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持てる力をすべて出し尽くした。NTTドコモレッドハリケーンズの奮闘には大袈裟でなくそんな表現がピタリときた。そして、その渾身のチャレンジに劣勢を強いられながらも、要所でスコアを刻み最後に勝ちきったトヨタ自動車ヴェルブリッツの地力はさすがだった。奥歯を噛み締めるような緊迫感に満ちた80分。これぞプレーオフというべき熱闘だった。
NTTドコモの燃え盛る気迫は開始直後から緑の芝の上に立ちのぼった。キックオフを深く蹴り込み、猛然と体を当ててLOローレンス・エラスマス主将がボールをもぎ取ると、すかさず左右に連続攻撃を仕掛けてペナルティを獲得。SOマーティ・バンクスがPGを決め、3点を先制する。
9分にトヨタ自動車にPGを返され3-3で迎えた15分には、敵陣ゴール前のラインアウトからテンポよくフェーズを重ね、FBトム・マーシャルが右中間にトライ。27分にもWTBマカゾレ・マピンピのビッグゲインを起点に敵陣深くまで攻め込むと、CTBパエアミフィポセチが腰の強いランで2人のタックルを振りほどいてゴールラインを超えた。
マイケル・フーパー(4/25 トヨタ自動車 vs. 日野)
ここまではNTTドコモの狙い通りの展開。しかしトヨタ自動車も31分、FLマイケル・フーパーのターンオーバーから敵陣22メートル線内でチャンスを作ると、大外でパスを受けたWTB 高橋汰地が狙いすましたランで右コーナーに飛び込む。相手防御を崩しきれないシーンが続く中、流れが向こうに傾きかけた場面だっただけに、このトライの価値は大きかった。
さらに前半終了間際のピンチを粘り強い防御でしのぎきったトヨタ自動車は、後半開始早々にも集中力を発揮する。マイボールのキックオフを浅く蹴り込み、NO8キアラン・リードがタップして確保すると、ラックサイドのわずかなスペースをSH茂野海人が好判断でブレイク。内をフォローしたリードが右中間にトライを挙げ、18-15とこの日初めてリードを奪う。
もちろんNTTドコモも引き下がらない。直後のキックオフでペナルティを獲得すると、迷わずPGではなくタッチに蹴り出してトラインアウトを選択。サインプレーで巧みにポイントをずらしてモールを組み、一気になだれ込んでFLヴィンピー・ファンデルヴァルトがインゴールに押さえた。ゴールも決まり、22-18と逆転する。
【ハイライト】トヨタ自動車 vs. NTTドコモ|トップリーグ 2021 プレーオフ準々決勝
この後、トヨタ自動車は後半6分にFLフェツアニラウタイミが危険なタックルでシンビンとなったが、守りに入ることなく攻めの姿勢を貫き、8分にSOライオネル・クロニエが約45メートルのロングPGを決めて1点差に詰め寄る。しかしNTTドコモは12分、FBトム・マーシャルがみずから上げたハイパントを鮮やかにキャッチして抜け出し、WTB茂野洸気につないで右隅にトライ。SOバンクスが難しい角度のゴールを決めて、ワンチャンスでは追いつけない8点差までリードを広げる。
トップ4まで残り20分。まさにチームとしての真価が問われる局面だ。そして、この勝負どころで底力を発揮したのがトヨタ自動車だった。
22分。相手のキックミスで敵陣22メートル線内中央のマイボールスクラムを得ると、左サイドをBKのムーブで崩してWTBヘンリージェイミーがトライ。さらに31分にも14フェーズに渡る長い連続攻撃を攻めきってふたたびWTBヘンリーがゴールラインを超え、33-29とついに試合をひっくり返す。
NTTドコモも最後まで勝利をあきらめなかった。自陣に攻め込まれても懸命に体を張って相手を押し戻し、球を奪うやパスをつないで果敢に突破を図る。極度の消耗でほとんど足が止まりかけながら、何度もあわやというシーンを作った。
フルタイムのホーンが鳴った後のラストプレー。NTTドコモが敵陣ゴール前15メートル付近でのマイボールラインアウトから、最後のアタックを仕掛ける。インゴールまでは約10メートル、トライを取りきれば逆転という状況。しかし疲れからかわずかにサポートが遅れたところで、トヨタ自動車のLO吉田杏が腕をねじ込みボールに絡む。値千金のノットリリースザボール。この瞬間、激闘に終止符が打たれた。
今季絶好調のNTTドコモの挑戦を受けて立つ格好で、なかばその勢いに飲まれかけたトヨタ自動車だったが、集中力と勝利への意志は揺るがなかった。とりわけ際立ったのは、ここという場面で好機を引き寄せ、それを仕留めきるチームとしての懐の深さだ。攻守に渡り今季ベストといえるパフォーマンスを見せたNO8リード、ベンチからのスタートで再三効果的なランとキックを披露し流れを引き寄せたFBウィリー・ルルーのプレーぶりは、その象徴といえるだろう。
「ノックアウトラウンドで戦争のような試合になるとはわかっていたが、実際にそんな試合だった。71分以降、パニックになることなく全員が自分の役割に集中できたことが、この結果につながったと思う」とは、サイモン・クロンヘッドコーチ。今季多くのチームが引きずり込まれたNTTドコモの土俵に上げられながらも、自分たちのスタイルを見失わず、堂々と押しきることができた。この勝利は、初優勝に向け上昇してきたチームをさらに加速させるだろう。
一方のNTTドコモ。これで今季の快進撃は止まることとなったが、ここまでの好成績がフロックでないことは、この試合でもあらためて証明された。そして、全員がオールアウトするチーム一丸のひたむきな戦いぶりは、またしても多くの観戦者のハートを鷲づかみにした。
「選手のことをとても誇らしく思う。今日の試合に限らず、今までの努力を振り返って非常に満足している。チャンスがたくさんあっただけに心は痛むが、両者とも本当によくファイトしていた。トヨタにおめでとうといいたい」(ヨハン・アッカーマンヘッドコーチ)
過去の最高成績は11位、かつては昇降格を繰り返していたクラブが初のトップ8入りを果たし、優勝候補の一角とどちらに転んでも不思議ではない激闘を演じて、なお敗戦に心からの悔しさを感じるところまでたどり着いた。それは、このステージに立たなければ味わうことのできない財産なのだ。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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