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新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、ラグビーだけでなく、世界では様々なプロスポーツが中断に追い込まれている。スーパーラグビーも例外ではなく、第7節を持って一時中断となった。
そこで、J SPORTSでは、3月20日(金)からの1週間、スーパーラグビー参入5年目となったヒトコム サンウルブズの過去の全勝利をお届けする「サンウルブズ勝ち見せ!」を放送する。
5シーズンで9勝を挙げているサンウルブズだが、やはり思い出深いのはサンウルブズが歴史的初勝利を挙げた、2016年4月23日の第9節、ホームの東京・秩父宮ラグビー場で行われたアルゼンチンのジャガーズ(ハグアレス)戦だ。
当時、開幕からなかなか結果の出なかったサンウルブズは、1点差、3点差、5点差で敗戦と、惜しい試合が続いていたが開幕7連敗……。
勝てると予想されていたキングス(南アフリカ)にも黒星を喫してしまい、直前の第8節、初の南アフリカ遠征でチーターズに17-92で大敗して迎えたのがジャガーズ戦だった。
ジャガーズも2016年にサンウルブズと同時期にスーパーラグビーに参入したチームで、2015年ワールドカップでベスト4に貢献したアルゼンチン代表が先発11人、同代表経験者が14人という強力な布陣だった。
アルゼンチン代表でもキャプテン経験豊富なHO(フッカー)アグスティン・クレービーを筆頭にFL(フランカー)ファン マヌエル・レキザモン、パブロ・マテーラ、NO8(ナンバーエイト)ファクンド・イサ。
現在は引退した「キックの魔術師」SO(スタンドオフ)ファン・マルティン・エルナンデス、FB(フルバック)ホアキン・トゥクレットら、おなじみのメンバーが顔を揃えていた。
ただ、ジャガーズもサンウルブズ同様、初のスーパーラグビーに苦戦し、第8節までは1勝7敗と決して調子は上がっていなかった。
サンウルブズは4節以来の秩父宮ラグビー場での試合となり、1万4940人のホームのファンの前で初勝利を目指した。
この試合の先発メンバーを見ると、FW(フォワード)は、8戦連続先発出場のキャプテンHO堀江翔太を始め、左PR(プロップ)三上正貴、LO(ロック)大野均の2015年ワールドカップ組。
また、アメリカ代表FL(フランカー)アンドリュー・デュルタロが先発。控えにはPR具智元、HO木津武士の名前もあった。
BK(バックス)を見ると、ハーフ団はサントリーでも長年コンビを組んできたSH(スクラムハーフ)日和佐篤、SO(スタンドオフ)トゥシ・ピシのコンビ。CTB(センター)には立川理道が入り、控えのSO/CTBには田村優が入っていた。
キャプテンのHO堀江は「前節の試合に引っ張られるのは一番良くない。とはいえ、現状はしっかりと受け止めなくてはいけない。ただ、ポジティブにどうやっていくかが大切。シンプルに結果を出したい」と勝利に対する思いを率直に語っていた。
また、相手はアルゼンチン代表メンバーを中心とするジャガーズのため、やはり「セットプレーが強い。そこがキーになる」と話した。
写真:試合前、黙祷を捧げる選手たち
また、サンウルブズには負けられない理由がもう一つあった。
「九州の震災被害の人たちに、この前の試合で勝利を挙げたかったが、できなかったので、この試合で勇気や元気を何か与えることができたらと思っていた」とキャプテンHO堀江が話すように、4月中旬に起きた熊本震災の被災者のために、黙祷が捧げられた。
メンバー外の選手や、トップリーグの選手が試合前に募金活動をし、試合に出る選手たちは喪章代わりの黒いビニールテープを腕に巻いた。ホームのファン、そして九州を元気づけるため、サンウルブズはチーム一丸となって、試合に臨んだ。
前半からジャガーズに押され気味だったが、何とかスクラム、ラインアウトのマイボールをキープできたこともあり、前半は1トライを挙げて、13-18と5点のビハインドで折り返した。
だが、後半7分には、インターセプトからトライを許してしまい、この試合最大の9点差をつけられてしまった。しかし、ここからがアタッキングチームであるサンウルブズの真骨頂だった。
マイボールでは、ほとんど安定していたスクラムを起点として後半16分、SOトゥシとCTB(センター)立川理道がループプレーをおとりに、SOピシからCTBデレック・カーペンターにパス。
カーペンターがそのままトライ中央にトライ。ゴールも決まって23-25と再び2点差に追いつく。その後、ジャガーズが1本、サンウルブズが2本のPG(ペナルティゴール)を決め、残り10分でついにサンウルブズが29-28とリードする。
写真:トライを挙げたCTB立川
そして、もっともスタジアムが盛り上がったのが39分。ゴール前のスクラムからSOトゥシが仕掛ける。そこを狙っていたというCTB立川が、SOピシからからのオフロードパスをもらって中央にトライ。ゴールも決まって36-28でノーサイドを迎えた。
サンウルブズが7連敗の長いトンネルから脱し、開幕から8試合目でスーパーラグビーで歴史的初勝利を挙げた瞬間だった。
選手はファンと一緒に喜びを分かち合い、堀江キャプテンを筆頭に選手たちだけでなく、コーチ、スタッフ、関係者たちが目を赤くしていた。
「コーチングボックスで見ていて、思いがけない涙が出ました」というサンウルブズのマーク・ハメットHC(ヘッドコーチ/現・ハイランダーズコーチ)。
「選手たちの努力の甲斐あっての結果です。誇りに思う。前節、あのような結果になってしまったが、今日の試合で本来の姿を出せたと思います」と振り返った。
写真:接点で身体を張ったHO堀江
キャプテンHO堀江は「歴史的勝利を日本で挙げることができて、誇りに思います。常にポジティブに考えて前に進もうとしてきた。この前の試合も忘れて、悔しい気持ちだけを持ち続けて、この試合に向けて準備してきた。
BKも僕らを信じてスクラムを任せてくれ、僕らもBKを信頼していたのでスクラムに集中できた。チームが1つになったと思う」と、スクラムとチームが一つになれたことを勝因に挙げた。
結局、その後、サンウルブズはストーマーズとは17-17と引き分けたものの、勝つことができず、2016年のスーパーラグビーのファーストシーズンは、1勝1分13敗で終えた。
ただ、この1勝はスーパーラグビーに参入できないかもしれないという苦しい時期を乗り越え、さらに選手が集まらない、準備期間も短い、シーズンが始まっても移動距離も長いという悪条件の中、決して下を向かず、前向きに戦い続けたサンウルブズの渾身の勝利だった。
文/写真:斉藤健仁
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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