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胸が熱くなる「日本ラグビー名勝負」 新国立競技場にこだました早稲田大学“荒ぶる”の大合唱 三洋電機ワイルドナイツ、悲願のトップリーグ初制覇
村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一名勝負と言われる試合には、それなりの理由がある。久しぶりに見返してみると、忘れていたエピソードを思い出し、試合の価値を再認識させられる。昨年のラグビーワールドカップ(RWC)で活躍したコーチや選手の若い頃の顔もあり、意外に楽しめるのだ。J SPORTSは、4月15日~17日にかけて、トップリーグ、大学、高校の名勝負を再放送する。
大学ラグビーファンを喜ばせた最新の全国大学選手権決勝(2019年1月11日)も、ファンの記憶に残るものだった。大学ラグビー界で人気を二分してきた早稲田大学と明治大学は、大学選手権の優勝回数でもしのぎを削ってきた。2019年度までの優勝回数は、早大が15回、明大が13回と他大学を圧倒。毎年12月の第一日曜日に行われる両校の定期戦(早明戦)は、1980年代に人気絶頂となり、毎年、国立競技場は6万人超の大観衆で埋まった。
しかし、1997年度に初優勝を飾った関東学院大学、2009年度から9連覇を成し遂げた帝京大学の台頭によって、早明による決勝戦は、1996年度を最後に実現しなかった。
そんな時代が続いたのにもかかわらず、なんという因縁だろう。国立競技場の主役だった両大学が、新しい国立競技場で行われる最初の大学選手権決勝で顔を合わせることになったのだ。明大は連覇を目指し、早大は2008年度以来の優勝を狙っていた。2019年12月の早明戦は明大の36-7という快勝。下馬評では決勝戦も明大有利。しかし、好敵手の戦いはいつの時代も予測不可能だ。
2020年1月11日、生まれ変わった国立競技場には、57,345人の観衆が詰めかけた。早大をけん引したのは、SH齋藤直人キャプテン、SO岸岡智樹、CTB中野将伍。早明戦の完敗から学び、ブレイクダウンの激しさ、低いタックル、前に出る意識などの質を高め、スクラム、ラインアウトのセットプレーから次々に得点する。齋藤のPGで先制すると、ラインアウトからの攻撃でNO8丸尾崇真、CTB長田智希がトライ。その後も2トライを加え、前半だけで31-0と大量リードを奪った。明大も後半は反撃しSO山沢京平、WTB山﨑洋之のトライで一時38-28と10点差に迫り意地を見せる。終盤、疲労困憊ながら懸命に足を運ぶ両チームの戦いに胸が熱くなる。早大、11年ぶり歓喜の日本一。勝利の部歌「荒ぶる」が新国立競技場にこだました。
日本ラグビー最高峰のトップリーグにも名勝負は多いが、三洋電機ワイルドナイツ(現パナソニックワイルドナイツ)が初優勝を飾った試合は印象深い。三洋電機といえば、日本選手権7連覇を成し遂げた神戸製鋼の最強のライバルとして毎年のように神戸製鋼と僅差勝負を繰り広げながら、頂点に立ったことがなかった。その後、全国社会人大会ではサントリーとの同点優勝を果たし、日本選手権の制したが、2003年に発足したトップリーグのタイトルには縁がなかった。
4年連続のファイナル進出となった2011年1月30日、三洋電機は3シーズンぶりの優勝を目指すサントリーサンゴリアスと対戦した。三洋電機は飯島均監督、CTB霜村誠一キャプテン、サントリーはエディー・ジョーンズGM兼監督、NO8竹本隼太郎キャプテンが率いた。前半は「アグレッシブ・アタッキングラグビー」を掲げたサントリーがゲームを支配する。SH日和佐篤、SOトゥシ・ピシがゲームをコントロールし、前半は11-6とリード。
しかし、三洋電機の真骨頂は粘りのディフェンスからの切り返しだ。後半10分、ターンオーバーからWTB山田章仁のトライが決まる。NO8ホラニ龍コリニアシ、LOダニエル・ヒーナンの強烈なタックルは必見。HO堀江翔太、SH田中史朗、SOトニー・ブラウンは、RWC2019の日本代表選手とコーチ。すでに2019年の日本開催は決まっていた。しかし、このとき、日本代表の決勝トーナメント進出を現実的に語るコーチ、選手はいなかった。トニー・ブラウンが日本代表のコーチングスタッフ入りする話もない。そんな想像を膨らませながら見るのも面白い。
このほか、トップリーグ2015-16順位決定トーナメントファイナル パナソニックワイルドナイツ対東芝ブレイブルーパスの死闘。第84回全国高等学校ラグビーフットボール大会で戦後初の4連覇を達成した啓光学園(大阪)と天理(奈良)の戦いも見ておくべき試合だ。
トップリーグ2008-09プレーオフ決勝の東芝対三洋電機では、廣瀬俊朗キャプテンがMVPを受賞する活躍でチームを2年ぶり4度目の優勝に導く。LOは大野均、渡邉泰憲のコンビ。FLスティーブン・ベイツ、CTB冨岡鉄平ら東芝の黄金時代を支えたメンバーが懐かしい。渡邉は2010年に事故でこの世を去った。歓喜の優勝のはずなのに、勝った東芝の選手に笑顔はなかった。プレーオフ直前に部員のドーピング禁止薬物の陽性反応が明らかになり、暫定的出場停止処分が下っていたからだ。その後の日本選手権は辞退する可能性が高く(その後、辞退)、選手はシーズン最後の試合と覚悟を決めて戦った。東芝ファンや選手には辛い歴史だが、苦境の中で全力を出し切る東芝の選手たちのプレーに胸を打たれる。
文:村上晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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