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世界に勇名を馳せるラグビー界の常勝軍団、ニュージーランド(NZ)代表“オールブラックス”が、試練の刻を迎えている。
10月31日(土)に開幕した全6戦の南半球3か国対抗戦「トライネーションズ2020」は第5戦。
1勝2敗のオールブラックスは11月28日(土)、オーストラリア東海岸のニューカッスル(マクドナルド・ジョーンズ・スタジアム)で、第3戦で黒星を喫した1勝1分けのアルゼンチン代表とふたたび相まみえる。
オールブラックスは通算勝率が8割に迫る常勝軍団。世界ランキングでは2009年11月から、約10年間もの長きにわたり1位に君臨していた。
しかし本稿執筆時点(11月27日)で世界ランクは3位にまで後退している。
オールブラックスは大会初戦こそオーストラリアに43-5で大勝したが、第2戦では22-24とオーストラリアに競り負けた。
そして第3戦でアルゼンチンに15-25に歴史的敗戦。
“ロス・プーマス”の愛称を持つアルゼンチンは1985年の初対戦から30度目の挑戦でNZから勝利を奪い、指揮官の元代表HO、マリオ・レデスマHC(ヘッドコーチ)は試合後のインタビューで「信じられない」「選手を誇りに思う」と涙を拭った。
オールブラックスにとってテストマッチの2連敗は、実に2011年以来9年ぶり。当然ながらと言うべきか、熱狂的な一部のオールブラックス・ファンはイアン・フォスターHCらの指導力に疑問符をつけた。
こうしたファンの反応に対し、NZ代表のFLサム・ケイン主将が「私たちも残念に思っている」と理解を示しつつ「僕らには素晴らしいファンがいるが、中にはきつい意見を言う人もいる」などとコメントしたことで、現地報道・論争はヒートアップ気味だ。
2連敗でこの騒ぎなのだから、これが3連敗となれば一体どうなるのか。オールブラックスにとってテストマッチ3連敗は1998年以来22年ぶり、今世紀では初めてという屈辱だ。
しかし勝利を欲する餓狼となったオールブラックスは強い。2019年W杯では準決勝でイングランド代表に完敗したが、続く3位決定戦でウェールズ代表にきっちりと大勝(40-17)している。
果たして連敗脱出は成るか。雪辱戦に向かうオールブラックスのメンバー23人が発表されており、前回のアルゼンチン戦からは先発で3人の変更があった。
【ニュージーランド】スターティングメンバー
先発変更はすべてフォワードで、PRネポ・ラウララ、LOスコット・バレット、そして代表2キャップ目となるFLアキラ・イオアネが6番を任された。
一方、NZ戦の初勝利が世界で賞賛されたアルゼンチン。
今年は新型コロナウイルスの世界的流行が直撃し、9月にはアルゼンチン・ラグビー協会がレデスマHCとコーチ2名、代表選手5人の新型コロナウイルス陽性を発表した。
レデスマHCは「選手の中には4か月間家族に会えなかった者もいる」と語っており、6月にスーパーラグビー国内大会でプレーを再開したNZ選手たちと実戦経験に差があった。
テストマッチは19年W杯から約13か月ぶり。そんな不利を跳ね返し、歴史上初めて黒衣軍を撃破したうえ、続くオーストラリア戦では15-15で引き分けた。
NZ戦の歴史的勝利を「アルゼンチン・ラグビーにとって偉大な日」と振り返ったアルゼンチンのFLパブロ・マテーラ主将は、チームを突き動かしている大義を熱く語っていた。
「現時点で私たちの国は最も厳しい時期にあります。だから私たちは(アルゼンチンの)人びとに『もしあなたが戦い、ハードワークをするなら、あなたが求めるものを手に入れられる』と伝えたかったのです」
アルゼンチンの新型コロナ感染者は、NZ戦があった11月14日午後5時時点(米ジョンズ・ホプキンス大の集計)で世界ワースト8位の129万6378人。死者は3万5045人に上っていた。
母国民のために――。そんな大義を掲げ、鉄壁の守備を敷いて快挙を成し遂げた姿は、19年W杯を制覇した南アフリカ代表にも重なる。
【アルゼンチン】スターティングメンバー
アルゼンチンの出場メンバーが発表されており、NZ戦と先発14人が変わらなかったオーストラリア戦から、大胆にも先発10人を入れ替えてきた。
変わらなかった5人はFLマテーラ主将、HOフリアン・モントージャ、LOギド・ペティ、FLマルコス・クレメル。そして、ここまでの2試合でチームの全40得点(1T、1G、11PG)を記録しているSOニコラス・サンチェスだ。
バックスは7人中6人が代わる大幅変更。
ウイングはハムストリングを負傷したファン・イモフに替わって、11番でサンティアゴ・コルデーロが先発し、ラミロ・モジャーノと両翼を担う。フルバックは19年W杯代表でもあるロングキッカー、エミリアーノ・ボフェリが務める。
アルゼンチンのレデスマHCは試合へ向けて「彼らにとってチームのアイデンティティと文化を構築し続ける大きなチャンス」と語っており、「心配していない」と自信を覗かせた。
また指揮官は11月25日に60歳で死去した母国の英雄、サッカー・アルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナ氏について「彼はこの(アルゼンチン)ジャージのためにどうプレーすべきかのお手本だった」とコメントしている。
ここまで今大会で無敗(1勝1分け)のアルゼンチンだが、2試合で挙げた40得点中33得点はペナルティーゴール(PG)によるもの。アタックについては議論の余地があるだろう。
当然ながらオールブラックスは前回対戦で乱れた規律を改善し、アルゼンチンの得点源になっているPGを可能な限り回避したい。
アルゼンチンとしてはオールブラックスの規律が改善された場合に、どんな二の矢、三の矢を放つことができるか。まずはセットピース(スクラム、ラインアウト)で優位に立ち、堅固な土台を築きたいところだ。
激戦が予想される「アルゼンチン×ニュージーランド」は日本時間で土曜日の夕方にキックオフ。11月28日(土)午後5:30よりJ SPORTS 4で生中継、J SPORTSオンデマンドでLIVE配信される。
オールブラックスのプライドか。それともアルゼンチンの大義か。土曜日夕方のキックオフが今から待ちきれない。
文:多羅正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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