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トヨタ自動車 vs. NTTドコモ
さまざまな困難を乗り越えてたどり着いた準々決勝の舞台。トーナメント表に勝ち残った8チームは、まさに今季のトップ8というべき顔ぶれだ。ここから先の戦いでは、わずかな判断スピードの差やこぼれ球への反応ひとつが勝敗を左右する。どの試合もこれまで以上に見応えある激戦になるだろう。
プレーオフトーナメント2回戦から間隔が2週間空き、スカウティング、コンディショニングいずれも万全の状態で臨むことができる今節。その最初のゲームでは、レッドカンファレンス2位のトヨタ自動車ヴェルブリッツと、ホワイトカンファレンス3位のNTTドコモレッドハリケーンズが激突する。リーグ屈指のポテンシャルを誇るトヨタ自動車に対し、2021シーズンの話題の中心となったNTTドコモがどんなチャレンジを見せるのか。両者の足跡を振り返りながら、この一戦を展望してみたい。
トヨタ自動車スターティングメンバー
長くオールブラックスのキャプテンを務めたNO8キアラン・リード共同主将、ワラビーズの現キャプテンであるFLマイケル・フーパー、スプリングボクスでワールドカップ優勝の原動力となったFBウィリー・ルルーら世界的スターを擁するトヨタ自動車は、厚みのある戦力を効果的にローテーションさせながら6勝1敗でリーグ戦を終えた。唯一の黒星となった第5節サントリーサンゴリアス戦は、後半36分のトライ(ゴール)で同点に追いついたものの、ロスタイムに40メートル超のサヨナラPGを決められての36-39の惜敗。昨年は14-60と大敗を喫した相手にあと一歩まで肉薄し、チームの進歩を証明した。
大きな強みとなっているのはセットピースの安定感だ。スクラム93.1パーセント、ラインアウト83.2パーセントと高いキープ率を残しているのに加え、相手ボールの際に圧力をかけていい形に持ち込ませない力強さも目を引く。攻守の起点となるプレーで優位に立てることが、SOライオネル・クロニエやFBルルーの卓越した局面打開力を引き出すことにつながっており、試合終盤に動きが重くなる課題も、シーズンが深まるにつれて克服されてきた。
NTTドコモスターティングメンバー
一方のNTTドコモは、キヤノンイーグルスとの初戦で劇的な逆転勝利を収めて勢いに乗った。4勝3敗で終えたリーグ戦7試合のうち、4試合が5点差以内の僅差勝負で、14点差以上スコアが離れたゲームはわずか1試合だけ。チーム一丸となって常にひとつひとつのプレーに全力を尽くし、最後まで懸命に食らいつく。「ひたむき」という言葉を体現するような戦いぶりで、心揺さぶる快進撃を続けてきた。
躍進の象徴であるTJ・ペレナラのあふれるエナジーと世界最高クラスのスキルが、チームを変えたのは間違いない。加えてクラブ再建の達人、ヨハン・アッカーマンヘッドコーチの緻密にして意欲を奮い立たせるコーチングが、ノンメンバーを含むすべての選手の献身的な姿勢を呼び覚ましている。SHペレナラやWTBマカゾレ・マピンピ、HOフランコ・マレー、FBトム・マーシャルら新加入の外国人選手に目は行きがちだが、以前から所属していたプレーヤーが人が変わったようなパフォーマンスを発揮している点に、チームとしての成長は表れている。昨季までの脆い印象は、もはやどこにも見当たらない。
そんな両者の対戦で最大の焦点となるのが、セットプレーだ。特にスクラムはここまでの戦いでNTTドコモがもっとも苦しんだ部分であり、今季全試合先発出場中のPR三浦昌悟を軸にリーグ有数の推進力を備えるトヨタ自動車がプレッシャーを与えにくるのは間違いない。NTTドコモにすれば、いかにスクラムの回数が少ない展開に持ち込み、かつ勝負どころでマイボールをキープできるかが、重要なポイントになる。
リーグ戦のスコアの傾向を見ると、トヨタ自動車は16チーム中4位の288得点を挙げている一方、失点も186と勝利数の割に多く、持ち前のアタック力を押し出して攻め勝ってきたという印象だ。逆にNTTドコモは得点と失点が同数の175で、それぞれ全体の11位、5位と、堅守を軸に接戦を粘り勝ってきたチームであることがわかる。また、トヨタ自動車はリーグ最多タイの11本、NTTドコモは同3位の10本と、ともにPGによる得点が多いことも特徴的。この部分に関係する要素として、NTTドコモは反則数が96(1試合平均13.7)で16チーム中もっとも多い。ペナルティに乗じて敵陣深くでのマイボールラインアウトが増えたり、PGで着実に点を積み重ねるという流れになれば、トヨタ自動車の強みが生きるだろう。
キックオフ48時間前に発表された登録メンバーからも、それぞれの思惑は浮かび上がる。トヨタ自動車は外国人選手枠の関係でFBルルーをリザーブに回し、FLフーパーとNO8リードを先発に並べてきた。ブレイクダウンで無類の強さを発揮するフーパーをスタートから起用することで、FW戦を制圧して主導権を握る――というのが狙いだろう。その他、前節の日野戦からの変更としては、LO秋山大地が2試合ぶりに4番に復帰し、CTBロブ・トンプソンが13番へ。チャーリー・ローレンスが13番からルルーに代わって15番へとシフトする。
逆にNTTドコモはBKに外国人選手をずらりと並べる布陣を敷いてきた。LOローレンス・エラスマス主将、今季絶好調のFLヴィンピー・ファンデルヴァルトを軸に、FWは8人一体でひたすらハードワークして対抗し、少ないチャンスを好ランナーがそろうBKで一気に仕留めるイメージか。注目は今季初出場となった第7節神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦で、途中出場ながら1G3PGを決める大活躍を見せたSOマーティ・バンクス。初の先発起用で、大仕事をやってのけそうな予感はある。
文:直江 光信
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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