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雨の中、突破を図る松島幸太朗
ラグビーの欧州クラブ王者を決める「ハイネケン・チャンピオンズカップ」。4月2日からプレーオフトーナメントが開始され、11日(日)は日本代表のFB(フルバック)松島幸太朗が所属するASMクレルモン・オーヴェルニュと、過去優勝4回を誇るトゥールーズのフランス「TOP14」のクラブ同士の準々決勝が行われた。
準優勝3回で初優勝を目指すクレルモンは、1回戦でイングランドのワスプスと対戦した。終盤までリードされていたが、試合終了間際にFB松島のトライで同点に追いつき、キャプテンのSO(スタンドオフ)カミーユ・ロペスのゴールで27-25と逆転勝ちを収め、ベスト8進出を決めた。
クレルモンのメンバーは1回戦とほぼ変わらなかったが、FW(フォワード)ではLO(ロック)にフィジー代表のペセリ・ヤト、BK(バックス)ではSH(スクラムハーフ)に元フランス代表のベテラン、モルガン・パラが先発し、もちろんFB松島もスターターに名を連ねた。
5回目の戴冠を目指すトゥールーズだが、2010年以降決勝の舞台には立てていない。しかし、今季は「TOP14」でも首位に立つなど好調で、このチャンピオンズカップでも、1回戦はアウェイで優勝候補のアイルランドのマンスターに40-33と勝利し、勢いに乗っている。
トゥールーズもメンバーをほとんど変えず、LOにはヤマハ発動機でもプレーしたリッチーと、元ワラビーズのロリー、双子のアーノルド兄弟、NO8(ナンバーエイト)は元オールブラックスでトヨタ自動車でもプレーしたジェローム・カイノが務める。
SHアントワーヌ・デュポンとSOロマン・ヌタマックのフランス代表のハーフ団、WTB(ウィング)には南アフリカ代表チェスリン・コルビと強力な布陣で臨んだ。
クレルモンはホームでは強く、トゥールーズとはTOP14で昨年9月にホームで対戦し、33-30で勝利している。一方のトゥールーズはハイネケン・チャンピオンズカップでは直近10試合のアウェイゲームで8勝。
しかし、ベスト8に進出してアウェイで戦った過去8試合のうち、わずか3勝しかできていないという悪いデータもあった。さらに、クレルモンのホームでは2002年以来勝ち星がなかった。両者がチャンピオンズカップの準々決勝で顔を合わせるのは21年ぶりのことで、この時は31-18とトゥールーズが勝っている。
好調なトゥールーズが勝利し、2009-10シーズン以来6度目の欧州王者へ一歩近づくか。ホームの大きな後押しを受けたクレルモンが難敵を打ち砕いて初優勝へ前進するか。フランスの強豪同士の一戦は雨の中、クレルモンのホーム「スタッド・マルセル・ミシュラン」でキックオフされた。
試合は開始早々、松島がアタックで魅せた。3分、松島が右サイドライン際にキックで上手くボールを転がす。だが、WTB(ウィング)アリベルティ・ラカが足でボールをコントロールできず、トライにはつながらなかった。
5分、クレルモンがアクシデントに見舞われてしまう。キャプテンのSOカミーユ・ロペスが負傷で退場し、替わりにサモア代表経験があり、リコーでもプレーしたティム・ナナイ ウィリアムズが入った。
その後、雨の中、クレルモンは自陣で反則を犯してしまうが18分、20分、トゥールーズは、SOヌタマックがPG(ペナルティゴール)を外した。逆に、クレルモンが相手陣でPGのチャンスを得て、SHパラが24分、32分にPGを落ち着いて決め、6-0とリードする。
トゥールーズも前半30分を過ぎからヌタマックが2本のGPを決めて6-6の同点として試合を折り返す。後半に入り、4分、SHパラがPGを入れて再び9-6とクレルモンがリードするが、トゥールーズも9分にSOヌタマックが決めて、9-9と再び、同点となる。
後半に入り、雨も止んだが、カップ戦特有の「負けられない」という緊張感の中、ゲームが進む。17分、SOヌタマックのPGで、トゥールーズがこの試合で初めて12-9とリードするが、その直後ペナルティから、クレルモンSHパラがPGを決めて、再び12-12とスコアが振り出しに戻る。
ハイネケン・チャンピオンズカップ2020/21 プレーオフ 準々決勝
【ハイライト】ASMクレルモン・オーヴェルニュ vs. トゥールーズ
しかし、後半の終盤に入るとクレルモンの規律が乱れ始め、21分、23分にSOヌタマックがPGを沈め、トゥールーズが18-12とする。26分、なんとか逆転を目指したクレルモンは、キックカンターからFB松島が左ライン際を走り、チャンスメイクをしたが、トライには結びつかなかった。
32分にもトゥールーズがPGを追加し21-12と、この日、初めて9点差とした。後がなくなったクレルモンもアタックを継続し、38分にPGのチャンスを得たがSHパラが外してしまい万事休す。
最後までクレルモンも攻めの姿勢を見せたが、結局、FWのセットプレー、そしてディフェンスで上回ったトゥールーズが、21-12でクレルモンを下し、3シーズン連続となる準決勝進出を決めた。この試合の優秀選手である「スター・オブ・ザ・マッチ」には7PGを決めたトゥールーズのSOヌタマックが選出された。
トゥールーズのウーゴ・モラHC(ヘッドコーチ)は「アウェイでマンスターとクレルモンという素晴らしいチームに続けて勝つことができて嬉しい。序盤に続けてPGをミスしたが、それでも勝つことができた」。
「ロマン(・ヌタマック)のボールのコントロールと、アントワーヌ(・デュポン)のスクラムのマネージメントは良くなかったが、それを除けば、悪天候の中良くやったと思うし、クレルモンにもFWで上回ることができた。また、ベテランの選手が経験を生かしてよく戦ってくれた」と語った。
そして指揮官は「(準決勝の対戦相手の)ボルドーは、決勝に行く力を持つ選手を揃えている。しっかりと準備しなければいけない」と次戦を見据えた。
キャプテンのHO(フッカー)ジュリアン・マルシャンは、「クレルモンのホームで勝てたし、非常に満足している。今シーズンは色々とイレギュラーなことも多いが、チームは自分たちが勝つことを疑わず、自信を持って臨んでいる」と笑顔を見せた。
一方、クレルモンのフランク・アゼマHCは、「ナナイ ウィリアムズは良いプレーをしたが、私たちは試合開始3分ほどで、キャプテンと司令塔を失ってしまった。レフェリーはロペスがケガをしたシーンをその目でよく見ていたとは思うが、もう少し(ビデオで)検討して欲しかった」と語った。
さらに指揮官は「それでも最初はいい試合ができていたのに、だんだん規律が悪くなってしまった。接戦だったのに勝てなくて残念だ」と肩を落とした。SHパラも「これだけミスをしては勝つことはできない。後半にフィジカルが落ちて、規律も悪くなってしまった」と悔しさをにじませた。
FB松島は自身のTwitterで「タレント軍団相手にまたいい経験できたと思います。時間を無駄にせずなんでも吸収していきます!」と敗戦したものの、いい経験ができているようでしっかりと前を向いていた。
ベスト4に勝ち上がったトゥールーズは試合後の抽選で、準決勝は同じ「TOP14」のボルドー・ベグルとなった。5月1日(土)もしくは2日(日)、今度はトゥールーズのホーム「スタッド・エルネスト ワロン」で激突する。
文:斉藤健仁
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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