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ラグビー コラム 2021年2月2日

解説者、お客さんになる ~トップリーグ 開幕を待ちながら~

be rugby ~ラグビーであれ~ by 藤島 大
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解説者、お客さんになる ~トップリーグ 開幕を待ちながら~

いきなりファイナル。トップリーグである。「開幕がすでに決勝」。イベントのへたくそな宣伝文句みたいだけれど本当なのだ。昨秋からの大学ラグビー、年をまたいだ花園の試合の数々を取材、解説するうち、そう実感した。

言葉にすると「頂点へ至る道を追いかけている感じがしない」。天理のあっぱれな優勝で幕を閉じた大学、桐蔭学園の底力にうんうんうなずくばかりだった高校、チャンピオンのみならず、そこへ続く勝負のどれもが、うまく書くのは難しいが、同じ価値をたたえるように映った。

「コ」の次に「ロ」とキーを打つのはつくづくあきた。でも、いわゆるコロナ禍のせいというかおかげである。こんな状況にも開催できた。いつ何が起こるかわからない。次の試合は成り立つのだろうか。だから「ひとつずつ」の試合がどれも決勝、あとのない、そこだけで独立しているという意味でのファイナルに思えた。

白状すると2月20日にようやくカーテンを巻き上げるはずのトップリーグの優勝決定までの細かなフォーマットをよく忘れる。どうでもいいのだ。と、つぶやいては投げやりで叱られる。そうではなくて、いまここだけの勝負に集中したい。

トヨタ自動車ヴェルブリッツと東芝ブレイブルーパス。ともに骨のぶつかる音をクラブの養分としてきた巨人の激突。先発の布陣はまだ不明なのに想像はふくらむ。

トヨタのキアラン・リード、オールブラックスのキャップ127のナンバー8が前へ出る。東芝の徳永祥堯、ワールドカップで給水を担いながらラグビーの力を磨いた男、海外出身の大男にやけに強い好漢が、ボールを叩き落とそうと、鋼なのにしなる上体をぶつける。ファイナル!

神戸製鋼コベルコスティーラーズとNECグリーンロケッツ。スクラム。ヘアスタイルが変わらないならブロンドの短髪、中島イシレリ、天然モップ頭の瀧澤直がそこにいる。力と技と思考の深さを競う。ファイナル!

キヤノンイーグルスとNTTドコモレッドハリケーンズ。前者を率いる45歳の沢木敬介監督は日本のラグビーを熟知、なお世界の潮流をわかる。後者の50歳、ヨハン・アッカーマンHC(ヘッドコーチ)はかつてスーパーラグビー屈指の指導者、日本を知ろうと異国の地に大きな足をつける。意地の激突。

忘れてはいけない。キヤノンのキャプテンはジャパンの10番、田村優。きっと自然体だろうリーダーシップを記憶の倉庫に積み上げたい。そういえば、この負けず嫌いの頭脳はドコモ新加入のマカゾレ・マピンピにワールドカップで抜かれた。忘れるはずもない。ファイナル!

なんて『ラグビーマガジン』の選手名鑑のページを繰りながら開幕節の日程とすりあわせては展開や場面を勝手に思い描く。

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三菱重工相模原ダイナボアーズはサントリーサンゴリアス、日野レッドドルフィンズはヤマハ発動機ジュビロにそれぞれ挑む。過去の戦績に鑑みるなら力の差はある。しかし、再編前の最後のトップリーグには現況ゆえの別の要素が加わる。

「ラグビーをできる喜び」がそれだ。仲間と肩を組み、憎らしいのに敬いたくなる相手と芝の上で戦える。ひとつの試合のひとつの瞬間は、どこかへつながるのではなく、ただ眼前にある幸福である。理屈ではない根源的な心情がチームという束と化すと、限界のありかは移る。挑戦者の力は伸びる。よりたくさんの喜びを覚える側がきっと勝つ。勝てないまでも鋭く迫る。と、これも想像なのだが。

スポーツを報じる仕事をしている。職業の鉄則は「お客さんになるな」。取材パスをもらい一般の観客のアクセスできぬ場所へ入るのだから、おのれが喜んだり悲しんだりしてはならない。だが、しかし、されど、2021年のトップリーグについてはラグビーをできて喜ぶ者を見つめて、こちらも喜びたい。「どこが強かったか」でなく、そのつどの「どちらが強いか」をファンの心で楽しみたい。ここは正直に、あのワールドカップ日本大会の直前より現在のほうが「早く始まり、いつまでも終わるな」という気持ちに支配されている。

文:藤島 大

藤島大

藤島 大

1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。『 ラグビーマガジン 』『just RUGBY 』などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。

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