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トップリーグ名勝負として刻まれるべき一戦だったろう。
新リーグ移行前のトップリーグとしては、ヤマハスタジアムで開催される試合は最後。
ヤマハ発動機ジュビロにとっても、また今季限りで現役引退を表明しているFB五郎丸歩にとっても、さらには早大監督就任のため最後の帯同試合となる大田尾竜彦コーチング・コーディネーターにとっても――何としても勝ちたいメモリアルマッチだった。
しかしフルタイムで歓喜したのは、開幕3連敗のキヤノンだった。
キヤノンは今季より元サントリー指揮官の沢木敬介監督が就任。キャプテンには2019年W杯日本代表のSO田村優を据え、新体制となったが、開幕から苦戦が続いた。
ヤマハ発動機がトップリーグ4強の常連である一方、キヤノンの過去最高位は15年度の6位。格上の実績を持つ相手から奪った待望の今季初勝利に、熱い涙を流す選手もいた。
「今までと変わらず良い準備ができて、80分間、全員で信じ切ってやれたので結果がついてきました」(キヤノンSO田村優キャプテン)
キヤノンは序盤からガムシャラだった。
デコイ(おとり)のランナーが愚直にポジショニングを続けながら、SO田村キャプテン、今季新加入のFB小倉順平を起点としてボールを大きく展開する。
ジェシー・クリエル(キヤノン)
キヤノンは前半3分、CTBジェシー・クリエルの突破から、最後はWTBエスピー・マレーが押し込んで先制トライ(ゴール失敗)。
PGを返されたものの2点リード(5-3)で迎えた前半21分、CTB南橋直哉が内に切れ込んでチーム2トライ目を挙げた。12-3
この2本目のトライは、相手反則からのクイックスタートが奏功し、敵陣右コーナーに侵入したことが足掛かりになった。
キヤノンはこの日、自陣深くからでもクイックスタートで常に速攻した。相手の土俵に立つ前に奇襲を仕掛ける。常に先に動くことで主導権を握る――。
【ハイライト】ヤマハ発動機 vs. キヤノン|トップリーグ 2021 第4節
「運動量はしっかりトレーニングしてきたつもりでした」(キヤノン・沢木監督)
徹底した奇襲攻撃、複層的な攻撃のためのフィットネスが、キヤノンにはあった。
ヤマハ発動機は自慢の強力スクラムで序盤から圧倒しながら、ラインアウトのミスもあり惜しい場面が続き、得意のスタイルに持ち込めない。
それでもヤマハ発動機は前半39分、ラインアウトモールから、この日気合十分だったSH矢富勇毅のトライ(ゴール失敗)で4点差(8-12)に詰め、後半へ向かった。
後半最初のトライはヤマハ発動機。
ヘル ウヴェ(ヤマハ発動機)
SH矢富の鋭いディフェンスから攻守交代が生まれ、スクラムから連続攻撃。WTB伊東力がギャップを突き、エリア外側で待機していたにヘルウヴェにパスを通して鮮やかな逆転トライ(ゴール失敗)。13-12とした。
しかしキヤノンは後半9分、またもCTBクリエルが突破から敵陣へ。ここからラインアウトモールで前進すると、大外展開からCTBクリエルが左隅にワンハンドで再逆転のトライ。
SO田村キャプテンが左隅からの高難度のコンバージョンも決め、19-13とリードを奪い返した。
さらに後半13分にはハイテンポの攻撃に貢献したSH荒井康植が、SO田村のショートパント&正確なドリブルを再獲得して連続トライ。リードを13点に拡大した。
その後お互いに1トライずつを奪い合い、キヤノンの15点リード(33-18)で迎えた後半33分。
残り7分で15点をひっくり返す必要があるヤマハ発動機だったが、ここでキヤノンから反則の繰り返しによりシンビン(10分間の一時退出)が出て14人に。
ここからヤマハ発動機が一気呵成に波状攻撃。後半32分にLOヘルウヴェが大迫力の突進からインゴールを奪うと、同35分には途中出場した2年目の中井健人がサポートランからトップリーグ初トライ。
最終盤、残り5分で、ついに1点差(32-33)と迫った。
ここで流れを取り戻したのはキヤノンの途中出場組だった。
まずは長年キヤノンを支えてきた12年目の三友良平が背走しながら相手FB五郎丸にタックルを浴びせ、ノックオンを誘う。
このボールを途中出場のフィニッシャー、キヤノンのホセア・サウマキに渡り、無人エリアへ特大キック。元気いっぱいのサウマキはトップスピードに乗ると、捕球した相手を敵陣ゴール前で捕まえてターンオーバー。この日はサウマキのリザーブ起用も采配的中となった。
この場面で、途中出場の田中史朗が右へパスアウト。大外までボールを運び、センターとしての突破力もあるWTBマイケル・ボンドが後半37分、決定打となるトライを奪取。鍛えたフィットネスも奏功し、14人でトライを奪ってみせた。
SO田村キャプテンのゴール成功で40-32。その後に時間をうまく消費してノーサイド。新体制での初勝利に選手は雄叫びを上げた。
2敗目を喫したヤマハ発動機の堀川隆延GM兼監督は「いろんな思いのつまったゲームでしたが、勝利できなかったことは非常に残念。自分達に足りないものがたくさんあった」
「まずディフェンスは、ヤマハ発動機にある掟(おきて)を自分達で守れなかった。アタックにおいては、自分達のやりたいアタックをする時間が本当に少なかった。立つべきポジショニングをとれなかったことに尽きます」と敗因を語った。
ヤマハ発動機の次戦は、BYE(休みの週)を挟んで3月27日(土)。いよいよ開幕4連勝の18年度王者、神戸製鋼と東大阪市花園ラグビー場で激突する。
そして今季初勝利を挙げたキヤノンの沢木監督は「イーグルスのラグビーを――まだまだ下手くそですが――しっかり遂行する信頼する力は出てきたと思います」と前向きなコメントを残した。
今季2勝目が懸かるキヤノンの次戦は、同じ3月27日、神戸製鋼と1点差の激闘を演じた1勝3敗のリコーと、東京・秩父宮で相まみえる。
その秩父宮では、休養週の予定だった3月第3週の週末に試合が入った。
日本ラグビー協会は3月15日、雷雨の影響により中止となったトップリーグ第4節の東芝×サントリー(秩父宮)とNEC×日野(千葉・柏の葉)が、それぞれ3月20日(土)、21日(日)に決まったと発表した。2試合のチケットはあらためて販売される。
名勝負の試合後は、永く記憶されるべき英雄達による惜別のスピーチがあった。
五郎丸歩(ヤマハ発動機)
ヤマハスタジアムでのラストゲームとなったFB五郎丸がマイクスタンドに向かい、会場に向けてスピーチ。敗戦の悔しさを抑え、万感の思いを語る姿は流石のひと言だった。
五郎丸「本日はスタジアムに足を運んで頂き、ありがとうございました。私がこの磐田にきて13年が経ちますけども、本当に苦しい時もありましたが、皆さんの支えでここまでラグビーを続けることができました」
「今シーズンをもって引退ということで、今日がヤマハスタジアムでの最後の試合でした。勝って皆さんに恩返しをしたかったですが、負けてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいです。残された試合をチーム一丸となって戦い、皆さんに良い報告ができるようにしたいと思います。本当に長い間ありがとうございました」
また、母校・早大の新監督に就任する大田尾コーチング・コーディネーターも挨拶に立った。
スピーチ前には会場のビジョンにビデオメッセージが流され、その中には大田尾氏とは師弟関係にあり、早大、ヤマハ発動機の元監督である清宮克幸氏からのコメントもあった。
清宮元監督「竜彦、ヤマハでの17年、本当にお疲れ様でした。20年前、赤いスパイクを履いた早稲田ラグビーの10番、大田尾竜彦は清宮幸太郎(清宮氏の長男/プロ野球選手)の憧れの人でした。カッコ良かったよ」
「日本一になって、日本一になれなくて――でも最高の青春時代を過ごしたと思う。学生達にそんな最高の青春を与えてやってほしい。多くのファンや子供達に夢、憧れを見せてあげてくれ。早稲田ラグビー部の監督はそういうことができる仕事です。さあ、楽しむしかないね。大いに期待しています。そして何でも協力する。頑張れ」
ビデオメッセージの後、大田尾竜彦はマイクを通して、ヤマハスタジアムのファンへこう語りかけた。
「こういう映像があると思わなかったのでビックリしました。ありがとうございました。本当は勝ちたかったですが、負けちゃうもんだから――そこは次への課題かなと思います」
「本当にこの17年間、たくさんの思いが、このグラウンドにあります。良い思い出も、辛い思い出もあります。だけど、僕の回りにいるヤマハの人達は輝いていました。早稲田に行って、選手達を輝かせたいと思います。この時間は僕の人生の誇りであり、最高に幸せです。長い間本当にありがとうございました。次のステージで頑張っていきます」
文:多羅 正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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