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雑草軍団がホームで輝いた。
ピューマズvsストーマーズ
10月9日(金)開幕の南アフリカ国内大会「スーパーラグビー(SR)アンロックト」で、SR初参戦を果たしたピューマズ。
1勝1敗で迎えた10月24日(土)第3節は、本拠地のムボンベラ・スタジアム(ネルスプロイト)に、1勝0敗の強豪ストーマーズを迎えた。
ピューマズは南アフリカで120年以上の歴史を持つ国内選手権「カリーカップ」の参加チームだが、優勝をしたことはない。
豊富なタレントを誇るわけでもなく、ストーマーズ戦のメンバー23人に南アフリカ代表“スプリングボクス”の経験者はゼロ。
年代別代表(高校、U20等)の経験者すらFLフランソワ・クライハンス(U20代表)、SOエドゥアルド・フォウチェ(高校“A”代表)、リザーブのPRリアム・ヘンドリクス(高校代表)の3人のみだ。
いわばピューマズは、地道に力をつけてきた実力者たちが集う“雑草軍団”と言えるだろう。
対照的にストーマーズは“スター軍団”だ。
チームの顔は2019年ワールドカップ(W杯)南アフリカ代表でも主将を務め、優勝杯を掲げたFLシヤ・コリシ。
ダミアン・ヴィレムセが直前にメンバー外となったものの、そのほか4人のW杯メンバー(PRフランス・マルハーバ、HOボンギ・ンボナンビ、SHハーシェル・ヤンチース、FBウォリック・ヘラント)が先発に並んだ。
さらには南アフリカU20代表でキャプテンを務めた22歳のLOサラマン・モエラットなど、将来のスプリングボクス入りを期待される若手有望株も多い。選手層ではピューマズを圧倒しているだろう。
だからこそ下馬評はストーマーズ有利だったが、試合は予想外の展開となった。
ストーマーズは前半から青息吐息。ピューマズは前半を16点リード(30-14)で折り返し、後半20分過ぎまで、なんと23点のリードを獲得していた。一体なにがあったのか。
【ハイライト】ピューマズvsストーマーズ|スーパーラグビー2020 南アフリカ ラウンド3
この日のピューマズは、まずキックゲームで優勢に立った。
ハーフウェイライン付近でもSOフォウチェ、FBデボン・ウィリアムスが左右のエリア隅を狙い、効果的なキックを蹴り続けた。
ストーマーズはキックゲームで後手に回ると、ピューマズは敵陣ラインアウトから準備したサインプレーから鮮やかに2トライ(前半13、32分)を挙げた。
強力FWを擁するストーマーズはセットピース(スクラム、ラインアウト)から反転攻勢をしたかったが、ラインアウトの精度は前節ライオンズ戦に続いて低く、スクラムでは前半はピューマズも崩れなかった。
戦前の注目ポイントだったモールの攻防は、ストーマーズが前半3回のラインアウトモールを組んだものの、いずれもピューマズに止められた。
ストーマーズはモールという強みを消され、さらには前半26分にキャプテンのFLコリシが負傷退場。リズムに乗れぬままリーダーも失い、16点ビハインド(14-30)で後半へ向うことになった。
ピューマズは後半4分、NO8ヤンドレ・ルドルフが不要なラフプレーでシンビン(10分間の一時退場)となったが、ストーマーズは14人のピューマズ相手にもモールの不発、ハンドリングエラーなどでトライを取れず。
逆にピューマズはFBウィリアムスのロングキックで陣地を挽回すると、後半11分。
この日はジャッカルや突破で大活躍だったCTBウェイン・ファンデルバンクがミスマッチから抜け出し、WTBネイル・マリッツのトライを演出。
トライ後、前半に負傷退場したSOフォウチェにかわり途中出場のニール・マライスが難しいゴールキックも決め、リードを23点(37-14)に広げた。
残り20分で、点差は23点。
しかしここからゲームはひっくり返る。逆転劇のきっかけはスクラムだった。
ストーマーズはこの日70分以上出場したHOンボナンビを中心に、後半はスクラムで再三のコラプシング(スクラムを崩す反則)によるペナルティを奪取した。
ストーマーズはスクラムでの優位から敵陣に入ると、SHヤンチースのパスから途中出場組のフォワードも力強いキャリーを繰り返し、徐々に劣勢を跳ね返していく。
後半22分にはトライ(ゴール)が生まれてビハインドを16点とし、同31分にはこの日初めてラインアウトモールからトライ。残り8分でいよいよ9点差(28-37)とした。
ピューマズはこのキックオフ後、敵陣でボールを確保。
ここで攻撃をスローダウンさせれば勝利へ近づいたはずだが、SHギンター・スマッツがハイテンポで配球する判断ミス。ターンオーバーが生まれ、攻守交代直後のカウンターからさらに1トライが生まれた。
ストーマーズのゴールキックは不成功だったが、ついに2点差(35-37)に迫った。
そして逆転劇が生まれる。
ストーマーズは自陣で守勢に回ったが、SOティム・スウェルが相手WTBをタッチに引きずり出す好守。ここで攻撃権を確保すると、連続攻撃から最後は19年W杯のFBヘラントが内へ切れ込み、歓喜の逆転トライ。
試合後、トライ直前のパスがスローフォワードだったのでは物議を醸しているが、ピッチではトライが認められ、コンバージョンキックも決まり42-37。
ストーマーズが稀に見るカムバック劇で、今季2勝目を挙げた。
FLコリシ主将は負傷退場だったが、試合後に現地メディアへコメントを寄せ、「私たちは(前節ライオンズ戦に続いて)2週連続で勢いに乗るまで時間が掛かりすぎました。次の土曜日はブルズと戦います。同じ間違いを繰り返す余裕はありません」と次節ブルズ戦でのスタートダッシュを誓った。
2敗目(1勝)となったピューマズのLOピーター・ヤンセン・ファンフーレン主将は「私たちの崩壊によって勝利を逃したことにとても失望しています。素晴らしい前半の後に私たちは少し我を忘れてしまい、ボールが手につかなくなってしまいました」と痛恨の敗戦を振り返った。
しかし戦略的で勇敢だったピューマズの闘いは、多くのファンに刺激を与えたはずだ。
ピューマズの次節は1勝1敗のシャークスが相手だ。舞台はふたたび本拠地のムボンベラ・スタジアム。次こそ世界にアップセットを見せたい。
文:多羅正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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