016年からですね。どんな仕事内容でしたか。
「はい。そのとき僕はまだ学生でした。単純に自チーム、対戦相手の分析もありますし、この4年間でいえば、トップリーグの選手の分析とモニタリング、スーパーラグビーの分析ですね」
──トップリーグの分析というのは、日本代表に必要な選手を数字から見つけるということですか。
「それに加えて、スタジアムでコーチ陣が良いと思った選手のプレーを数値化するのです。見て感じたことは主観的ですから、客観的な情報では他選手とどのような差があるのかを比較します。たとえば、姫野和樹はジャッカルやボールキャリーの力強い突進が特徴というイメージがありますが、実はタックルに行った回数が昨年のトップリーグで一番多い選手でした」
浜野俊平さん
──他に数字的な見方で例をあげていただけますか。
「日本代表のFW第三列は、ラックの参加率と、相手を排除する確率が高いです。そういったプレー一つ一つのクオリティもそうですし、インターナショナルレベルと比較するために、トップリーグにいる各国代表選手を分析します。パナソニック ワイルドナイツのLOジョージ・クルーズ(イングランド代表)は、ボールキャリーよりも、ラックで相手をクリーンアウトする能力が高い選手です。彼はイングランド代表選手ですので、彼と比べて、他の選手はどうだろうという見方をすることができます」
──2019年のRWCの日本代表の躍進も分析の成果が出ていたのでしょうね。
「チームの戦い方の分析をすると、アイルランド代表は自分たちでボール保持時間を長くして、相手にボールを持たせたくないチームでした。いかに守り続けさせるかがキーでした。次のサモア代表はボールを継続して支配するラグビースタイルではなかった。だから、こちらはキックを上手く使いながら攻めました。この2試合を見た人は、日本代表がまったく違うラグビーをしたように見えたと思います。スコットランド代表もアイルランド代表と似ていました。南アフリカ代表はキックを蹴って守り続けるスタイル。ボールを持ちたいか、持ちたくないかはチームによって異なりました」
──大学生の頃から日本代表に関わって作業をするのは緊張感があったでしょう。
「7人制日本代表に関わったとき、瀬川智広ヘッドコーチから、日の丸を背負うことの意味や、プレッシャー下でやらなければいけないことを、気持ちを込めて教えていただきました。それ以降は、一つ一つ自分のやっていることに意味と誇りを持って取り組んでいます。いまは自分が何をすべきか明確に分かっていますので、気負いや不安はありません」
──2023年大会に向けての分析はもう始まっているのですか。
「昨年12月にプール分けが決まった時点で、オータムネーションズカップ(イングランド、アイルランド、ウェールズ、ジョージア、フランス、スコットランド、イタリア、フィジーが参加)、トライネーションズ(ニュージーランド、アルゼンチン、オーストラリアが参加)が終わっていましたので、分析は始まっています」
──2023年で日本が戦うイングランド、アルゼンチンと、2019年の対戦相手のアイルランド、スコットランドとの違いは何かありますか。
「イングランド、アルゼンチンはキックを多用するチームでディフェンスがすごく強いですね。イングランドは選手層も厚いですし、右足、左足、両方のキッカーもいます。セットピース、ディフェンスの強化は2023年に向かってキーになると思います」
──日本代表もようやく動き始めました。6月、7月は、サンウルブズ、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ、アイルランドとの対戦が決まっています。この3試合に向けての準備も始まっていますか。
「ライオンズについては当初はメンバーを予想しながらデータを集め、発表になってからは個人の分析をしています。アイルランドについては、コーチ陣もそのままだし、分析は終わっています」
──ジェイミー・ジョセフヘッドコーチや、アシスタントコーチのトにー・ブラウンから直接リクエストが入るのですか。
「直接やり取りして調整しています。選手と直接対話することは少ないですが、説明をすることはよくあります。たとえば2019年のRWCでは、ラインアウトは試合に出ないメンバーが模擬的に対戦相手の動きをして練習しました。そんなときは分析した情報をもとに模擬的な動きをするので説明が必要なのです」
──ここ数年で、分析はレベルアップしているのでしょうか。
「これまでは試合の映像でもカメラの台数が限られていましたが、RWC2019以降は1試合を6台のカメラで撮影するのが基本で、それが配信されて全チームが使用できるようになっています。データ分析のツールも、数クリックで、この国の、この大会の、この選手という形で、データを簡単にソート(データを並びかえる)できるようなものが進んでいます。日本ラグビー協会が契約して有料で使うのですが、今やどの国もやっていますね」
浜野俊平さん
──トップリーグの公式サイトに、「クリーンブレイク」「ボールキャリー」「オフロードパス」などの項目が数値化されていますね。もっと細かく分析しているのですか。
「ラインブレイクの数が、どちらかのチームが多かったとします。では、どんな起点からか、グラウンドの場所はどこか、一つのパスか、二つ目のパスか、より細かいところを見ながら、本当に気を付けないといけないプレーはどれなのか、そんなところを見える形にしていっています」
──最近、重要視されている数字はありますか。
「何人でボールをクリーンアウトしたか、相手のディフェンダーを何人巻き込んだか。こちらがボールを持ち込んでいるのに、相手が全員立っていたら有効な攻撃にはならない。ここは世界的に見ている人が多いところです」
──さまざまなスポーツでアナリストの役割は重要になっていると思います。
「いろんなデータが増えていますが、大事なのはそれを読み取る力です。小学校でプログラミングが必修化されて、データを取得する方法はみんな上手くなると思います。しかし、その意味をくみ取って最大限に吸収するということができないと、せっかくの情報も使いきれなくなります。アナリストの役割は重要になっていくと思います」
──子供たちや学生で、アナリストを目指す人は、どんな準備をしていけばいいですか。
「プログラミングができるようになれば、人の手で一日かかるものが、5分、10分でできます。英語ができれば、海外の人と話し合い、いろんなところにアクセスして情報を収集することもできます。そうすれば余った時間でコーチと話し合い、意見をすり合わることができます」
──英語は必要だということですね。浜野さんは英語の勉強はされたのですか。
「僕は3歳から小学6年生まで8年間アメリカに住んでいました。大学も英語の授業をとっていました。コミュニケーションがとれないと、指示がよく理解できないことがありますからね。ラグビーを上手にプレーできる人、見るのが大好きな人はたくさんいます。差別化するには、それ以外のところで武器が必要だとは思いますね」
──2023年大会に向かって個人的な目標はありますか。
「アナリストのレベルを上げて的確に役割と果たしたいと思いますが、僕らだけが持っている情報ではなく、コーチ、選手たちがその情報を掘り下げて分析し、アクションに結びつけることができれば、チームのパフォーマンスに好影響を及ぼすと思います。そういったことを、個々がやっていくように仕向けていくのが、組織力を上げるうえでも目指す形なのかなと思います。2023年に向けてやりたいミッションです」
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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