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オーバータイムに劇的ドラマが待っていた。
大熱戦が毎週のように繰り広げられているニュージーランド版スーパーラグビー(SR)「アオテアロア」。
第6節の7月19日(日)は、開幕4連敗のチーフスが、本拠地のFMGスタジアム(ハミルトン)に1勝3敗のハイランダーズを迎えた。
名将ウォーレン・ガットランドHC(ヘッドコーチ)率いるチーフスだが、6月開幕のアオテアロアではまさかの開幕4連敗。
1週間のBYE(休養週)を挟んだこともあり、本拠地でなんとしても初勝利を挙げたいところだった。
勝利への執念は、前半の20分間に現れた。
チーフスは前半5分、FWユニット同士のパスから鋭角に走り込んだFLラクラン・ボッシャーが先制トライ。
さらに前半11分には、脳しんとうから復帰のCTBアントン・レイナートブラウンが、敵陣での5次攻撃目でトライラインを割った。
さらにハイランダーズのCTBロブ・トンプソンがハイタックルで一時退場(シンビン)している10分間で、チーフスは10点(1トライ1ペナルティゴール)を追加。
ここまで全4試合のトライ数がリーグ最下位の「5」だったチーフスが、入念な準備を感じさせる連続攻撃、ラインアウトモールで3連続トライ。
前半の約20分間で、24点差(24-0)をつけてしまった。
ただ指揮官のガットランドHCが昨年まで12年間率いたウェールズ代表のような、規律正しい鉄壁の守り、80分間の一貫性はいまのチーフスにはなかった。
前半30分、自陣でピンチとなったチーフスは、FLサム・ケイン主将がゴール前のラックで、ハイランダーズのSHアーロン・スミス共同主将の球出しを妨害。
勝利への執念が反則という形で現れてしまい、FLケイン主将は10分間の一時退場に。
このさいの連続攻撃でハイランダーズが1トライを返し、前半はチーフスが24-7とリードして折り返した。
後半にスタートダッシュを決めたのはチーフス。
後半2分、相手反則から縦長のラインアウトモールを見事に操りチーム4トライ目。残り時間およそ35分で、ふたたびリードを24点(31-7)とした。
しかしチーフスにとっては、ここからが悪夢の始まりだった。
ハイランダーズの共同主将の一人、HOアッシュ・ディクソンは試合をこう振り返った。
「前半の私達(ハイランダーズ)はペースが上がらず、多くの愚かなペナルティを犯し、上手くプレーしたチーフスを封じ込められませんでした。ただフィールドの端でプレーすることで状況が変わりました」
反撃の狼煙は後半7分。
敵陣右のラインアウトから2次攻撃目に、振り戻すとみせかけ、順目方向にアタック。
エリアの端に配置されていた好ランナーのSOミッチェル・ハントが見事に突破し、そのまま左隅へチーム2トライ目。31-12
畳みかけるハイランダーズは後半16分、WTBジョシュ・マッケイの突破からSHスミス共同主将が絶妙なサポートランから独走し、さらに持ち込んでチーム3トライ目を挙げた。31-19
チーフスは敵陣でのハンドリングミスも重なり追加点を奪えない。後半24分のFBダミアン・マッケンジーのトライも、それ以前の反則によりノートライ判定となった。
残り10分間で、チーフスのリードは12点(31-19)。
防戦一方のチーフスはピンチになると反則(ラックでのハンド)をする悪癖で窮地となるが、FLボッシャーのジャッカルで失点は免れた。
ところが後半35分、チーフスは攻守交代直後のキックを、FBマッケンジーがタッチラインの外に出さず、ハイランダーズがカウンターを開始。
楕円球はラスト10分で投入された7人制代表のジョシュ・ナレキへと渡り、長いインプレーで消耗していたチーフスFWを難なく振り切って、左中間にトライ。
SOハントのゴール成功で、ハイランダーズがついに5点差(26-31)に詰め寄った。
失トライ後のリスタートでも反則があり、自陣へ下がってしまったチーフス。
開幕節ハイランダーズ戦での劇的ドロップゴールによる敗北(27-28)が脳裏をよぎった者もいたかもしれない。
ただこの大ピンチで、FLボッシャーがまたもジャッカル。ヒーロー的な大活躍でチームの窮地を救った。
残り時間およそ30秒で、チーフスのマイボール・ラインアウト。あとはボールをキープすれば今季初勝利が手に入る――。
ところが、ボールを無事確保し、ラインアウトモールを組んだチーフスだが、ここで痛恨のオブストラクションの反則。
ボールを後方に送った状態でモールの先頭が相手に当たり、ボールを持っていない相手プレイヤーを妨害してしまった。
「私達(チーフス)は勝利を手中に収めていました。本当にがっかりしています」(チーフス・FLケイン主将)
ケアレスミスがペナルティとなり急転直下、チーフスは絶体絶命。
ハイランダーズはSOハントの好タッチで、敵陣右ゴール前ラインアウトへ。得意のモールは防がれたが、SHスミス共同主将がモール横の大きなスペースに気が付いた。
SHスミス共同主将が左へ持ち出すと、そこへCTBパテレシオ・トムキンソンが走り込み、ゴールも成功し、歓喜の瞬間。
チーフスのコーチ陣はロスタイムの逆転負けによる、まさかの5連敗にきつく腕を組み、沈黙。
一方、ハイランダーズのコーチング・ボックスで、3年目のアーロン・メイジャーHC、日本代表でも活動するトニー・ブラウン アシスタントコーチは歓喜。
スリリングな劇的決着により、ハイランダーズが待望の今季2勝目を手にした。
文:多羅正崇
【ハイライト】 スーパーラグビー2020 アオテアロア第6節
チーフス vs. ハイランダーズ
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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