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いまアルゼンチン代表は騒動の真っ只中にいる。
10月31日(土)に開幕した南半球3か国対抗戦「トライネーションズ2020」はいよいよ最終ラウンド(第6戦)。
ともに1勝1敗1分け(総勝点6)で並んでいるアルゼンチン代表“ロス・プーマス”と、オーストラリア代表“ワラビーズ”が、12月5日(土)、オーストラリアのシドニー(バンクウエスト・スタジアム)で激突する。
優勝は総勝点11(2勝2敗)で首位に立つニュージーランド代表“オールブラックス”が濃厚だ。勝点で並んでもニュージーランドの得失点差は「64」。一方のアルゼンチンは「-28」、オーストラリアは「-36」となっている。
オールブラックスの優勝が濃厚となり、世界のラグビーファンの注目はいま、渦中のアルゼンチンに向けられているかもしれない。
アルゼンチンの今大会は歓喜で始まった。
大会初陣となった第3戦で、オールブラックスに25-15で歴史的な初勝利。1985年の初対戦から30度目での快挙達成だった。
しかし試練は突如としてやってきた。
アルゼンチンは1勝1分けで迎えた第5戦で、連敗脱出に燃えていたオールブラックスに完敗。試合後にチーム公式のSNSがいわゆる「炎上」状態となった。
この試合が行われた11月28日の3日前、母国アルゼンチンの国民的英雄で、元サッカー・アルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナ氏が心不全のため60歳で死去していた。
チームは喪章代わりの黒いテープを腕に巻いて試合に臨むなどしていたが、一部の人びとが、そうした追悼行為がマラドーナ氏の名前が入った特製ジャージーを贈ったオールブラックスに比べると控え目であり、また、にわかに追悼試合の意味を帯びた試合で完敗(0-38)したことなどを問題視したようだ。チームの公式SNSに多くの不満が書き込まれた。
この騒動を受けて、アルゼンチン代表は釈明動画を公表。マリオ・レデスマHC(ヘッドコーチ)をはじめ50人以上の選手・スタッフが神妙な面持ちで画面に向かい、FLパブロ・マテーラ主将が代表して釈明をした。
しかし事態は収拾に向かわなかった。
この騒動の過程で、マテーラ主将(27歳)らが過去に投稿した人種差別ツイートが明るみとなり、アルゼンチン協会は11月30日付けで「いかなる憎悪発言も強く非難すると同時に、そうした考えの選手が国を代表することは許されない」として、主将の地位を剥奪すると共に、同代表のギド・ペティ(26歳)、サンティアゴ・ソシーノ(28歳)を含めた3人を出場停止処分としたのだ。
ただ同協会によれば差別的ツイートの投稿時期は2011年から2013年。マテーラ主将の場合では代表デビュー前だった10代での投稿であり、この処分の妥当性は論争の的になった。
すると12月3日(木)、ふたたび事態は動いた。
アルゼンチン協会が、3選手が「深い後悔を表明して謝罪を繰り返している」「8年以上同じような行動を繰り返していないこと」などを理由として、懲戒処分は継続されるものの、出場停止処分を解き、マテーラに関しては主将に復帰させると発表したのだ。
ただマテーラ主将を含めた3選手はオーストラリアとの大会最終戦には出場しない。指揮官のレデスマHCは、3選手が過去にしたことを認め、深く後悔し、恥じているとした上で付け加えた。
「私に言えることは、彼らが17、8歳の時と同じ人間ではないということです。いま彼らは家族を愛する素晴らしい人間です。パブロ(・マテーラ主将)には子供もいます。彼は素晴らしいリーダーであり、素晴らしいお手本です」(アルゼンチン・レデスマHC)
アルゼンチン代表の選手、スタッフが感情の乱高下を味わったことは想像に難くない。しかしそれでも大会最終戦はやってくる。ここでふたたび敗れれば――これから母国に帰るはずのチームは、尋常ではない危機感を覚えているだろう。
【アルゼンチン】スターティングメンバー
レデスマHCはその完敗したニュージーランド戦から、土曜日の最終戦へ向けて先発11人を変更した。
ゲームキャプテンを務めるのはスーパーラグビーのハグアレス(ジャガーズ)での主将経験もあるCTBヘロニモ・デラフエンテ。
4戦連続のスタメンは3人おり、長きにわたり元代表主将クレービーの2番手だったHOフリアン・モントージャ。
2人目は世界最高峰のバックローワーでもあるLOマルコス・クレメル。3人目はここまでチーム全得点を挙げているSOニコラス・サンチェスだ。
一方のオーストラリア。
ピッチ外の騒音に惑わされず、今年最後のテストマッチを勝利で飾りたいところだろう。
大会開幕戦では5-43でオールブラックスに大敗したが、第2戦では24-22で黒衣軍に雪辱を果たした。
そして2週間前の11月21日(土)第4戦では、堅守のアルゼンチンと15-15で引き分け。
その前戦から、指揮官のデイヴ・レニーHCは先発2人を変更してきた。
【オーストラリア】スターティングメンバー
タニエラ・トゥポウに代わりPRアラン・アラアラトアが3番をつけ、そして10番には膝の負傷から復帰したSOジェームズ・オコナーが入った。先発10番を務めていたロングキッカー、リース・ホッジは15番(FB)でのスタメンだ。
キャプテンは代表104キャップのFLマイケル・フーパー。チーム最多の105キャップを誇るのは身長200センチのLOロブ・シモンズだ。
11月に21歳になったばかりのNO8ハリー・ウィルソンは、全4試合に先発する活躍。今年デビューながら195センチの体躯を活かし、猛者揃いのワラビーズで突進役の8番を任されており、これからもワラビーズの主軸を担うに違いない。
前回対戦はドロー決着だったが、今回は果たしてどんな展開が待っているのか。アルゼンチンは鉄壁のディフェンスをベースに、PG(ペナルティゴール)で加点するパターンに持ち込めるか。
オーストラリアはアルゼンチンの守備力は百も承知だ。防御裏へのショートキックも織り交ぜながら、セットピース(スクラム、ラインアウト)の安定を基盤として、工夫を凝らしてインゴールに迫りたい。
大会最終戦となる「オーストラリア×アルゼンチン」は12月5日(土) 午後5:30よりJ SPORTS 4で生中継、J SPORTSオンデマンドでLIVE配信される。
渦中のアルゼンチンがどんな闘いを見せるのか。オーストラリアは年内最終戦を勝利で締めくくれるか。激戦は必至だ。
文:多羅正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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